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第12話 ダンジョン守りの帰還

 俺がボーっと空を見ている間に四人は危なげなく機械兵を倒し切ったようだった。今まで俺は機械兵を相手したことがないので本当に助かった。特に三ケ島さんはこれまでの騎士型との戦闘は何だったのかという風に、張り切って強力な攻撃を与え続けていた。


「ありがとうございます皆さん」

「いえ、咲間さんこそありがとうございます。あんなに簡単に真っ二つにするなんて」

「ほんとっすねぇ。やっぱその剣切れ味そんなにいいんですか? どう見てもそんな風には見えないですけど」


 三ケ島さんと河原さんが揃って剣を見ながら言った。三ケ島さんは大剣、河原さんはダガーのようなものが武器だから余計気になるのだろう。逆に森さんと篠塚さんは刃物を扱わないのでそっちのほうは気になっていないようだ。


「そんなことより咲間。あの時何と喋ってたんだ。一人で横見て」

「そうですよ。急に立ち止まって何してたんですか?」

「え…? 一人でって? ほらここ、子供いるじゃないですか」


 篠塚さんと森さんの言葉に疑問を覚えながら返した。今も現在進行形で俺の横にはドリスが立っている。相変わらず言葉を発したり動いたりはしていないけど。


「何言ってんだ? というか何が見えてる」

「え、もしかして皆さん...この子のこと見えてないんですか?」

「…さっきから何を言っているのかがいまいちわかりませんが、もしかして咲間さんの隣に誰かいるんですか?」

「はい...ホントに見えてないんですか皆さん」


 森さんと三ケ島さんは肩を寄せ合い一気に俺から距離をとった。あれ、もしかして冒険者なのに幽霊とかの類は苦手なのか。こんな子供よりももっと怖いモンスターとか別のダンジョンにいるでしょ、多分。

 篠塚さんと河原さんは俺の横辺りを顎をさすりながらジロジロ見ているがどうやってもドリスの姿は見えない様子。


「この子、といっても見えていないでしょうがドリスっていうらしいです。本人が言うには俺が持っているこの剣そのもののようで。さっき俺が機械兵を真っ二つにできたのもこいつが指示してくれたからで。でも、こいつが言うところ以外に攻撃しようとするとどうも体が固まっちゃって...」

「あー、だから途中から何もしなくなったのか。途中からやる気なくしたのかと思ったわ」

「篠塚さん言い方...。で、そのドリス君? ちゃん? はどこで?」

「あの、気を失っていた時です。急に目の前に現れて消えていったんですけど。あ、ドリスが言うには機械兵を倒すと外に出られるらしいんですけど」


 そう言い何か出口のようなものがないか全員で周りを見る。でも、特に何もないようだ。だだっ広い花畑がどこまでも続いている。これはこれで奇麗なので帰るのがもったいない。


「ドリス...ほんとに外出られんの?」

「…」


 ドリスの方を向くとまた無言で、倒した機械兵の方を指さしている。


「あいつはもう倒した...何かあるのか?」


 改めて地面に転がっている機械兵の残骸に近づく。今回はあの時の騎士型と違い大量の核石を落としている。大きさはバラバラだが一体のモンスターが落とすには数が多すぎるし、中にはバスケットボール大のものまである。


「やっぱあれだけ強いとこんなに核石落とすんだな」

「ですね…篠塚さんは受け取らないにしても取り分どうしましょうか」

「え、篠塚さん核石いらないんですか?」

「はい。篠塚さんは元ダンジョンモンスターですし、何よりあの検査所で生活を送っています。食事や衣類を必要としないので核石を換金する必要がないんです。迷宮庁でお世話されているので」

「三ケ島なんか俺に対してちょっとあたり強くねぇ? 俺結構助けたことある気がするんだけど」

「気のせいですよ。時々助かっておりますよ篠塚さん」


 今まで思ったことなかったけどもしかして三ケ島さんって篠塚さんの事嫌いか? どちらとも知り合ってまだ日が浅すぎるから何とも言えないけどなんとなくそう感じてしまう。


「それで、ドリス。何にもないぞここ。核石しか落ちてないし...」

「ボク...おいて」

「置いて...? あ、もしかして剣の事?」


 もしかしてあの時、騎士のそばに剣を置いた時みたいにしてほしいってことか。

 ドリスの言う通りに落ちている機械兵の残骸のそばへと剣を置く。するとあたりにも散らばっていた機械兵の残骸と一緒に剣も瞬時に、地面へと溶けるように消えていく。

 かと思ったらすぐに剣が地面に武骨に刺さって現れた。


「うわ、ほんとに剣だけ戻ってきた。でも別に今回壊れてないからこんなことしなくてもいいんじゃないか?」

「…」

「喋んないねぇ...」


 驚きつつドリスの方を見るともう手は降ろしており、また無言になってしまった。急に現れたのに喋ってくれないとなるといよいよ本当に何がしたいのかわからないからやめてほしい。


「あ、咲間さん。あれ見てください!」

「あれ…? あ、階段ですね、また」


 三ケ島さんに声をかけられて促された方を向くと空へと続いている昇り階段が現れていた。一瞬下りてきた階段かとも思ったが位置が全く違うのでそうではなさそうだ。でも空に続いているとは言っても途中で途切れている。


