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図書館の静けさ

 今度の休みに水族館へ行くことになったので、ぼくと早苗は中央図書館を訪れた。ショッピングモールのある街の、鉄道の駅に近いエリアにこの中央図書館がある。ウワサには聞いていたが、とても広い。ここの何十万冊とありそうな蔵書をすべて読み終えるまでに、いったいどれだけの時間がかかるだろうか。


「学校の図書室より、本が多いな」


 敷地面積や用途が違うので当たり前だが、それにしてもだ。お目当ての本が見つけられるのか、心配になる。この静けさの中では、ぼくの声がやや目立ってしまうようにも感じた。図書室でも静かにしなくてはならないからな。気をつけよう。


 早苗は「実物を水族館で見るんだから、いいじゃないの?」と言うけれども、本物に会いに行く前にこちらが知識を付けておきたい。知識があったほうが楽しめるのは、菊の件で学んだ。ただキレイだと思うよりは、品種ごとの差異を理解していたほうが楽しめるというもの。


 水族館へ行ける機会も、そう多くないと思う。ならば、一回一回の機会を大事にすべきだ。


「あっ、この本、もう借りられるんだ」


 早苗はピンク色の可愛らしい表紙の本を手に取る。図書館の入り口の棚には、新しく図書館に入ってきた本が並べられているようだ。


「何の本?」

「恋愛小説! のぞみちゃんたちが話してて、気になってたんだよねー。これ読んでみよっと」


 のぞみちゃんたち、は、早苗の神佑(じんゆう)高校での同級生。ぼくのことをよく聞かれるらしい。なんて答えているのか気になる。


「気になるのなら、買って読むべきではないか」

「んー。それはそうなんだけど。早苗、集中して本読むの得意じゃないんだよね。買ったのに読まないで放置するんだったら、読んでくれる人が買ったほうがいいじゃん? 気になっていた本をこうやって気軽に読めるのは、いいよね」

「ふむ……」


 出版社からすると買ってもらったほうがありがたいのだろうが、学校の図書室で様々な本を読み漁っているぼくには何も言い返せない。ソーイチローはぼくに「欲しいものがあったら電話するように」と言ってくれているが、こうして桐生(きりゅう)家に住まわせていただけているだけでもありがたいので、なかなか言い出しにくい。かといって早苗にねだるのもおかしい。


「悟朗さんとのデートの予習になるかもね?」

「そうか?」

「どうしたら男の子がドキドキするのかとか、より好きになってもらうにはどうすればいいのかとか?」

「創作から学ばなくとも、早苗は実践できてるよ」

「そーお?」


 ぼくはいずれクライデ大陸に帰らねばならない身。にひひ、と笑う早苗のことをこれ以上好きになったら、さらに帰りにくくなる。今でも魅力的なので、より魅力的になられたらと思うと、彼氏としては嬉しい出来事のはずなのに、ぼくにとっては気が重い。


「ぼくは、魚の図鑑を探そうかな」


 クライデ大陸には水族館がない。海は海を拠点とするモンスターたちのテリトリーであり、研究は進んでいないからだ。この世界になくて、クライデ大陸にはあるものといえば、歴代のミカドの功績を讃える博物館だな。いずれぼくの名前も並ぶだろう。


 魚は最南端の観光地では食されている。魚を煮込んだものが名物料理として振る舞われるぐらいに、他の地域ではマイナーな食材だ。ぼくはクライデ大陸でも中心部に住んでいたので、この世界に来てからのほうが食べているな。


「図鑑なら、あの辺かなー。早苗もいっしょに探すね」

「助かる」

「もしかしたら、おにいさんの部屋にもあるかもよ?」

「おにいさん……ああ、兄か。兄だな」


 この世界で、ぼくは桐生家の五男という立場である。ぼくから見た兄は、志郎たちだ。本当は兄などいない。


「うん。一番上のおにいさんは、今、お医者さんになるために東京の大学にいるでしょ? あの人も頭がよかったって聞くし、本とか図鑑とかいっぱい持ってそう」


 正月に見た人か。メガネをかけていたのが桐生家の長男だったかな。医学生と言っていた気がするから、きっとそうだ。


「兄の部屋には、入ったことがないな」

「何も言わずに入ったらたぶん怒られるけど、お義母(かあ)さんに言ってからなら大丈夫大丈夫。なんで、って聞かれたら、本棚を見たい、って正直に言えばいいし。後ろめたいこともないよ」


 いい話を聞いた。それはそれとして、図書館でも探してみよう。早苗と図書館内を探し回っているうちに、また新しい出会いがあるかもしれない。


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