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捨てられた悪役令嬢ですが、美貌の王弟殿下から溺愛されています・完結  作者: まほりろ


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84話「あなたの支えになりたいのです!」




王妃殿下の部屋を出た後、私は王弟殿下をお茶に誘いました。


今は彼を一人にしてはいけない気がしたのです。


お茶を飲む場所は、人工池の近くのガゼボです。


そこは、王弟殿下が帰国した時に一緒にお茶を飲んだ場所です。


侍女にお茶を出してもらった後、彼女たちを下がらせました。


今、この場所には私と殿下しかおりません。


殿下は何もおっしゃらず、お茶に手をつけようともなさいませんでした。


こんな時、何と言って励ませば良いのか分かりません。


どんな言葉も今の彼には届かない気がして……。


私には何もできないかもしれません。


それでも、彼に寄り添うことはできます。


私は、彼が何かを話すまで待つことにしました。


「僕が本当に幼かった頃……」


しばらくして王弟殿下が口を開きました。


彼は物悲しげな表情をしていました。


「……あの人はよく笑っていた」


殿下は遠くを見つめ、そうおっしゃいました。


殿下がおっしゃる「あの人」とは、王妃殿下のことでしょう。


「国王の年の離れた弟など、他国から嫁いできたあの人には邪魔な存在でしかなかっただろうに……。

 だけど、あの人は僕を邪険にすることはなかった。

 それどころか、僕とよく遊んでくれた……。

 僕が勉強や剣術や乗馬などで成果を出すと、あの人は笑顔で褒めてくれた……」


私は黒いドレスを纏い、淑女らしい笑みを浮かべる王妃殿下しか知りません。


嫁いで来られたばかりの王妃殿下は、明るく朗らかな方だったのかもしれません。


「あの頃の僕は……。

 国王の年の離れた弟が、優秀なことが危険だとは知らなかった。

 成果を上げたことを人前で話すと、敵を作ることをも知らなかった」


彼は憂いに満ちた表情でそうおっしゃいました。


「だけどあの人は、僕が勉強や剣術や乗馬の結果を報告をするたびに喜んでくれた。

 それは……僕を手なずけるための演技だったのかもしれない。

 それでも僕は、あの人に褒められるのが嬉しかった。

 父は僕が生まれてすぐ逝去した。

 母は公務で多忙だった。

 兄は……陛下は僕に無関心だった。

 だから、構ってくれる家族の存在に飢えていたんだと思う」


殿下の横顔は哀愁に満ちていました。


王弟殿下にとって王妃殿下は、義理の姉であり、母親のような存在だったのでしょう。


「あの人は、昔はよくラベンダー色の服を着ていた。

 明るくて、穏やかでよく、笑う人で……あの人がいると周囲が和やかになった」


そう話す王弟殿下は、少しだけ朗らかな表情をしていました。


「それが……いつの頃からか黒い服しか着なくなった。

 いつも微笑みを浮かべているのに、どこか物憂げで……。

 その意味に、僕はずっと気づかなかった……」


殿下は、苦しげに目を伏せました。


きっと、王妃殿下のお心を曇らせたのは自分だと思っているのでしょう。


ラファエル様は、自分が二歳のべナット様を殺せなかったから、王妃殿下が病んでしまったと考えているのでしょう。


自分の選択を悔いているのでしょう。


彼が辛そうで見ていられません。


王弟殿下は、何もかも自分一人で背負い込もうとしてしまう。


王弟殿下は優秀なので、即位したら、歴史に名を残す名君になれるでしょう。


ですが、一人で何もかも抱えてしまう彼が、悩みを打ち明けることもできずに、いつか壊れてしまいそうで……。


私は、王弟殿下の右手にそっと自分の両手を添えました。


殿下は驚いた顔でこちらを見ていました。


「ラファエル様が何か重大な決断をする時は、私がお傍にいます。

 だから、お一人で全部解決しようとなさらないでください。

 責任も後悔も、お一人で背負わないでください」


私は、彼の目を真っ直ぐに見つめてそう伝えました。


「王宮は孤独になりやすい場所です。

 傍にいて支える人間が必要です」


王妃殿下は孤独でした。


国から連れてきた侍女にも、祖国の親や兄弟にも、胸の内を明かすことができなかったのでしょう。


長い間重圧やストレスに晒され続けた彼女の心は、ある時折れてしまいました。


王弟殿下には、そのような苦しみを味わってほしくありません。


そのような人生を歩ませてはいけないのです。


「ラファエル様の隣にはいつも私がいます。

 辛い時も苦しい時も、もちろん嬉しい時も楽しい時も、あなたの傍にいます。

 あなたの力になりたいのです。

 私では、あなたの支えになりませんか?」


彼は目を大きく開き、口を少し開け、驚いた顔で私を見ていました。


「アリーゼ嬢、それは告白に聞こえるけど……」


彼の頬は赤く色づいていました。


「その通りです。

 私はいま告白をしています。

 私はラファエル様が好きです。

 愛しています」


心臓がドキドキと早鐘を打っているのが分かります。


愛の告白をするなんて初めての経験です。


王弟殿下ははにかんだあと、憂いを帯びた表情をしました。


「アリーゼ嬢、君が僕を支えたいと言ってくれるのは嬉しい。

 だがそれが、責任感や罪悪感や義務感からなら……」 


彼は切なげな声でそう言いました。


「違います!

