英雄ミケ模様
「英雄ミケ模様」
マオ族は一言で言えば、二足歩行のずんぐりとした大きな猫である。
高地に住み武勇に優れる彼等を私たちは野蛮な存在と見なしていた。
私たち有翼の人々ユートリアの貴族の血筋の私は、そんなマオ族を相手に天使かのような白銀の甲冑をまとって兵士を募るのが役目だった。
「あなたこそが世界を救います。運命の魂を持つ勇士よ――」などと言葉を使って。
そして彼等を魔族ダーナス人との戦線に送り込む。
遠い記憶、初めては珍しい雄の三毛猫だったと思う。よくにこりと笑うのが印象的だった。
そして一様に彼等の事は――「戦場にて英雄的な死を遂げた」と知らされるのだ。
どう死んだかを知ってやることすらできない。
初めの彼は、人づてに聞いたが取り囲まれ四方から槍で貫かれて、私の名前アリアと叫びながら絶命したそうだ……。
「あなたのつるぎこそが、この大陸の戦を終わらせるのでしょう」
そう言われてぶち猫は目を輝かせて鼻息を吹く。
「身命を賭してご期待に応えましょう。あなたに勝利を!」
彼は格好つけてそう宣言した。
「さあ、共に参りましょう」
そう言って歩き始めた私たちにある猫が声をかけた。
「待ってくれ。俺も連れて行ってくれ!」
どこか懐かしさを感じる、彼はまだ成人したてといった風の男声の三毛猫だった。
戦況は悪化していくばかりだった。
遂には貴族である私の一家も隣国へ亡命する運びとなる。
だが私は母国に残る事を選んだ。
そして初めて剣を手に戦場へ向かった。
これまでにいざなった、毛むくじゃらの英雄たちの死を知るために。
ダーナス人は弱い。だがその軍勢は私たちの十倍以上だ。
この手にしたつるぎで何人切り捨てようと、やがて囲まれるのは当然だった。
私は敵に囲まれながら何人もの猫の顔を走馬灯のように想起していた。
名を忘れた者も少なくない。
異邦よりの英雄たち――英雄たちへの今まで押し隠していた思いがここで爆発する。
許されることはできない。ただ、彼等たちを心からあがめた。
刹那、敵の一方から血風が舞った。
その一撃のあるじは絶叫する。
「ッアリアーーーッ!!」
血糊を纏った甲冑姿の三毛猫が飛び込んで来たのだった。
剣を両手持ちにまっすぐ構え、彼は私の前に立った。
そして言った。
「アリア、今度こそ俺の名を忘れないでいてくれ」
そう、もしも、もしも魂に輪廻があるとすれば――
「俺の名は英雄ミケロ! そう、君が選んだ英雄だっ!」
くっきりと、ミケロの笑顔が思い出された。
黄昏時の戦場に、天は一筋の光を与えている。
その下には一人の女が座っていた。
彼女は物言わぬ三毛猫の戦士を抱いている。
二人は徐々におぼろげになり、光の中に溶け込んで行った。




