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白いシャツに残る夏

 夏休み中の早苗(さなえ)は、早苗の実家で寝泊まりしていた。だから、中学三年生の早苗と中学一年生のぼくだった頃と同じように過ごせている。


 次の長期休みは、冬休みを待たねばならない。二学期の三ヶ月間は、一学期の頃のように、毎日、夕方にぼくの部屋に来て、午後九時に帰る生活に戻る。


 この世界に来てから二度目の夏休みが終わってほしくなかった、八月三十一日。

 初日からやり直せればいいのに、と実現不可能な空想を描くぼくと、空欄だらけの日記(夏休みの課題)を前に眉根を寄せている早苗がいた。


「これ、見てよ」


 早苗は、白いシャツの袖をまくって見せてくる。見れば、日焼けの境界線がくっきりと現れていた。


「悟朗さんはなんともなってないのね?」

「脱皮するからかな」


 ぼくも早苗も同じ場所に行き、同じように太陽の光を浴びている。なのに、ぼくには境界線がない。特別な日焼け対策をしたわけではないので、生まれの違いだろう。


「んー」


 早苗はぼくの腕を引っ張って、自らの腕との違いを見比べている。大きな目を近付けて、毛穴まで観察するように。


「うわ、つるすべ」

「同世代の同性と比べると、そうかもな」

「ドラゴンと人間の違いかなぁ?」


 早苗はぼくとふたりきりだと、すぐにぼくの正体を口走る。外で言っていなければいいが。ぼくは早苗が他人に話していないと信じている。四六時中監視しているわけにもいかない。


「おそらくは」

「ふーん?」


 ぼくの本当の伯父(おじ)は、クライデ大陸という一続きの大きな島を統治しているドラゴン。王族のぼくは、その気になればドラゴンの姿に戻ることができる。


「これだけつるすべなの、女子からうらやましがられない?」

「こんなに腕を見てくる女の子は、早苗ぐらいだよ」

「そーお?」


 人間の姿をしているのは、人間の世界で生活していくには人間の姿であったほうが都合がいいからだ。ドラゴンの姿は、この世界ではデカすぎる。家にも学校にも入れない。


「またぼくのクラスメイトに妬いているのか?」

「別にー?」


 クライデ大陸の統治者を“ミカド”という。伯父の実弟の長男であるぼくは、クライデ大陸に帰り、ミカドになる。帰らなければならない。


 ぼくは十二歳の春――魔法を教わる学校を卒業する年に、修行のためにこの世界へ飛ばされた。王族の長男であれば必ずこの修行に身を投じなければならず、行き先はランダムに決められる。


 ぼくが夏芽(かが)の村に来られたのは、非常に幸運だった。


 過酷な修行から戻ってこられた者はいないので、ウワサでしかないが、大海原の真ん中に落とされた者(この世界の伝承にある『クラーケン』の正体は、クライデ大陸から投下された遠縁の者ではなかろうか、とぼくは考えている)や、大国同士の争いに巻き込まれた者など――。これらの先例と比べれば、ソーイチローに拾われたぼくは恵まれている(拾われたときの話は、いずれしよう)。


 幸運は重なり、この夏芽の村には『竜が支配する世界につながっている』とされている洞窟(どうくつ)があった。この言い伝えを知ったぼくは、喜び勇んで洞窟を探索している。


 だが、その時は何も見つからなかった。洞窟の奥では、水がちょろちょろと流れる音がした程度。暗がりの中で、自然に砕けて割れた石が光っていた。


 おそらく、時期尚早であったのだろう。時が満ちれば、道は拓ける。あるいは、扉を開ける鍵が必要なのだ。ぼくの故郷、クライデ大陸への帰路は、近い。


「むぅ」


 腕に飽きた早苗は課題に向き合い始めたが、ほどなくしてその手は止まった。ぼくの日記(ぼくの中学でも一行日記の宿題が出ていた)を参考にして、書き写すだけなのにな。


「どうした?」

「日記を書いているだけじゃつまんない。悟朗さん、面白い話してよ」

「面白い話ねえ……」

「たとえば、悟朗さんが帰りたがっている故郷(ふるさと)の話とか。もっと聞きたいなー?」



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