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63話「ドントクライ」




私は前足で自分のスペルに触れました。


「A……L……I……Z……E……!

 アリーゼ……?

 まさか、君はアリーゼ嬢なのか……!?」


殿下は大きく目を開き、口を少し開け、驚いた表情で私を見ています。


私は「イエス」と書かれた紙を、前足で叩きました。


「そうか……!

 君がアリーゼ嬢なのか……!」


殿下は、頭に手を当て、驚愕の表情で私を見つめていました。


彼を驚かせてしまいました。


「不気味」だと怖がられないと良いのですが……。


自分から正体を明かしたのに、彼がこの姿の私を受け入れてくれるのか、不安になってきました。


彼に拒絶されたら……そんな不安で心が締め付けられ、気がつくと体が震えていました。


彼の温かな手が、私の頭に触れました。


「気付いてあげられなくてごめん。そんな姿にされて、心細かっただろう?」


彼は穏やかな表情で私を見つめ、私を抱き上げると、膝の上に乗せました。


殿下は……猫の姿になった私も受け入れてくれました。


先ほどまでドクドクと嫌な音を立てていた心臓が落ち着きを取り戻していきます。


もう……恐怖も不安もありません。


彼の傍にいられるなら、この姿のままでもいいかもしれません。


「君がアリーゼ嬢という事は……。

 君からもらったハンカチを額に入れて引き出しにしまっていたことも、

 君からのプレゼントについていた包み紙やリボンを箱に入れてしまっていたことも、

 全部知られてしまったってことだよね……」


王弟殿下の顔は耳まで真っ赤でした。


誰だって人に知られたくない秘密の一つや二つありますよね。


故意ではないとはいえ、それを暴いてしまったわけですから……責任を感じます。


「そんな物まで大切に保管してるなんて、気持ち悪いって思った?」


王弟殿下が不安げな表情で尋ねてきました。


私は「ノー」と書かれた紙の上に座りました。


他の方が同じことをしていたら、少し嫌な気持ちになったかもしれません。


ですが、殿下にならされても嫌ではありません。


むしろ小さな物まで取っておいて貰えたことを、嬉しく思います。


「ありがとう。君は優しいんだね」


王弟殿下はほっとした表情をしていました。



 ◇◇◇◇◇



「イリナ王女がこの国に来てから、君の身が心配だった。

 彼女は、僕の近くにいる女性に容赦しないから……」


彼の声は辛そうでした。


イリナ王女は、殿下に近づく女性を排除していたと言っていました。


王弟殿下は、サルガル王国で辛い思いをしたのかもしれません。


「だから君に、護衛をつけていた。

 だけど今日の午後、護衛からマナー教室のあと、君を見失ったと報告を受けた。

 部下を使って探していたんだ。

 まさか、こんなところにいるとは思わなかったよ」


殿下は、私に護衛をつけていてくれたのですね。


殿下が離宮の近くの森にいらしたのも、私を探していたからでしょうか?


彼に心配されていた事がわかり、心臓がトクントクンと音を立てました。


「アリーゼ嬢、偶然とはいえ君を無事に保護できてよかった。

 いや、無事とは言えないかな。

 君は猫の姿にされ、右足に怪我まで負っているのだから……」


見上げると、殿下は眉根を下げ、泣きそうな顔をしていました。


私は殿下の手をペロッと舐めた後、テーブルの上に飛び乗り、アルファベットを前足で示しました。


「D……O……N……T……C……R……Y……DONTCRY、君は『泣かないで』と言いたいんだね」


殿下は困ったように笑いました。


「君は猫の姿になっても優しいんだね」


彼はそう言って私の背中を優しく撫でました。


「君は猫の姿になっても頑張ってるんだ。

 僕も落ち込んではいられないね」


殿下はキリッとした表情でそう言いました。


どうやら、気持ちの切り替えができたようです。


「君をこんな目に合わせた犯人を捕まえたい。

 何があったのか教えてくれないか?」


「にゃー」


私は殿下と何度かやり取りして、これまでにあったいきさつを伝えました。


猫の姿で文字を一つ一つ示すのには時間がかかりました。


全てを伝え終わったとき、私はヘトヘトになっていました。


「アリーゼ嬢、お疲れ様。

 ゆっくり休んで」


殿下は私の体をそっと持ち上げると、ベッドに移動させました。


「侍女に暖かいミルクを持ってこさせるよ」


彼の気遣いを嬉しく思います。


そういえば喉がからからでした。


「お腹が空いただろ?

 ミルクの他に茹でた鶏肉と、細かく刻んだりんごを持ってこさせるからね」


緊張していて忘れていましたが、お昼から何も食べていませんでした。


食べ物の名前を聞いたら、お腹が空いてきました。


殿下の前でお腹を鳴らさないように気を付けなくては……!


彼は部屋の外に控えていた侍女に、ミルクと紅茶と、味付けをしない料理を頼んでいました。


しばらくして、侍女がワゴンに載せて食事を運んできました。


私はミルクと茹でた鶏肉と細かく刻んだりんごをいただきました。


お皿に直接顔をつけて食べるなんて、人間の姿なら貴族でなくてもマナー違反です。


でも、今の私は猫の姿。フォークもナイフも持てないのですから、仕方ありませんよね。


私が食事をしている間、殿下は紅茶をすすっていました。


お腹が一杯になり、少し気分が落ち着きました。



読んで下さりありがとうございます。

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