第11話 ダンジョン守りの出会い
「流石に戻った方が良くないですか...?」
三十五層よりもさらに下る階段を見つけ、全員が押し黙っているなか声を上げたのは三ヶ島さんだった。
全員が直感的に異様な雰囲気を感じて喋り出せずにいたがその一言で我に帰った。
「確かに...これは俺だけでは判断ができません」
「流石に咲間でもこんなの見たことないか」
「はい。ご存知かと思いますがこのダンジョンで階層を分けているのは坂道のみです。階段で上り下りできる箇所なんて存在していません」
階層間の移動はダンジョンによって違いはあるが、こと『15ダンジョン』に限れば階層は地続きとなっている。多くの人に踏み固められて階段のように凸凹している道はあれど、ここまで明確に階段だとわかる構造のものはなかった。
明らかな人工物が突然現れたため一斉に口を閉ざしてしまったのだ。
「この状況、監視カメラ映像だとどう映ってるんですかね」
「確かに...やはりそれも確認したいので引き返しましょう。申し訳ないのですが再びついてきていただいてよろしいでしょうか」
河原さんの疑問にも少しの興味が湧いたので、早々に帰還を開始することに。
「・・・でも、咲間さん。道なくないですか?」
「はい...今来たばかりの道がなくなってます」
しかし、その場で回れ右して帰ろうと思った矢先、三ヶ島さんが言った通り三十四層へ続く道がなくなっていた。ついさっきまで道があったそこは何もないただの壁となっていたのだ。
「へぇ...面白そうじゃねぇか。もう潜るしかないってことだよな?」
「い、いや待ってください! 探せば道あるかもしれないじゃないですか! ──あ、緊急通信!」
道を探す前に、事務所に異常を知らせるための通信手段を思い出した。あの日、三ヶ島が俺に異常を知らせる事ができたように、ダンジョンへと入る冒険者には発信機のような小さなボタンを支給することが義務になっている。
今回は俺が持ってきていたため早速作動させることに。自分自身で使うことなんてほとんどないから新鮮だ。
「どうですか...?」
「・・・反応ないです」
本来はボタンを押した側にも通信が届いたことを知らせるため、ボタン自体が振動する仕様になっているはずだがその手応えがない。
少し時間をおいて再度押してみたが何の手応えもない。
「──じゃあやっぱり下に行くしかねえってことだな」
「ちょっと待って。みんなアンタみたいに戦いに飢えてるわけじゃないの」
「…でも森さん、ここにいたって何もできないっすよ?」
相変わらず潜りたがる篠塚さんを止めようとする森さんに、篠塚さんを援護する河原さん。やんややんや言い合う三人を見ていても埒が明かないような気がしてそこらじゅうの壁を触りまくったり、持っている剣で殴りつけてみるが何の手応えもない。
やはり俺たちはこの三十五層に閉じ込められてしまったようだ。そして現状打破できる可能性は、一つ。階段を下ること。
「私も...篠塚さんの意見に賛成です」
「えっ」
「咲間さんに助けられているばっかりな手前、出過ぎたことは言えませんが何も手の打ちようがなさそうですし。何より、絶対に危険と決まっているわけでもないですよね」
「それは...まぁ。でもダンジョン守りとしても皆さんを危険な場所に行かせるわけには」
「私たちは冒険者ですので。何があろうと咲間さんだけは守りますが、より強いところへも行ってみたいのです」
三ヶ島さんはいつになくまっすぐな目をして(甲冑で顔は隠れているが)俺に言い寄ってきた。もしかすると、A級冒険者なのにここの所活躍できてないことを悔しがっているのかもしれないが、確かに冒険者は生来戦いを求めている気質だ。それが高位冒険者ともなればさらに。
「...分かりました。皆さん、階段を下るということでよろしいでしょうか?」
三ヶ島と他の三人も見て確認をとる。森さんは渋ってはいたが同意して、他三人は言わずもがな、と言いたげに頷いた。