 私はそんな気持ちで告白したのではありません!

 ラファエル様のことを心からお慕いしています!

 愛しているから、あなたのお傍にいたいのです!」


今王弟殿下の気持ちを完全に捉えないと、

彼は一人で生きる道を選びそうで心配なのです。


「ありがとう。

 君にそう言ってもらえて、とても嬉しいよ」


王弟殿下は、目を細め朗らかに笑いました。


「僕もアリーゼ嬢のことが好きだよ。

 八年前、ガゼボで一人で耐えていた君を見た時から、ずっと君のことを想っていた。

 帰国して、君に再会してその想いは強くなった。

 君を愛している、君を幸せにしたい」


王弟殿下は大切なものを見つめるように、優しい笑顔でそうおっしゃいました。


王弟殿下に、そんなに前から愛されていたとは思いませんでした。


私は、顔に熱が集まってきました。


きっと、今私の顔はトマトのように真っ赤になっていると思います。


「だけど、君が僕の傍にいたいという気持ちの中に、少しでも責任感や罪悪感や義務感が混じっているなら、君を伴侶にすることはできない。

 国王になる僕はきっと、辛い決断を何度もすることになる。

 傍にいる君にも、辛い思いをさせてしまうかもしれない」


彼は沈うつな表情をしていました。


彼を心の殻に閉じ込めてはいけません。


絶対に彼の手を離してはいけないのです!


「ラファエル様、そのようなことはおっしゃらないでください!」


私はギュッと彼の手を握りしめ、真剣な表情で彼の目を見つめました。


「私があなたを思う気持ちに、責任感や罪悪感や義務感などありません!

 あなたのことが好きだからお傍にいたいのです!

 あなたを愛しているから支えたいのです!」


どうか、彼に私の気持ちが届きますように……!


「いずれ国王になるからこそ、心を開ける相手と一緒にいなくてはいけません!

 一人では背負いきれない責任を負った夜も、

 辛い決断をした夕暮れも、後悔で眠れない夜も、二人一緒なら乗り越えられます!」


一人では背負いきれない重い荷物も、二人で分け合えば、難なく背負い、遠くまで歩くことができます。


「私はあなたを支えると決めたのです!

 ラファエル様に何を言われても、あなたの傍を離れるつもりはありません!」


一人で抱え込んで、孤独になりたがるこの人を、放ってはおけません。


ラファエル様が普段、飄々とした態度を取っているのは、きっと自分の心を他人に読ませないため。


人との距離を一定に保ちたいから、風のように掴みどころがない性格を装っているのでしょう。


この何カ月かラファエル様の近くで過ごしたことで、彼のことが少しだけ分かってきました。


私にとって殿下はずっと憧れで、大人で、勉学もスポーツの成績も優秀で、何でもできる完璧な人だと思っていました。


でも本当の彼は、幼い頃に傷ついた心を今でも引きずっていて、心の一部がその時から成長できてなくて、大人と子供が共存しているような方なのです。


「私ではだめですか?

 ラファエル様のお役には立てませんか?」


八歳も年下の私を、彼は頼りないと思っているのかもしれません。


でもそんなことではくじけません。


「そんなことはないよ。

 大好きな君にそう言ってもらえてとても嬉しいよ」


殿下は穏やかに微笑み、優しい声でそうおっしゃいました。


「アリーゼ嬢、君の気持ちと覚悟をとても嬉しく思っている。

 こんな僕でよかったら結婚してください」


王弟殿下は、私の目を真っ直ぐに見つめてそう言いました。


彼の顔は赤く色付いていました。


胸がドキドキしています。


殿下への思いが溢れてきます。


「はい、喜んで」


私は満面の笑みを浮かべ、そう答えました。


王弟殿下が私の腕を掴み、抱き寄せました。


心臓がさらに大きく音を立てました。


彼は私の背中に手を回し、強く抱きしめました。


彼の体温、彼から漂う爽やかな香水の香り、逞しい腕の感触……ずっとこうしていたいです。


お慕いしています、殿下。


私は彼の背中に腕を回しました。


しばらく抱き合ったあと、彼は私から少し体を離し、私の頬に手を当てました。


彼の顔が近付いてきて……私は瞳を閉じました。


彼の唇が私に触れたのはその少しあとのことでした。




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