EP1 異世界の大地に立つ
——眩しい。
意識がゆっくりと浮かび上がる。光が視界に差し込み、脳に直接突き刺さるような鋭い痛みが走る。
「……ここは……?」
草の香り。微かに湿った土の匂い。吹き抜ける風が肌を撫で、何かを伝えようとしているようだった。
朦朧とした頭を振り、ゆっくりと上体を起こす。見渡せば、そこには広大な草原が広がっていた。濃い緑が鮮やかに目を刺激し、遠くに見える森が静寂に包まれている。
「俺は……何者だ?」
名前が出てこない。記憶が抜け落ちている。だが、戦いの感覚だけは鮮明に残っていた。
ふと、右目に違和感を覚える。
「……視界が妙に鮮明だな……」
手をかざしてみるが、何の異常もない。ただ、視線を向けた先の物体が異様に鮮明に見える。
——これは何だ?
過去の記憶が曖昧なまま、その違和感に思考が囚われる。しかし、答えは出ない。
「とにかく……動かないと。」
状況を把握しなければならない。目の前の世界が何なのか、そして、自分が何者なのかを——。
ふと、腕に視線を落とす。袖をまくると、驚くべきことに皮膚には何の傷跡もなかった。
「……嘘だろ。」
戦場にいたはずだ。爆発、銃声、叫び声。それらが微かに脳裏に焼き付いている。だが、手に残るのは何の痕跡もない肌。
——俺は、死んだのか?
だとすれば、ここはどこなのか。天国でも地獄でもない。ただ、広大な草原と、遠くに広がる森があるだけの場所。
その時、風に乗ってかすかに音が聞こえた。
「……何かが、いる……?」
耳を澄ませば、森の奥から何かが近づく微かな気配がある。
本能が告げる。**あれは、人か。それとも……?**
警戒しながら、ゆっくりと腰を上げる。まだ、足元がふらつくが動けないほどではない。敵か味方かもわからないが、今の自分には選択肢などない。
目の前の世界を知るために、足を踏み出す。
——そして、その瞬間。
突如として脳が冷静に研ぎ澄まされる感覚が走った。
視界が広がり、思考が加速する。
「……なんだ、これ……?」
戦場で経験したような、極限の集中状態。しかし、それが意図せず発動している。
異常なまでに研ぎ澄まされた意識が、森の気配を分析する。
——これは俺の力なのか?
答えは出ないまま、俺は異世界での最初の一歩を踏み出した。