じゃあ、もう潜るしかない。ダンジョン守りとしてもこのダンジョンに知らない箇所があるのは気持ちが悪いし。何より、俺も自身と剣の性能をより確かめたいという高揚感もある。
改めて階段を覗き込むと、どこまで続いているのかわからないが、光源の少ないダンジョン内では先まで見通すことができなかった。森さんの索敵魔法があるのでそれを行使しつつ進むことにする。
階段の幅は割と広めなので最前を一番乗り気な篠塚さんにして進む。
警戒しながら進み、五分ほど進んだ辺りで突然またバグ道を通った時のような、ジジッという耳鳴りがした。
「あっ──」
言葉を発しようとした時にはもう遅く、その直後には急激に視界が暗転し意識を手放した。
* * *
「──やばっ!」
どれくらい目を瞑っていたかはわからないが、体感ではすぐに意識が覚醒した。
しかし辺りには誰もおらず、まるでウユニ塩湖のような真っ白い地面と真っ青な青空が広がっているのみ。いつのまにこんな場所に移動したのだろう。
ふと気がつくと、俺からちょうど十メートルあたりの位置に一人のフードを深く被ったの子供が立っていた。背丈は低く、顔が見えないため性別がわからない。
「・・・君は?」
不思議なことに恐怖感などは一切なかった。そういった悪意や害意の類を何にも感じなかったからだ。多分相手が子供だからっていうのも大きいけれど、直感的に敵ではないなと思えた。
相手の返答をしばらく待っていると、急に音もなく目の前にあの錆びた剣が現れた。一瞬の瞬きの隙に。
「またか。こんなとこまで現れて何したいんだ」
剣が刺さっているのは俺と子供の中間。
その子供はゆっくりと手を前に差し出して剣を指さした。
「…?」
「そレ...君の?」
「多分、そう。付きまとわれてるって言った方がいいけど」
「…ならよかっタ。それ、ボク。…ドリスっていう。よろしくネ」
え、急に何? それ僕、ってこと? この剣が? てか名前あったの? しかもドリスって名前?
いきなり語りだした子供に聞きたいことは山ほどあったが、口を開けど言葉が出てこない。目の前の視界が急激に縮小していくように見え、再び俺は意識を手放した。
* * *
「…あれ」
夢のような世界から戻ってきたとき、俺は誰かに背負われながら階段を下りていた。
「あ、気が付きました?!」
「え、あ、はい。…! すみません! 河原さん」
「急にどうしたんですか? 何かあったんですか?!」
「そうですよ! 急に意識失ったと思ったらいびきまでかいて!」
河原さんと三ケ島さんが言うには約三分ほど俺は眠っていたみたいだ。急に階段に座り込んだから何事かと思ったら、寝息を立てていたので仕方がないから河原さんが背負う形になったらしい。急な出来事でも慌てずに階段を下りている姿を見ると高位冒険者はやっぱりすごいな、と見当違いな感想を抱いた。
「すみません、背負わせてしまって。おりますよ」
「いやいや、こっちこそスンマセン。なんか咲間さんここ数日忙しかったみたいですよね? 疲れてるんだからおとなしくしててください」
有無を言わせず河原さんは俺を背負いながら階段を降り続ける。がっちり足をホールドされているので下りることができない。絶対に離さない気だこの人。
俺が眠っていた間も含めておそらく十分ほど下るとようやく下の方から光が。出口かと思い、皆速度を上げて階段を下りきるとそこは一面の花畑だった。
「これは、まったく想像してたものと違う階層だな…」
「はい。まさかこんなきれいな場所が」
「これ、迷宮庁ですら見たことないでしょ」
「俺もこんな場所があるなんて資料でもみたことないっすよ」
皆一様に目の前の景色に感動していると、遠くの方に巨大な人影が見えた。でも巨大すぎる。十メートルくらいはありそうだ。
「あれ、なんですかね」
「…機械兵?」
森さんが遠視の魔法で見るとそんなことを呟いた。この花畑に機械兵? 随分と不釣り合いなものがあるんだな、このダンジョンって。てか『15ダンジョン』に機械型モンスターなんて現れないはずだが?
