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ダンジョン守りを初めて三年、異動を促されている。  作者: 未色
第一章 ダンジョン守りと異動案内
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第18話 ダンジョン守りの閉め作業

 大量の核石を抱えてようやく地上に出た頃にはもう、日が傾きかけていた。

 ダンジョンに潜ったのは昼過ぎだったので結構な時間が過ぎていたことになる。


「あ、咲間さん! よかった、もしかしてお一人だけ戻ってこないかと思いましたよ!」

「なにを言っているの人間。私が戻してあげると言ったのだからそうするに決まっているでしょ」

「・・・なんでお前が答えてんだよ」


 俺のことを真っ先に見つけ心配してくれた佐藤さんに向い、なぜか頭上のミニ女神が答えた。


 どう考えても俺に対しての言葉だったから少しは空気を読んで欲しい。まぁ、無理だろうけど。


「あ、そちらのマスコットについては...みなさんからすでにある程度お聞きしていますので。しかし、流石に上も完全には看過できないので、一度こちらの方で預かると言う形でも?」

「えぇ、それはもちろん。縛って監禁でも何でもしてあげてください!」


 いやぁ、思ってもいない申し出助かるなぁ。預かるとかじゃなく永久にそちらの方で管理してもらって構わないんですよ。


 そんな気持ちで佐藤さんの言葉に首がちぎれるほど頷いていると、頭上からは不機嫌な声が。


「何を言っているのかしら。私はコレについていく、そう言ったのよ。なにを訳のわからない人間どものところになんて行かないとかないのかしら」

「お前なぁ...」

「何かしら? 私あなたについていく、と言っただけで言いなりになるなんて言っていないわ。どうしても、と言うならアナタも一緒よ」


 どんな言葉を吐いても上から目線なのにはカチンとくるが、完全に人間に対して非協力という感じではないらしい。


 あれだけこちら側を憎んでいたのを見た後だとどういう心情変化があったのかはわからないが迷宮庁の検査自体は受けてくれるらしい。

 もしかしたらドリスに体を吸収されたのが関係しているのかもしれないな。


 しかし、俺としてもまた検査所か、と面倒臭く思っていると突然走り寄ってきたメディア関係者らしい人からマイクとカメラを向けられた。


「お疲れのところすみません...! 私、日報テレビ報道局のものなんですけれど。すこし取材よろしいでしょうか?」

「え、あぁ、はい...」


 突然見ず知らずの人に話しかけられたことにより驚いて同意してしまった。ニュースとか映るんならやめて欲しいんだけどな...。


 改めて周りを見渡すと同じような報道関係者が集まっていた。察するにおそらく行方不明者が戻ってきたからなのだろう。


「ありがとうございます! では、早速。もしかしてアナタが彼らを救出したダンジョン守りさんですか?!」

「...まぁ...そう、なるんですかね?」


 佐藤さんや沖田さん達の方に確認しながら同意すると、それぞれ手を合わせて謝罪のポーズを取った。

 多分この人たちも取材を受けたのだろう。


「そうですか! するともしかして頭上のその小さな生物も関係が...?」

「ねぇ、なんなのこの人間達は? 私にこのような黒い物をむけて。よほど品と遠慮がない人間に見えるな?」

「おい、いらんこと喋るな。...こほん、まあ関係あるっちゃあるんですけど...それは迷宮庁さんに今後聞いていただく形で」

「で、では──」

「こちらの見解は後日公式に発表いたしますので! 今日のところ皆さんお疲れですので、お引き取り願います!」


 俺がこの後の質問をどう答えようか考えあぐねていると、隣から佐藤さんが助け舟を出してくれた。

 女神のこともあるし喋らせ続けるわけにはいかないと判断したのだろう。


 佐藤さんがメディアに向けて応対していると隣から服の裾を引かれた。


「・・・? まさか、ドリス? お前もの触れたのか?!」

「・・・」


 ドリスが物体に触ることができることに驚いていると、本人は今し方出てきたばかりのダンジョンに指を向けていた。


「・・・はぁ、やはりね。構えなさい、人間共」


 俺の困惑をよそに頭上の女神がよく響く声を全体に向けた。

 全員が何だ、と思っていると突然けたたましい音を立てて洞窟状になっているダンジョンの上部が吹き飛んだ。


「な、なんだ?!」


 土煙を上げながら現れたのは全身が泥に覆われ、ところどころ炎をあげる巨大な何か。俺の中にある知識だとダイダラボッチのような見た目だ。


「おい、お前アレのこと知ってんのか?!」

「まぁ。簡単に言えばこの迷宮の心部ね。暴れられると面倒だから時々人間達に祈らせてたのだけど...今回でそれもおしまいね」


 唐突にさらっと女神の口から人間を攫っていた目的も述べられた。その口ぶりからして行方不明者を救出してしまったからアレが出てきてしまったと言わんばかりだ。


「咲間さん! 何ですかあれ?!」

「いや、知らないですよ! 佐藤さんも知らないんですか?!」

「初めて見ます! マスコットはなんて?」

「この『渋谷ダンジョン』の心部...らしいです。とても面倒な存在だと!」


 佐藤さんと会話しているうちにも他の冒険者が即座に遠距離攻撃を放つ。その中には弓使いさんの姿も。


「やれー! お前達!」


 弓使いさんのその掛け声と共にさらに攻撃の数が増えた。


 その中でも弓使いさんの放つ矢は一線を画しており、女神に放ったのよりも威力の高い爆発を起こしている。


 効いてはいる。しかしこれといって有効打にはなっていない。

 泥のような巨体の特性もあるのか弓や魔法などの遠距離攻撃はその体にほとんど吸い込まれてしまっているようだった。


 さらに、現れた場所が場所なだけに俺のような近距離攻撃型の冒険者たちは攻撃をできずにただ見ているしかない。

 みんな同じような歯痒さを感じているとその巨体は腕の部分を無造作に振り上げ始めた。


 もしかして一斉に潰すつもりか?!


