第14話 ダンジョン守りの冒険①
『東部第六迷宮』は都心部にあり、難易度もそこそこということで多くの冒険者から人気を博していたダンジョンだった。その人気のおかげで一時期は入場制限が設けられていたほどだ。
しかし、咲間が管理している『東部第十五迷宮』に異変が現れる少し以前より行方不明者が急増するという難事に見舞われていた。事態を厳しく見た迷宮庁ならびに世間は次第にダンジョン封鎖を口にするようになっていた。
* * *
「うわ、都会のど真ん中のダンジョンなのに人全然いないな」
昼食時に佐藤さんからお呼び出しを受け俺はノコノコと『東部第六迷宮』通称『渋谷ダンジョン』へと赴いた。あの人すでに俺を冒険者だと思っているなさては。
「金に釣られた俺も人のことどうこう言えないけど」
最近起きているダンジョン内の行方不明者増加の解決を手伝ってほしい、という依頼だった。最近の事件のせいで人があまり寄り付かなくなっていることに加え篠塚さんはじめ、俺になじみのある高位冒険者はあいにく遠方におり都合がつかなかったそうで実力はS級相当になった俺に白羽の矢が立ったそう。
最初こそ電話で渋りまくったが、特別休暇として休日を二日延長することと迷宮内で採取する核石や素材はうまくいけば百万円以上に換金できるというおいしすぎる話を聞いてしまっては行かざるを得なくなった。…ま、まぁここで恩を売っておいてもいいわけですしね? 金にだけ釣られたわけじゃないしね?
「あ、咲間さん! お疲れ様です。すみません本当に」
「いえいえ、いつもお疲れ様です」
ダンジョン入り口辺りに来てみるとさっそく佐藤さんに発見された。やはり最近の事件のせいで人がいなさすぎるか。昔来た時にはテーマパークに来たのかと思うくらい賑わっていたのに。
「それで、さっそくで大変申し訳ないのですが中に入っていただいても…?」
「はい、それはかまわないんですけど…昨日お話した通り俺一人じゃモンスターを倒しきれないですよ?」
「はい、承知しております。ですので今回はこちらのお二方とご同行していただきます」
そう言った佐藤さんに紹介されたのは俺と同年代くらいの男女だった。
「はじめまして! 沖田って言います!」
「はじめまして、斎藤です」
女性の方は沖田さんで名前に違わず剣士風のA級冒険者。男性の方は斎藤さんで盗賊風と言ったらいいのか身軽で短剣を装備しているA級冒険者だ。
「はじめまして、咲間です。正規の冒険者ってわけじゃないんですけど何とかお二人についていきます」
挨拶もそこそこに済ませ佐藤さんに促されるままさっそくダンジョン内へと入っていく。今回会員証の提示は省かれたが、佐藤さんがここのダンジョン守りに前もって申請していたようだ。
中に入ってみると意外と『15ダンジョン』と似たような造りになっており、実家のような安心感を覚えた。とてもここ一週間で百人以上の行方不明者を出しているようには思えない。もしかすると『15ダンジョン』もいつか人飲みダンジョンへとなってしまうのだろうか。
…あんまり考えすぎると現実になっちゃいそうだから考えないようにしないと。
「——咲間さんって、ダンジョン守りされててつい最近A級冒険者になったんですよね? すごいですね!」
「え、ありがとうございます。…でも、冒険者の方からみたら嫌じゃないですか?」
「嫌ってどういうことですか?」
沖田さんと斎藤さんは佐藤さんから俺の経歴を軽く聞いていたらしく、道中でA級へと特進した俺の事を純粋に褒めてくれた。
しかしここ最近ずっと思っているのが、地道に階級を上げてきた冒険者にとって今までのほほんと暮らしてきていた一般社会人がたまたまラッキーでA級になるのはいかがなものか、ということだ。