「行ってみるか」
皆が変な景色に疑問を抱えていると、篠塚さんがまた声をあげた。口角を吊り上げながら言っているのを見るに、興味津々といった感じだ。
「ですね、何か分かるかもしれません」
皆同意し、再び機械兵に向かい歩き出した。俺もようやく河原さんに降ろしてもらい歩き出す。敵か味方かもわからない機械兵に興味はあるが警戒態勢で歩いていると、機械兵がわずかに動く。
「——?! 避けて!」
悪い予感がして声を張り上げる。五人とも瞬時にその場から散開すると、丁度その位置に雷が降ってきた。もちろん雨雲なんてない。あの機械兵はほぼ予備動作無しで雷の魔法を行使してきたのだ。
「でかした咲間! 行くぞ!」
篠塚さんは興奮したように声をあげ、地面を勢いよく蹴り驚異の速度で機械兵へ迫っていく。他の三人もすぐにそれに続くように走り出す。冒険者が急に走り出したため、一足遅れて俺も機械兵の元へと向かう。
「…ドリス」
いつの間にか手元から消えていたあの剣を呼び出すため、あの子供の名前を呼ぶ。認識が間違っていなければあの錆びれた剣は『ドリス』という名前のはずだ。
思った通り、剣は手に。子供が俺の横に。…横に?
「うわっ?! なんでいるの?!」
「…」
ドリス、と名乗った子供も俺の横にいた。相変わらずフードを深く被った子供が何も言わずに佇んでいる。
俺の驚きを意に介さず、その子供は機械兵を指さす。
「あれ…倒せば、帰れる。…はず」
「まじ?」
「…」
相変わらず俺の疑問には答えずに、ドリスは機械兵を指さし続ける。
「…オッケー。ならドリスも協力してくれよ」
俺が再び駆け出すと、ドリスは平行移動するように俺の真横を着いてきた。幽霊みたいな移動方法だな、と思う。
ようやく、巨大な機械兵と戦闘している彼らに追い付きまずは足を狙って剣を振り上げる。しかし——
「ちがう」
——ドリスが横から声をかけてきた。剣が機械兵の右足部分に当たる寸前で止まった。その次の瞬間には機械兵の拳が降ってきたためすんでのところで後退し避ける。
「なに?!」
「…」
怒ったように横を振り向くがドリスはこちらに顔を向けもしない。相変わらず機械兵を指さしている。
しかし先ほどよりも指の位置が高いことに気が付いた。その指先を辿っていくと、丁度機械兵の腰の位置に。
「もしかして、あの辺狙ったらいいのか?」
「…」
「おい、咲間! 何してんだ!」
ドリスに疑問を投げかけていると、篠塚さんから怒りの声が届く。得体の知れない子供に話しかけ、なかなか戦闘に参加しようとしない俺にしびれを切らしたのだろう。
「すみません! 今行きます!」
今度は足ではなく腰を狙うため機械兵の股下を潜り抜け、後ろに回り込む。この動き、冒険者適性検査の時もしたな。
機械兵の腰を見据えたが、結構高い位置にある。届くのかこれ。
「…俺なら当てられるって思ってるってことでいいんだよな?」
「…」
答えずに指をさし続けているが、それに懸けるしかないだろう。助走をつけてジャンプすると、想定していたよりはるかに俺の体が高く飛びあがった。バネで飛び上がったような感覚に驚いたが、しっかりと機械兵の腰を見据えて横なぎの一閃を入れる。
すると、これまた面白いくらいに機械兵の体に剣の刃は滑り込んでいく。今まで他の四人が攻撃してもなかなか倒れなかった機械兵をドリスの一閃で上半身と下半身を分けることに成功した。
「皆さん、お願いします!」
着地して、俺の動きに驚いている四人に声をかける。流石機械兵といったかんじで胴を真っ二つにされた程度じゃ動きを止めたりしない。
四人に合わせて俺も攻撃に参加しようとしたが、剣を振り上げるたびに「ちがう」と手を下ろしたドリスに囁かれて剣の動きが止まってしまう。
「もしかして、ドリスが指定した所以外切れないのか…?」
「…」
皆が必死に機械兵を討伐している横で、俺は何もできずに天を見上げることしかできなくなってしまった。そのせいで戦っている最中の皆に変な目で見られ、篠塚さんに怒鳴られてしまった。
「俺、変な武器、拾っちゃった…」
悲しくなるほどに空は綺麗だった。