「まず──!」

「はぁ、落ち着け人間。それじゃ何のためのドリスちゃんの使い手かわからないわよ。今回はいい条件よ。一回だけ私の真似ができるわ。あとは自分でやってみなさい」

「は、はぁ?! なんのことだよ!」


 ミニ女神はこの切迫した状態で嘆息し、呆れたように俺に助言のようなことをしてきた。

 それ以降は喋る気がないようで黙っているが、何をできるんだ俺は。


 コイツの真似事? 何か変なことしてたかコイツ...?

 

「いい条件...真似...まさか?」


 咄嗟にドリスを見ても黙ったまま。違う、と言わないってことは俺が考えたことが合ってるってことか...?


 いや、取り敢えず違っててもやるしかない。


 そう考え、剣を地面へと突き立て声高らかに宣言する。


「...厄介、厄介だ。跪け!」


 その瞬間、俺の体が軽くなるのを感じるのと同時に前方の空間に圧がかかったように目の前の巨体は、『渋谷ダンジョン』の外壁を巻き込むようにして倒れ込む。

 

 いや、倒れ込むというよりは強引に押し潰されているような挙動だ。まさにあの時女神と初めて相対した時の俺たちのようだ。


「こういうことか...!」

「そう。ま、いつでもできると思わないことね。・・・何ぼさっとしてるの? 行きなさい」


 ミニ女神は頭上から尚も偉そうに俺と他の冒険者達にも響く声で語った。

 

 アレが倒れ伏している今なら近距離型の冒険者でも打つ手がある。

 皆一斉に駆け出していき、どこまで攻撃が通るのかは分からないが手当たり次第切ったら潰したり、燃やしたりする。


「・・・クビ」


 俺も隣のドリスの声を聞き、その巨体に対してこの剣もどこまで有効かは知らないがおそらく首であろうと思われる部分に向かい剣を振り下ろす。


 その瞬間、絶対に剣先が当たってないだろうと思われる部分にまで刃の衝撃が広がり巨大泥人形の首は胴体と切り離される。

 するとみるみるうちに全体が石のように固まっていき、ついに冒険者達の攻撃がまともに効くようになった。


「おぉ、これなら...」

「あとは任せてもいいんじゃないかしら。アナタはせいぜいふんぞり返ってなさいな」

「このアマ...どこまで傲慢な」

「なに? 悪いのかしら。生憎この見た目だけれど女神、よ私」


 この言い種のマスコットがずっと頭上に座っているのが酷く気に食わなくて禿げそうだが、一旦この場では我慢することに。


 ドリスは隣で相変わらず黙りこくっているのでこのまま皆さんの働きを見ていてもいいのだろう。

 みるみるうちに固まった泥人形は粉砕されていき、ついにモンスターと同じく溶けるように消え去った。それも『渋谷ダンジョン』まで巻き込む形となって。


*   *   *


「...ここ数日で一人の人間がしていい活躍じゃないことに驚きというか恐怖を抱えているのですが...本当にありがとうございます。特別報酬金的なものがおそらく、いえ確実に迷宮庁の方から出ると思います」


 泥人形の消滅を固唾を飲んで皆で見た後に、佐藤さんはそう語りかけてきた。


 ここまで色々あるともう何でも良く、というかこの先もまたなんかあるんだろうなという嫌な予感は抱えつつも、そのお礼の言葉を純粋に受け取る。


「ありがとうございます...。でも今回の件は全部俺一人の、ということじゃないですけどね?」


 大勢の冒険者の方に目を向けながら佐藤さんには曖昧にそう返した。

 沖田さんと斉藤さんはダンジョン内で、追撃できない俺のこと助けてくれたし。泥人形の残骸を処理してくれたのも皆さんだし。


 俺の言葉に難しい顔をしながらも佐藤さんは笑ってくれた。


「あの...ところで何ですけど。俺がここに置いてた核石の山のこと知りませんか...?」

「あ、確かに...。ないですね」

「何で、俺のトートバッグとエコバッグだけ...? あ、もしかして」


 あの時体が軽くなる気がしたのは持っていた核石の山が消え去ったからか? ということは今回あんな巨体を押しつぶすような真似ができたのは核石を消費したからか?


「お前...そういうことか?」


 頭上のミニ女神に恨みのこもった言葉をぶつけた。

 すると、ソイツは何でもないように続けた。


「えぇ、言ったじゃない? いい条件、一回だけ私の真似ができるって。なんで何の代償もないって思ったのかしら? ・・・ふふ」

「・・・こんのクソ駄女神がぁ!」


 金の恨みは怖い。そう心から思えるような、自分でもびっくりするくらいの声が人生で初めて出た。


 

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