EP4 邂逅の果てに
オーガの巨体が地面に崩れ落ちると、辺りに静寂が訪れた。
——終わった。
俺は深く息を吐く。右手に握る剣の刃先が血に濡れ、鈍い光を反射している。戦闘の余韻が指先に残るが、今はそれよりも周囲の視線が気になった。
「……すごい……」
驚きと警戒が入り混じった声が響く。目の前にいる少女が、剣を持ったまま俺を見つめていた。
「あなた……何者?」
単刀直入な問い。
答えようとするが、言葉が出てこない。
俺は……何者なんだ?
記憶は欠け落ち、思い出せるのは戦闘の感覚だけ。だが、それを説明できる言葉はない。
「……俺にもわからない。」
正直に答えると、少女はますます困惑した表情を浮かべた。
「そんな……あんな戦い方、普通じゃないわ。」
俺自身も普通ではないと感じている。だが、どう説明すればいいのか。
「……とにかく、助かったわ。あなたが来なかったら、私たちは……」
少女は後ろを振り返る。そこには、負傷した仲間たちが座り込んでいた。
「前衛がやられた時は、もう終わりだと思ったよ……」
「まさか、あのオーガを正面から止めるなんて……」
安堵と驚きが入り混じった声が仲間たちから漏れる。
俺は何も言わずに剣を下ろし、肩の力を抜いた。戦いが終わったとはいえ、彼らが完全に安心しているわけではない。
「お前たちは?」
少女は少し驚いたように俺を見て、それから小さく咳払いをした。
「……私はリーナ。このパーティーのリーダーよ。」
リーナと名乗った少女は、明るい茶色の髪をポニーテールにした、活発そうな雰囲気を持つ。
「こっちはエリオット、こっちはマルクス、そして……負傷してるのがカインよ。」
それぞれ、軽く頷いたり、疲れ切った様子で手を上げたりする。
「私たちは冒険者よ。見たところ、あなたもそれなりに戦い慣れてるみたいだけど……どこのギルドに所属してるの?」
ギルド?
聞き慣れない単語に、俺は首をかしげる。
「ギルド……?」
その反応に、リーナがさらに眉をひそめた。
「まさか……ギルドに入ってないの?」
俺は曖昧に頷く。何も知らない異世界のことを下手に話すよりは、黙っていた方がいい。
「……なら、街に来ない? ここで野宿する気じゃないでしょう?」
確かに、情報を得るには街へ行くのが一番だろう。
俺は少し考えてから、静かに頷いた。
「……わかった、同行させてもらう。」
こうして、俺は異世界の街へ足を踏み入れることになる。