「佐藤さんから聞いたかもしれないですけど、たまたまこの剣を拾ったことでA級になったみたいなもんなんで。皆さんからしたらズルしてるって思われてるんじゃないかと…」
「え? そんなこと気にしてたんですか? 斎藤さん思ったことあります?」
「いや、ないですね。あの、咲間さん。別にA級冒険者って席が限られてるとかないじゃないですか?」
「それはまぁ、はい」
「だったらどんな手段であっても、一人でも多くの人が上級冒険者になった方がいいと思いませんか? ダンジョンが安全に運営されるためにも、海外に対する防衛力的な意味でも。…まぁ、できないとは思うんですけど適性検査で不正を働いてA級冒険者の特権とか承認欲求的なものを得ようとしているのなら話は別ですけど」
「それはないですね...別に今までの生活と変わったところ特にないですし。正直言えば今回みたいな突然の呼び出しが増えるのはな~、って思ってるくらいです」
「それなら、僕たちがなにか悔しがるようなことはないですよ。中にはもしかしたらそう考える人もいるかもしれないですけど...まぁ人によりますね」
沖田さんと斎藤さんは至極当然のようにそんなことを語った。語り口からも嘘は言っていないように思える。確かに、上級冒険者が増えてその分ダンジョンからのリソースを多く得ることができて日本の生活が豊かになっていくならそう思うのか。
中には上級冒険者でアイドル的な活動をしている人もいると聞くし、そういった人から見たら妬みの対象になってしまうかもしれないがそれはどの業界でもあることか。
意外と冒険者から好意的に受け取られていることに安心し、進んでいるとさっそくモンスターが現れた。でも何か...色合いが暗いような。
「お、現れましたね」
「はい、でも…蜥蜴型のモンスターってあんな黒ずんだ色でしたっけ?」
「確かに、言われてみれば…。まぁでも蜥蜴なんで大丈夫でしょ!」
現れている蜥蜴型モンスターは全部で五匹。体長も一メートルほどと結構でかいが、これでも平均的なダンジョンでは低級モンスター扱い。A級冒険者が討伐することは赤子の手をひねるよりも簡単だろう。
「…ちがう」
「えっ?」
先に突っ込んでいった二人を追いかけていると横にいたドリスが喋った。違うって言われてもまだ攻撃しようとすらしていないが…。
そう思ったすぐ後、先に攻撃を仕掛けた二人から声が上がる。
「うわ! かった!」
「なんだこいつら!」
刃物同士がぶつかるような金属音がすると同時に二人の攻撃が弾かれていた。確かに蜥蜴型モンスターは強靭な皮膚を持つことで有名だが、A級冒険者の攻撃を完全に弾き返すなんて聞いたことない。
二人はすぐに後退し、距離を取った。
「どうしたんですか?」
「…硬すぎるよ、あいつら」
「僕の刃も全く通りませんでした。もしかして魔法師がいた方がよかったか...?」
よほど驚いたらしく二人とも冷や汗を拭っている。蜥蜴型は低級ではあるが油断していると高位冒険者でも怪我を負ってしまう。蜥蜴のような見た目だが牙と爪が非常に鋭利なので注意が必要なのだ。
「お二人でも…ん、ドリス?」
「…」
二人でも倒せなかった蜥蜴をドリスは指さしている。ドリスが指さすってことはこの剣だと切れるっていうことなのか? 確かにこの剣切れ味すごいけど二人の刃が通らなかった相手だぞ。
「ドリスって…?」
「あ~、この剣についている妖精というか幽霊みたいなもんで。多分俺にしか見えてないっぽいんですけど、こいつが言うにはこの剣なら切れるみたいで」
俺の独り言に困惑する二人に軽くだけ説明して、蜥蜴の方へと向かう。相変わらずドリスは群れの方を指さしてる。
ある程度まで近づいたところまで進むとその中の一匹だけをドリスは指さした。指の向く方は尻尾。え、蜥蜴なのに尻尾切るの? そこって敵から逃げる時のために自分で切り離すとこじゃないの?
