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57話「盗まれた髪飾り」


「この髪飾りは、ラファエル様からいただいたんですよ〜〜。

 殿下の髪の色の銀細工でできていて、彼の瞳の色のアメジストが付いているんです〜〜。

 とっても素敵ですよね〜〜」


イリナ王女が侍女に命じて、髪飾りをご自身の髪に着けました。


「あれ〜〜?

 アリーゼ様ったらお顔の色が悪いですよ〜〜。

 もしかして、あなたもこの髪飾りに似たものを持っていらしたのかしら〜〜?」


イリナ王女がこちらを見てにたりと笑いました。


「でも〜〜似たものは似たものですよ〜〜。

 似た髪飾りを持っているだけで、私を泥棒や嘘つき扱いしないでくださいね〜〜?」


イリナ王女が髪飾りを見せつけ、ふふっと笑いました。


「いえ、私の見間違いだったようです」


私は席に座り直しました。


イリナ王女が身に着けている髪飾りは、私がラファエル様からいただいたものとよく似ています。


似ているというよりそっくりです。


私が落とした髪飾りを拾ったか、私の髪についている髪飾りを奪ったのかはわかりません。


イリナ王女は何らかの方法で、私の髪飾りを手に入れたようです。


ですが、それはただの推測にすぎません。


証拠もないのに、他国の王女である彼女を責めることはできません。


イリナ王女がラファエル様からいただいた髪飾りを身に着けているのを見るだけで、胃を直接掴まれたような痛みが走りました。


胸の奥がむかむかしています。


「イリナ王女、私を呼び出した理由をお話しください。

 私に話したいことがあるのでしょう?

 それとも、その髪飾りを私に見せたかっただけですか?」


イリナ王女と同じ空間にいることが耐えられません。


彼女の要件を聞いたら、一刻も早くこの場から離れましょう。


「そうでした。

 本題に入りますね〜〜」


イリナ王女は胸の前で手を合わせました。


「単刀直入に言いますね。

 あなたに、マナー教室の講師を辞めていただきたいんです〜〜」


「私がマナー教室の講師を辞めるべきだとおっしゃるのですか?」


他国の王女である彼女に、そのような権限はありません。


王妃殿下の姪とはいえ、他国のことに口出しし過ぎです。

 

「私とラファエル様は、ラファエル様がサルガル王国に留学していた時からの関係なんです〜〜。

 私達は深〜〜く愛し合っています。

 結婚の約束もしてます。

 近々、婚約の発表もする予定なんですよ〜〜」


彼女は目を細め、口角を上げ、勝ち誇った顔でそう言いました。


「だけど、筆頭公爵家の令嬢であるアリーゼ様が、マナー教室の講師として王宮に通ってると〜〜。

 ラファエル様の婚約者は、私ではなくてあなたなんじゃないかと、勘違いする貴族がいるんです。

 私、そんなの耐えられな〜〜い」


イリナ王女は、眉根を下げ、顎の前で両手を合わせ、悲しげな表情でそう言いました。


以前、イリナ王女の侍女が、ラファエル様とイリナ王女の結婚の話をしているのを、偶然聞いてしまったことがあります。


その時は衝撃を受けました。


ですが今は、イリナ王女が王妃殿下の名前を語って私を呼び出し、私の落とした髪飾りを自分のものだと主張するような人間だとわかっています。


イリナ王女の侍女も、彼女のそのような言動を(いさ)めることもしません。


そのような人物から聞いた話を、真に受けることはできません。


本当にイリナ王女と王弟殿下が婚約されるかどうか、王弟殿下や国王陛下に確認した方が良さそうです。


それにもし本当にお二人が婚約されるとしても、イリナ王女が私にマナー教室の講師を辞めるように言うのはおかしいです。


そういう話は、国王陛下か王弟殿下からされるはずです。


本当にお二人の婚約を近々発表する予定なら、私の存在など捨て置いても問題ないはず。


わざわざ講師を辞めると言ってくるということは、私が講師を続けては都合が悪いということです。


「私はグレイシア王国の国王陛下と王弟殿下に依頼され、マナー教室の講師を務めております。

 なので、私がマナー教室の講師を辞める時は、陛下か王弟殿下から辞令が出た時です。

 それまで、マナー教室の講師を辞めるつもりはありません」


私はイリナ王女の目を見て、そうはっきりと伝えました。


「陛下にお願いしても辞令を出してくださらないから、あなたに頼んでるんじゃないですか〜〜!

 察しが悪いですね〜〜!」


イリナ王女が眉根を寄せ、私を睨みつけてきました。


彼女は私に講師を辞めてほしくて必死のようです。


王弟殿下を手に入れる為に、私を彼から遠ざけようとしているように見えます。


やはり、イリナ王女が王弟殿下と婚約するという話は嘘なのでしょう。


「陛下のご命令がないのであれば、私は講師を続けます」


私は、イリナ王女の要求を呑むつもりはありません。


「あなたって、意外と勘が悪いんですね〜〜。

 国で一番優秀な女性だと聞いていたから、もっと察しがいいのかと思ってました〜〜」


イリナ王女はそう言って眉根を寄せました。


「陛下も、ラファエル様も、叔母様も、ベナット様とアリーゼ様が婚約破棄のことで、あなたに気を使ってるんです〜〜」


確かに、その部分には同意します。


「一度、あなたにマナー教室の講師を頼んだ以上、彼らの口からは『辞めてほしい』とは言いにくいんです。

 だからアリーゼ様には空気を読んで、あなたの口から『講師を辞めます』って言って欲しいんです〜〜」


イリナ王女は、悲しそうな表情でそう言いました。


「それに、アリーゼ様にはマナー教室の講師なんかよりも、も〜〜っと素敵な道があると思うんです」


マナー教室の講師よりも素敵な道……?


例えそんな道があったとしても、イリナ王女が提示できるとは思いません。




読んで下さりありがとうございます。

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