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76話「王弟殿下の愛情表現とルミナリア公爵の愛情表現」




着替え終えた私は、全身が映る鏡の前に立ちました。


銀色の髪、セルリアンブルーの瞳、白い肌、少し長い手足……。


よかった、ちゃんと人間の姿に戻っています。


鏡に映った姿を見るまでは、本当に人間の姿に戻れたのか疑っていました。


猫の耳や尻尾が残っていたら大変ですから。


鏡を見て、元通りになっていることが分かり、私はホッと息をつきました。


「王弟殿下に、お嬢様の無事な姿をお見せしましょう」


「そうね」


人間の姿で殿下とお会いするのは久しぶりです。

 

自分の気持ちに気づいてから、人間の姿で殿下と会うのは初めてです。


緊張で胸がドキドキします。


殿下の前で失態をしないように、気を付けなくては。


「王弟殿下、ゼアン様、もう部屋に入ってもいいですよ」


ロザリンが扉を開けると、殿下が勢いよく部屋に入ってきました。


殿下は私の姿を見ると、瞳を大きく見開きました。


きっと猫から人間の姿に戻ったことに、驚いているのでしょう。


彼は、目を細め、口角を上げ、優しく微笑みました。 


彼の目には涙が浮かんでいました。


「アリーゼ嬢! 

 元の姿に戻れたんだね!

 良かった!」


殿下は私のもとに走ってくると、私を抱きしめました。


彼の体温が伝わってきます。


私が猫の姿になっていた時は、殿下はスキンシップが過多でした。


殿下は、私を抱っこしたり、頬ずりをしたり、額にキスしたりしてきました。


私も尻尾を立てて彼に体を擦り付けたり、彼の顔を舐めたりしました。 


それは猫の姿だから許容できたことで、ある意味不可抗力でした。


猫の姿で抱きしめられるのと、人間の姿で抱きしめられるのでは、全然違います。


心臓がドキドキして爆発しそうです!


「ラファエル様、あの……人目もありますから……」


これでは、二人きりの時なら抱き締めてもいいと言ったように捉えられてしまいます……。


「よかった……!

 君が元に姿に戻って本当に良かった……!」


殿下は少し体を離すと、私の目を見てそう言いました。


彼の表情には安堵の色が宿っていました。


「ラファエル様、ご心配をおかけしました」


猫にされたときは、こうしてまた彼の名前が呼べる日が来るとは思いませんでした。


愛する殿方の名前が呼べる……それはとても幸せなことなのですね。


「アリーゼ嬢……!」


殿下が私に体重をかけてきました。


私は足元がふらつき、バランスを崩し、そのまま後ろに倒れてしまいました。


幸い私の後ろにはふかふかのベッドがあったので、背中から倒れても痛みは感じません。


しかし、殿下に押し倒される形になってしまいました……!


「あの……! ラファエル様……!」


突然こういうことをされては困ります!


こ、心の準備が……!


ロザリンやゼアンさんも見ているので、恥ずかしいです!


二人きりの時なら良いという意味では……!


「王弟殿下、ルミナリア公爵令嬢が恋しいのはわかりますが、それはやりすぎですよ……」


「王弟殿下ったらなんて大胆な……!」


ロザリンとゼアンさんが、驚いた顔でこっちを見ているではありませんか……!


このままでは、羞恥心でどうにかなってしまいそうです!


「ラファエル様、あの……」


そのとき、殿下からは規則正しい寝息が聞こえてきました。


そういえば、殿下は解毒剤を作るために、三日間ほとんど寝ていませんでした。


きっと私が元の姿に戻れたのを見て、彼の気持ちが緩んだのでしょう。


その途端に、睡魔に襲われたのですね。


「ラファエル様、お疲れ様です」


私は彼の頭をそっと撫でました。


ずっと下敷きにされたままではいられないので、ゼアンさんとロザリンに手伝ってもらって、なんとか殿下の体の下から抜け出しました。


殿下を別の部屋に移動させるのは大変なので、彼が目を覚ますまで、そのままにすることにしました。


昨日まで私が使っていたベッドで、殿下が寝ている。


そう考えると、気恥ずかしい気持ちになりました。



 ◇◇◇◇◇◇◇



王弟殿下は、翌日の朝まで眠り続けました。


だいぶお疲れが溜まっていたようですね。


私は、彼が眠っている間に、お父様の執務室を訪ねました。


無事に人間の姿に戻れたことを報告するためです。


お父様は、「そうか、元の姿に戻れて良かったな」と素っ気なく答えるだけでした。


ですが、お父様の口角が上がっているのを見逃しませんでした。


心なしか、お父様の表情はいつもより穏やかに見えました。


それからお父様は、「これからは気をつけるように」とも言いました。


きっと、これがお父様なりの愛情表現なのでしょう。


王弟殿下が、お父様のことを「不器用な人」と言った意味が、少しだけわかりました。


お父様のお仕事を邪魔してはいけないので、元の姿に戻った報告を済ませ、私は執務室を後にしました。


お父様がお休みの日に、家でゆっくりお話がしたいです。


「戦力外通告」されたと思ったのも、私の勘違いかもしれませんから。


心が軽くなるのを感じます。


お父様とお話したらきっととても楽しいと思います。


お菓子を作って、馬車に乗って湖や草原に出かけるのも楽しいかもしれません。


お父様の愛情がわかったので、猫になることにも意味があったのかもしれません。



◇◇◇◇◇



イリナ王女と王女付きの侍女が捕まり、私は元の姿に戻り、お父様との間にあったわだかまりも解消されました。


事件はこれで全て解決したように思えました。


ですが、王宮にはもう一つ大きな闇が残っていたのです。


その闇が、ベナット様との婚約破棄から始まる全ての事件に繋がっているとは……その時の私は想像もしていなかったのです。




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