「…まぁお前が言うんだから間違いないか」
「ギシャァァア!」
「うおっ」
テリトリーに入った瞬間、ドリスが指さしている一匹が突進してきた。素早いけれど四足歩行でペタペタと向かってくるので、避けることは簡単にできる。ちょっと健気でかわいいとすら思えてしまう。
「よっ!」
危なげなく尻尾に攻撃すると、これも驚くほどすんなりと刃が通り尻尾を切り落とすことに成功した。
「ギィヤァァ!」
蜥蜴の悲鳴にすこし心が痛んだが追撃をしようとすると、また隣から「ちがう」との声が。やはり、どんなに弱いモンスターでも追撃ができないらしい。初撃で敵を切ることはできるけどそれが致命傷にならないとしんどいなこのシステム。
「お二人とも! 多分俺が切りつけたやつにはもう刃が通ると思います!」
「えっ、はい!」
別の人による追撃はできてくれ、と内心祈りながら二人に声をかける。その間に他の四匹にもドリスが指定する箇所への攻撃を行う。最初の一匹がたまたま尻尾指定だっただけで他の四匹は別の個所を切るように指定してきた。そのうち一匹は首のあたりを指定してきたため、ソイツだけは俺単独で倒すことができた。
「ふぅ、全部致命傷になる場所指定してくれませんかねぇ」
「…」
「お疲れさまでした。すごいですねその剣…ドリス? っていう子もすごいですね」
「あんなに刃が通らないくらい硬かったのに咲間さんが傷をつけた途端スパスパ切れましたよ」
「ならよかったです。正直相変わらず刃が通らなかったらどうしようかと思ってました」
今回もドリスは蜥蜴の残骸に向かい指をさしていたのでその付近に剣を置いた。剣は前回と同じようにモンスターと一緒に消えて、また現れた。この工程いるの? 未だになにしてるかわかってないけど。
蜥蜴の核石を回収してダンジョンを進む。道中は『15ダンジョン』とは比にならないほど多く、強力なモンスターが多数現れたが二人のおかげもあって難なく突破した。蜥蜴型のように二人の攻撃が通らないモンスターもたびたび現れたがそれは俺が切っていった。
約三十分ほど進んだところで変な空間に出た。無駄に広い部屋のようで中央部分には蔦などが絡みついている噴水があった。ダンジョンに不釣り合いな明らかに人工物だが『渋谷ダンジョン』では憩いの場なのだろうか?
「あの、沖田さん...こんな場所なかったですよね?」
「えぇ、このダンジョンは何回か来ているけど初めて見ました。これが大量行方不明の原因…? にしては随分ときれいな場所ですね」
「え、お二人も初めて見るんですか? やけに人工的だなとは思っていたんですが」
「はい。『渋谷ダンジョン』は多くの人が訪れますがこんな人工物が作られたという話は聞いたことがありません。まず間違いなく元凶だとみてもいいと思います」
三人で警戒しながらその噴水の周りを散策してみたが、これといっておかしな場所はないように思える。噴水はこんなダンジョンの中にあるのにずっと水を吐き出し続けている。どこからどこに水が循環しているのかが気になったがそれよりなにより、この空間に踏み入れた時から思っていたことがある。
「あの水、すげぇ上手そうですよね…」
「はい、私もずっと思ってました。休憩にしましょうか…」
「賛成です…。ちょっと一休み」
異常に水がおいしそうなのだ。心境としてはスポーツをした後や夏場に外を歩き回った後にやっと水が飲めると思っているときに近い。少し小休憩を、と三人が同時に思い噴水へ近づき水を掬おうとしたとき、また横から「ちがう」との声が。
「はっ」
その声でボーっとしていた気持ちが一気に覚める。
「二人とも、待って!」
「「はっ...」」
声をあげると二人も同様に正気を取り戻したように背筋を伸ばした。あんなに飲みたいと思っていた水が今ではなんてことなくなっている。というか普通の噴水でも飲もうと思わないのに、ダンジョンの噴水の水をなんでこんなに飲みたいと思っていたんだ。
「…もしかしてこの誘引効果ですかね」
「だと、思います」
助かった、と思いドリスの方を向くと「ちがう」と言ったにもかかわらず噴水の方を指さしていた。
「なんだ? 違うんじゃないのか?」
「…なか」
「なか? え、あの噴水の中ってことか?」
「…」
「それは答えてくれよ…。でも違うって言わないってことはあの噴水の中ってことでいいんだな?」
「…」
ドリスの意思を信じて改めて噴水へと進む。さっき騙されかけた噴水に向かうのはおかしいかもしれないが、ことダンジョンにおいては俺の信じれるものはドリスの指示しかない。
「え、大丈夫ですか?!」
「多分…ドリスがそう言っているんで。もしやばそうだったら外に助けをお願いします」
意を決して噴水の中を覗くために縁石部分に手を置こうとしたが、なんの感触もなくすり抜けた。それと同時にバグ道を通る時のようなジジッという音が脳内に響く。
「あ、ここ多分抜け道みたいになっています! 入れますよ!」
「え、えぇ~…」
「でも、行くしかないんですもんね…?」
俺もこのまま進むのは嫌だったが二人が嫌がる様子を見るともっと嫌になってきた。ドリス、ホントにお前のこと信じていいんだよな? お前しか頼れないから頼んだぞ。
そうドリスに祈りながら三人で噴水の中心部へと足を進めた。




