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58話「サルガル王国のお茶会のマナーと特別製のお茶……」


「例えば、ダリウスお兄様と結婚するなんていかがですか〜〜?」


イリナ王女の口から、突如ダリウス殿下の名前が出て驚きを隠せません。


ダリウス殿下はサルガル王国の第二王子です。


女好きでお金遣いが荒いという噂が、グレイシア王国にまで届いています。


そのせいか、ダリウス殿下には二十歳を過ぎても婚約者がいらっしゃらないとか。


私がダリウス殿下と結婚することはありえません。


彼と結婚するくらいなら、一生独身でいる方がマシです。


「ダリウスお兄様は、私に似てお顔がと〜〜ってもいいんですよ。

 それにダリウスお兄様は、明るくて、社交的で、前向きで、へこたれない性格なんです〜〜」


確かにポジティブな面だけを見れば、ダリウス殿下はそういう性格に分類されるのでしょう。


マイナス面を見れば、女好きの派手好きで、何度失敗しても学ばない、反省しない性格ということになります。


「ダリウスお兄様は、近々公爵位を賜る予定なんですよ〜〜。

 ルミナリア公爵家のアリーゼ様と、

 サルガル王国の第二王子であるダリウスお兄様が結婚することは、

 サルガル王国とグレイシア王国の縁を強くすることに繋がります。

 と〜〜っても良いご縁だと思いませんか?」


サルガル王国からはすでに、王妃殿下が嫁いでいます。


これ以上、サルガル王国との縁を深くする必要があるとは思えません。


「それに、ダリウスお兄様はこうも言ってました〜〜。

 恋愛するなら派手で可愛くてスタイル抜群の美人がいいけど、

 結婚するなら地味で賢い女が良いって。

 地味な女性なら他に貰い手がいないから、何をしても我慢して耐えてくれるって。

 賢ければ自分が遊んでる間に仕事を全部片付けてくれるから、

 そういう女と結婚したいっておっしゃってました〜〜。

 良かったですね、地味でも貰ってくれる人がいて〜〜!」


イリナ王女はにこにこと笑いながらそう言いました。


女性に仕事を押しつけて、自分は遊ぶとか王族としての自覚はないのでしょうか?


地味な女なら他に貰い手がないから何をされても耐えるだろう? 全世界の地味な女性に対して失礼です!


ダリウス殿下とは、絶対に結婚したくありません!


べナット様と婚約していた時は、家のために好きでもない相手に嫁ぐのは当たり前だと思っていました。


ですが、ラファエル様やマナー教室で仲良くなったお友達と話していて、そのような考えは間違っていたことに気づきました。


たとえ、結婚が家と家との結びつきであっても、お互いに歩み寄り尊重する気持ちがなくては関係は維持できません。


最初から結婚相手を仕事をする為の道具として扱うような方とは、縁を結びたくありません!


「アリーゼ様は、ダリウスお兄様の理想の結婚相手なんです〜〜。

 だからマナー教室の講師など辞めて、お兄様と結婚してくださ〜〜い!」


「お断りします!」


私はイリナ王女の目を見て、きっぱりと言いました。


「結婚は家同士の結びつきかもしれません。

 ですが、初めから相手を思いやる心がない方とは、縁を結ぶことはできません!

 その方と結婚することが、家の利益に繋がるとは思いません!」


私は、王女を真っ直ぐに見据えてそう伝えました。


イリナ王女は、唇を歪ませ、奥歯を噛みしめていました。

 

「そう……あなたはそういう態度を取るのね……。

 私、チャンスは与えたわよ……」


王女は下を向いたまま、何かを囁いていました。


彼女の声は小さくて、よく聞こえませんでした。


「お話が以上でしたら、私はこれで失礼します」


私が立ち上がろうとした時でした……。


「サルガル王国では、王族が開いたお茶会で出された飲み物を、飲み干していくのが礼儀なんです〜〜。

 アリーゼ様も、サルガル王国のマナーに従ってくださいね〜〜」


イリナ王女はにっこり笑ってそう言いました。


ですが口元が歪み、顔が引き攣っています。


彼女は無理をして笑っているようです。


サルガル王国の礼儀と言われては、従わざるを得ません。


たとえ相手が礼儀に欠く行動をしていたとしても、こちらが礼儀を欠くわけにはいかないのです。


私がマナー違反をしたら、サルガル王国とグレシア王国の亀裂に繋がる可能性もあります。


ここは慎重に行動しなくては……!


「すっかりお茶が冷めてしまいましたね。

 いくら私でも、客人に冷めたお茶を飲めなんて言いませんわ〜〜。

 アリーゼ様のお茶を交換してあげて〜〜」


「はい、王女様」


イリナ王女が鈴を鳴らすと、部屋の隅に待機していた侍女が、彼女の元にやってきました。


「アリーゼ様とのお茶会は、そうそうあることではないから、()()()のお茶を入れてあげてね〜〜」


「承知いたしました」


イリナ王女が、「特別製」という言葉を強調したように聞こえました。


彼女にもサルガル王国の王女として、人をもてなす心があったようです。


侍女は、入れ直したお茶を私の前に置きました。


ティーカップに注がれたお茶からは、甘い香りがします。


「どうぞ召し上がってくださ〜〜い。

 サルガル王国とグレイシア王国の友好に乾杯〜〜!」


イリナ王女はティーカップを持ち上げ、ニッコリと微笑みました。


両国の友好を持ち出されては、飲むのを拒否することはできません。


「両国の友好に乾杯」


私もティーカップを持ち上げ、両国の友好を祈りました。


お茶をふうふうして、少し冷ましてから口を付けました。


お茶を一口、口に含むと妙な味がしました。

 

苦味と痛みをともなう、およそお茶とは思えないような味でした。


舌が焦げ付き、喉が焼けるような……そのような感覚に襲われます。


吐き出してしまいたい……!


ですがこれは、サルガル王国とグレイシア王国の友好を願ったお茶……。


そのお茶を吐き出すことなどできません……!


なんとか飲み干しましたが……ティーカップをソーサーに戻すことができず……床に落としてしまいました。


席に座ることも叶わず……私はその場に倒れ込みました。


全身が焼けるような感覚がします……!


私は……何を飲まされたのでしょうか……?




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