「あれ、昇ればいいのか?」

「…」

「否定しないってことはそれであってるのか…。皆さん、ドリスが特に否定しないんであれ昇ればいいと思います。多分」

「そう、じゃあ核石は咲間さんに渡すってことで言い?」

「はい、私もそれでいいと思います」

「俺も今別に金に困ってないんでいいっすよ」

「え、でも皆さんで倒されたのに?」


 どうやら核石は他の皆さんはいらないらしい。確かにA級以上ともなるとバンバンダンジョンに潜って多くの核石を集めて換金しているって聞いたことあるし、金には困っていないのかもしれないけど...流石に申し訳ない気もする。


「いや、こいつらがいいって言ってるんだからいいってことよ。俺たちも強いモンスターと戦えたし、なによりあんなに弱体化させたのは咲間だからな」

「そうです。こうしてダンジョンから脱出できるようになったのも咲間さんのおかげですし。もらっていただいていいですよ」


 そう言っていただいたのでありがたく頂戴させていただくことにした。結構な数の核石が転がっているが、核石は生体エネルギーの結晶にもかかわらず見た目以上に重くない。バスケットボール大の物でも一キロするかないかぐらいだ。小さいのすべて合わせても多分三キロ程度だろう。

 いつも持ってきている折り畳みのカバンに何とか詰め込むことに成功した。入りきらなかった小さい核石もあったためそれだけは皆さんにお渡しする形となった。多分小さいのでも一人千円くらいには換金できるはずだ。


 そんなわけで皆で上り階段へと向かう。


「これ、どうなってんだろうな。ほんとにこんな続きのない階段で外に出られるのか?」

「分かりませんね…。こればかりはドリスの言葉を信じるしかないのですが。どう見ても途中で切れてますもんね」

「でも、下りてきたときだって急にこの花畑に出たわけじゃないですか? なら昇りも急に外に出られるんじゃないですか?」

「確かに...信じて昇ってみましょう」


 今回は俺が先頭となって階段を上る。俺にしか見えないドリスの言う通りにするしかないため、何かあってもいいようにだ。

 一歩一歩踏みしめて上ると、すぐに階段が終わる。このまま進んでしまうとどう考えても落ちてしまうので改めてドリスを見ると、相変わらず階段の先を指さしている。これは、進めってことか。


「ドリスが進めって言ってるんでこのまま進みますね…」


 意を決して何もない所へと踏み出した。一瞬視界が暗転し、開けたと思ったらすでにダンジョンの外にいた。


「お、戻ってきた」

「うわ、すぐ外か」

「すっご、どういう仕組みなんすかね」


 俺の後から続いて出てきた皆さんも驚いたように口を開いた。外はまだ明るく、日が高い位置にあった。


「あ、咲間さん!」


 すぐに事務所の方から神田さんと佐藤さんが顔を出してきた。もしかして俺たちが出てくるのを待っていたのか。


「お疲れ様です。一応異変の元と思われるようなモンスターは倒してきたのですが…」


 俺は取得した核石を二人に見せながら言った。するとなぜか不思議そうな顔をして二人は顔を見合わせた。


「…どうしたんですか? おそらく問題の魔素濃度低下は解消されたんじゃないかと思うんですけど?」

「いえ、それが。私たち、先ほどここに到着したばかりですよ? 咲間さんにお電話して、ダンジョンに入っていただいてからそこまで時間が立っていない様に思いますが」

「…え?」


 そう言われ慌てて事務所内の時計を確認する。結構ダンジョン内で過ごしたと思っていたのだがまだ十四時前時くらいだ。


「どういう、ことでしょうか。俺たち間違いなく下まで潜って、さらに下に行きましたよね?」

「はい、全然時間たっていないなんてありえないはずです」


 俺の言葉に三ケ島さんがどういして同じく驚愕の表情を浮かべる。隣にいるドリスを見ても特に変化なし。


「なにか知ってるか、ドリス」

「…ダンジョン…だから」


 ダンジョンだから? ダンジョンだからこんな変な現象が起こるっていうのか? いや確かに俺はダンジョンについてその内部事情を網羅しているわけじゃないからそう言われてしまうと納得するしかないが。ドリスの意見は明らかに俺よりもダンジョン側の意見なので信じるしかない。


「あまり時間が経っていないってことは、三十五層まで下りる時間も内部ではそこまで時間経過していなかったってことか。今までこんなことなかったのに」


 せっかく強力なモンスターを討伐し、核石も集められたのに釈然としない気持ちになってしまった。


*   *   *


 咲間たちが『15ダンジョン』から帰還した翌日、迷宮庁にある報告が寄せられた。


 海外のとあるダンジョンで急に最下層だけ消失してしまった、と。

 

 その地域では割と有名なダンジョンだったらしく、多くの冒険者が今日もモンスター狩りに勤しんでいる途中の出来事だったそう。最下層にいたのは約十名ほどの冒険者だったが、その人たちと一緒に迷宮最下層は消失してしまった。

 ダンジョンそのものでなく一部分だけが消失するなんて事件過去には起こっていない。咲間たちの話を聞いていた迷宮庁上層部は今回の件を偶然だとは思えずより一層、『15ダンジョン』への警戒を強めていくこととなる。



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