EP10 街への帰還
討伐を終え、俺たちは夕焼けに染まる街へと戻る。ルーデンベルグの城壁が赤く染まり、街道を歩く人々が次第に家路へと急ぐ時間帯だった。
「しかしいい動きをするな、記憶を失う前も冒険者だったんじゃないか?」
マルクスがゴブリンの耳の入った小袋を軽く振りながら言う。
「戦いに慣れてる感じがあるんだよな? オーガの時もだが相手の動きを先読みしてるように見えたぞ。」
「……そう見えたか?」
俺は適当に返事をするが、戦闘中に感じた妙な感覚が未だに残っていた。時間の流れが遅く感じ、敵の動きを的確に捉えられる——だが、それが何なのかは分からない。
「ま、深く考えすぎる必要はないさ。」
エリオットが肩をすくめる。
「結果として討伐は成功したんだ。今は報告を済ませて、報酬をもらおうぜ。」
門番に依頼書を見せ、問題なく街へと入る。ギルドへ向かう道すがら、俺は自分の手を見つめた。
(この感覚は、いったい……)
ギルドに入ると、昼間と変わらぬ活気が広がっていた。酒を酌み交わす者、依頼の相談をする者、受付で談笑する者——冒険者たちはそれぞれの日常を過ごしている。
俺たちはカウンターへ向かい、受付嬢に討伐の証拠を提出した。
「依頼達成ですね。報酬をお渡しします。」
小袋に詰められたコインが手渡され、マルクスがそれを受け取る。その時、奥からリーナの声が聞こえた。
「おかえり、レイヴン。それにマルクスとエリオットも。」
そう言いながら彼女はこちらに近づいてくる。
「どうだった? 初めての依頼。」
「……悪くはなかった。」
俺が答えると、リーナは頷きつつ、少し考え込むような表情を見せた。
「オーガから助けてもらった時に思ってたけどやっぱり素人じゃ無いわよね?」
「何の話だ?」
「戦闘中の動きが異様に洗練されていたし。」
リーナの言葉に、俺はわずかに眉をひそめる。
「……どうなんだろうな。」
記憶の欠落は未だに埋まらないが、戦いに関してだけは妙に身体が馴染んでいる。
「ま、これから色々思い出すかもしれないしね。」
リーナは深く詮索することなく、そう締めくくった。
「さて、今日はもう遅いし、ゆっくり休むといいわ。明日から本格的に冒険者として動くことになるんだから。」
俺は無言で頷いた。
戦闘の記憶が鮮明に蘇る。身体に染みついた戦い方、無意識のうちに動いた剣。リーナの言葉を聞き流しながら、俺はぼんやりと考えていた。
(俺は、一体何者なのか——?)
こうして、俺の初依頼は幕を閉じた。