prologue 《滅びゆく世界で》
「神々の理に支配された世界で、俺は抗い続ける」
〜Against the Divine Order〜
これは、滅びゆく世界で最期まで戦い抜いた男の物語。
機械生命体に支配された近未来の地球。
最後の戦士として戦場に立った彼は、戦いの果てに新たな世界で目を覚ます。
しかし、そこは神々の理に囚われた異世界だった——。
記憶の欠片と、身体に宿る未知の力。
「俺は……何者だった?」
戦う理由を失った彼は、新たな運命に導かれ、抗うことを決意する。
静寂を引き裂く爆音が、崩壊しつつある戦場に響き渡った。
都市は瓦礫と化し、赤黒い炎が遠くの空を焦がしている。砕けたビルの残骸の中で、無数の人影が機械兵器に追い詰められ、絶望に染まった悲鳴を上げていた。
「……状況が悪いな……」
肩で息をしながら、男は片膝をつく。
gai(機械生命体)の圧倒的な数と戦力の前に、人類の最後の拠点は崩れ去ろうとしていた。
彼――コードネーム《レイヴン》は、この終焉の戦場で、人類最後の希望を背負って戦い続けている。
脳内で響く通信の声。
『司令部へ連絡、レイブンがマザーコンピューターがある区画へ侵入成功! 座標を送る!』
「……だが、こっちの時間はもう残ってない……」
レイヴンは手の中の武器を握りしめながら、遠くにある人類最後の拠点を思い浮かべた。そこには、彼が唯一守るべき存在――愛する娘がいるはずだった。
愛する娘。
この戦争で全てを失った彼にとって、唯一、守るべきもの。
「……最後まで、足掻いてみせるさ」
自らの身体のほとんどを機械化し、戦場を駆け抜けてきた。
戦う理由は復讐ではなく、憎しみでもない。ただ、守るべきものを守るために。
彼はゆっくりと立ち上がる。
**「来い。相手をしてやる。」**
**O.S起動——**
サイボーグ技術を駆使した脳とリンクしている義眼の右目視界に無数のデータが流れる。戦況解析、敵機の予測軌道、環境変化の分析。
——思考加速。
通常の時間感覚を超越し、戦場の全てがスローモーションのように鮮明になる。
青白い光をまとったブレードが唸りを上げ、迫り来る無数の機械兵を次々に斬り伏せる。だが、圧倒的な物量に押し潰され、彼の身体は徐々に損傷を重ねていく。
『自己修復機能、限界値超過』
「……理解している……だが、まだ終わらせるわけにはいかない……」
限界を超えた身体で、彼は進み続ける。
——O.Sオーバーロード。
戦闘最適化のために脳のリソースを最大稼働させたことで、負荷が限界を超える。
「……まだだ……」
数多の残骸から雷光が弾け白煙が立ち昇る中で、彼は敵のマザーコンピュータに対して最後の一閃を放つ。
そして、白い光が視界を埋め尽くした。
---
**マザーコンピューターの破壊は成功した。**
レイヴンは崩壊する制御室の中で息を荒げ、深く傷ついた身体を引きずるように出口へ向かう。
だが、その刹那。
基地全体に響き渡る、耳障りなアラート音。
『エマージェンシー・プロトコル発動。カウントダウン開始……』
「……なんだと?」
ふと、モニターに映し出されたデータが目に入る。
**『最終防衛プログラム:惑星崩壊シークエンス発動』**
「……これは想定外だな……」
彼の手は虚しくモニターに伸ばされるが、すでに取り返しはつかない。
重力が揺れ、足元が崩れる。基地の奥から発せられる眩い光が、地殻を破壊する熱波となって広がっていく。
---
レイヴンは傷ついた身体を引きずりながら、崩壊する建物から飛び出す。
彼の目の前には、終末の光景が広がっていた。
空が裂け、大地が崩れ、都市は飲み込まれていく。
人類最後の砦が、音もなく崩れ去る様を、彼は遠巻きに見つめた。
その視線の先に、最愛の娘がいるはずだった場所があった。
「……そうか……」
力なく膝をつき、血に染まった拳を握りしめる。
——O.Sシステム、シャットダウン。
崩壊する星を前に、彼の意識は途切れ、そして——
---
静寂。
ふと、意識が戻る。
しかし、そこに広がるのは、見覚えのない風景だった——
**深い森の中だった。**
枯れ葉の舞う、冷えた空気。
仰向けに倒れたまま、彼はゆっくりと手を伸ばした。
金属の感触はない。
「……ここは……?」
だが、記憶は混乱している。
何故ここにいるのか、それすらも思い出せない。頭の奥が激しく痛む。
何か大切なものを忘れている気がする……だが、思い出そうとするたびに頭が割れるような痛みが襲う。
——その時、視界がわずかに揺れた。
かつて戦場で発動していたO.Sの、微かな残滓。
「……何だ、今の感覚……?」
しかし、すぐに消え去る。まるで欠けた歯車が回ろうとして空回りするように。
**「……何か……大切なものが……?」**
答えは、どこにもなかった。
こうして、彼の新たな物語は始まる。
**――神々の理に支配された世界で。**