70話「ラファエルの色仕掛け?」王弟視点
――王弟・ラファエル視点――
そんなわけで、僕はゼアンと二人でイリナ王女の部屋に向かった。
ゼアンを連れて行くのは、イリナ王女と二人きりになるのを避けるためと、今からすることには証人が必要だからだ。
イリナ王女に先触れは出していない。
今から決行する作戦は、不意打ちの方が効果があるからだ。
僕が訪ねれば、イリナ王女は必ず迎え入れてくれるだろう。
イリナ王女の部屋の扉をノックし、名前を名乗る。
僕の予想通り扉は簡単に開き、イリナ王女が笑顔で迎え入れてくれた。
イリナ王女の頬には、大きなガーゼが貼られていた。
おそらく昨日、アリーゼ嬢が逃げる時に引っかいたところが傷になったのだろう。
イリナ王女は顔と身分だけが自慢みたいな女だった。
自慢の顔に傷がついて、さぞ堪えただろう。
アリーゼ嬢を酷い目に遭わせたんだ。このぐらいの罰を受けて当然だ。
ざまぁみろと心の中で思いながら、表面上は彼女の傷を心配するふりをした。
僕が心配したことに、イリナ王女は感銘を受けていた。
イリナ王女のことは簡単に欺ける。
問題は王女付きの侍女だ。
侍女は、イリナ王女ほど頭が軽くない。
何とかして二人の侍女をこの部屋から追い出したい。
気は進まないが……ここは色仕掛けをしよう。
僕は応接用のソファーに案内された。
僕が腰掛けると、イリナ王女は僕の隣に座った。
距離が近い……!
香水の匂いがきつい……!
これも解毒剤を手に入れるまでだ!!
耐えろ……!
僕は密着してくるイリナ王女に、作り笑いを向けた。
彼女は僕の演技に気づかず、目をハートにしていた。
王女は侍女にお茶を出させると、部屋の隅で待機するように命じた。
まずはイリナ王女の不安を拭い、彼女を油断させることから始めよう。
イリナ王女の不安材料、それは猫にしたアリーゼ嬢に逃げられたことだ。
猫=アリーゼ嬢であることが知られれば、自分たちが犯した罪が白日の元にさらされる。
アリーゼ嬢が見つかるまで、気が気でないだろう。
「イリナ王女、昨日は兵士を使って猫を探していたようですね?」
「ええ……そうなんです。
野良猫が突然部屋に入ってきて、私の頬を引っ掻いていきましたの〜〜」
イリナ王女は、涙を浮かべていた。
白々しい。よくもそんな嘘をつけたものだ。
「ラファエル様は、どうしてそのことをご存知ですの〜〜?」
「兵士が森を捜索しているところを偶然見かけたのです。
あなたの命令を受けているとは知らず、兵士達が訓練をサボったと思い、叱ってしまいました」
僕は悲しげな表情を浮かべ、そう伝えた。
「そんな、謝らないでください。
侍女が、勝手に兵士を動かしたのは事実ですから〜〜」
彼女の甲高い声が脳に響いてイラっとしたが、僕はそれを顔に出さなかった。
「その猫が、あなたの顔を傷つけたと知っていれば、兵士を使って全力で探させたのに……」
僕は悔しそうな顔をした。
「ラファエル様のお心遣いに感謝しますわ〜〜!」
イリナ王女は僕の演技にすんなり騙されている。
「ですが安心してください。
今朝、巡回中の兵士がそれらしい野良猫を見つけ、捕獲しようとしたところ、襲ってきたので切り捨てたそうです」
僕は満面の笑みを浮かべ、彼女にそう告げた。
「まあ、それは本当ですか!?」
僕の話を聞いたイリナ王女は、瞳を輝かせた。
猫の姿に変えたアリーゼ嬢が、兵士に殺されたと知って喜ぶとは、イリナ王女は性根が腐っているようだ。
僕は、イリナ王女を切り刻んでやりたい気持ちを抑え、作り笑いを浮かべる。
「あの猫が死んで本当によかったわ!
あの猫にまた襲われたらと思うと、生きた心地がしませんでした!
これで安心して眠れますわ〜〜」
イリナ王女は満面の笑みを浮かべていた。
イリナ王女は、猫の姿に変えたアリーゼ嬢が死んだと思い込んで喜んでいる。
彼女を殴ってやりたい気持ちにかられたが、僕は微笑みを崩さず乗り切った。
「イリナ王女、あなたは笑顔が魅力的な女性だ」
イリナ王女を見つめ、彼女の手を取る。
自分で言ってて吐きそうになった。
「ファエル様ったら、今日はどうしましたの!?
そんなこと言われたら照れてしまいますわ〜〜!」
イリナ王女は頬を染めた。
「ひまわりのように明るいあなたの魅力に、僕はようやく気づいたのです」
イリナ王女は、ひまわりというより、真っ白になったたんぽぽに近い。
頭が軽いから、吹けばどこへでも飛んでいく。
「ひまわりだなんてそんな〜〜。
人前でそんなこと言われたら、恥ずかしいですわ!」
イリナ王女は片手で頬を押さえ、顔を赤らめた。
僕のあからさまな態度の急変に、侍女たちが訝しげな表情でこちらを見ている。
やはり侍女はイリナ王女のように簡単には騙せないか。
侍女たちをこの部屋から追い出したい。
「今からあなたに、僕の気持ちを伝えたい」
「あなたの気持ちをお聞かせください!
ラファエル様〜〜!」
イリナ王女は潤んだ瞳で僕を見上げていた。
「ですが……人目があるのが気になります。
僕はシャイなので、人前では想いを言葉にできない。
人払いをお願いできますか?」
僕はちらりと侍女たちを見た。
「ラファエル様ったら、意外と奥手でしたのね。
そんなところも素敵ですわ。
あなたたち、今すぐ部屋を出て行きなさ〜〜い!」
イリナ王女がキッと目を釣り上げ、侍女に命じた。
「しかしイリナ王女、あなたを殿方と二人きりにするわけには……」
王女の命令に、侍女たちは困惑していた。
「これは千載一遇のチャンスなのよ!
ラファエル様からの告白を聞き逃したらどうしてくれるの!
命令に従わないとクビにするわよ〜〜!」
イリナ王女が侍女を怒鳴りつけた。
二人の侍女は、仕方ないと言った表情で部屋を出ていった。
「これで、ラファエル様と二人きりになりましたわ〜〜」
イリナ王女が僕の腕に、自分の頭を寄せた。
馴れ馴れしくされて不快だが、今は我慢だ!
「あら?
でもラファエル様の護衛騎士が、まだ部屋に残っていますわ〜〜」
イリナ王女が、壁際に待機しているゼアンを見て言った。
彼に退室されては困る。
「ゼアンのことは気にすることはありません。
彼は僕の影も同然。
彼がいても告白に差し支えはありません。
むしろ彼には、今からあなたに告げることの証人になってもらいたい」
僕は目を細め、彼女を見つめた。
「まあ証人だなんて……!
今からどんな話を聞かせていただけるのでしょう!?」
イリナ王女は期待のこもった目で僕を見た。
残念だが、あなたが期待してるような話はしないよ。




