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51話「動揺と焦り」


その後、どうやって家に帰ったのか覚えていません。


気がついたら、自室のソファーに座っていました。


「お嬢様、お顔の色がすぐれませんが、王宮で何かあったんですか」


ロザリンが心配そうな顔で尋ねてきました。


「なんでもないわ。

 少し疲れただけ」


彼女を不安にさせないために、私はそう答えました。


「ハーブティーをお入れしますね。

 疲労回復の効果があるんですよ」


ロザリンはそう言って部屋を出ていきました。


彼女に気を遣わせてしまいました。


部屋に一人になると、王宮でのことを思い出してしまいます。


イリナ王女は、王弟殿下のことを「ラファエル様」と呼んでいました。


彼のことを名前で呼べるのは、陛下や王妃殿下を除いては自分だけだと思っていました。


それが思い上がりであることを、思い知らされました。


王弟殿下は、長い間サルガル王国に留学していました。


イリナ様はサルガル王国の姫。


二人に接点があっても不思議はありません。


殿下は、イリナ王女にも名前で呼ぶことを許していました。


私だけ特別だと思っていたなんて……恥ずかしいです。


イリナ王女が殿下を見る目は、恋をしている少女のものでした。


彼女が殿下に好意を寄せているのは間違いありません。


では、王弟殿下のお気持ちは……?


彼もイリナ王女のことが……?


考えたくありません。


答えを知りたくありません。


「お嬢様、お待たせいたしました。

 ハーブティーです。

 お疲れのようですので蜂蜜も添えました」


「ありがとう」


その時、ロザリンがワゴンを押して戻ってきました。


彼女がカップにハーブティーを注ぐと、ハーブの柔らかな香りが部屋の中に広がりました。


桃色の花が描かれたティーカップは……王弟殿下からの贈り物でした。


殿下は、イリナ王女にも贈り物をしたのでしょうか?


贈ったとしたら何を贈ったのでしょう?


何を見ても、殿下とイリナ王女に関連付けられてしまいます。


せっかくロザリンが淹れてくれたのです。冷めないうちにいただきましょう。


温かいハーブティーを飲んだお陰で、少しだけほっこりしました。


イリナ王女は私のことを見て、地味だとおっしゃいました。


王弟殿下も、金色の髪に桃色のドレスを纏い、幼子のように振る舞う王女のような女性が好きなのでしょうか?


自信がどんどんなくなっていきます。


「お嬢様、お口に合いませんでしたか?」


「いえ、そんなことないわ。

 美味しいわ」


ロザリンを心配させないように、笑顔で答えましたが、口元がひきつってしまいました。


「お嬢様は、勉強のし過ぎで、脳が疲れているのかもしれませんね。

 髪をほどき、ブラッシングしましょう。

 少しはリラックスできるかもしれません」


「そうね。お願いするわ」


サイドの髪を三つ編みにし、ハーフアップにしていましたが、今日は髪を結っているのも疲れます。


私は、鏡台の前に移動し、椅子に座りました。


「お嬢様、髪飾りはどうなされたのですか?」 


ロザリンが不思議そうに首を傾げました。


私は、髪の後ろに手を当てました。


結んだ髪の上に、殿下から頂いたアメジストのついた銀細工の髪飾りを着けていました。


その髪飾りがなくなっています……!


どこで落としたのでしょう……!?


マナー教室の時に無くしたなら、一緒にいた誰かが気付いたはずです。


髪飾りを無くしたのはその後のはず……!


馬車の中や、屋敷内に落ちていればいいのですが、王宮に落とし誰かに踏まれたり、捨てられたりしてしまったら……!


私はクローゼットを開け、上着を取り出しました。


「お嬢様! どこへいかれるおつもりですか!?」


上着を羽織り、部屋の外に出ようとするとロザリンに静止されました。


「髪飾りを落としたの! 今から探しに行くわ! 馬車の用意をして!」


「今からお城に行くおつもりですか? もう日が暮れていますよ!」


「でも……!」


時間が経過すればするほど、見つけにくくなってしまうわ!


今ならまだ誰かに拾われず、道に落ちているかもしれない!


「落ち着いてください! 

 未婚の令嬢がこのような時間に出歩くものではありません!」


ロザリンが心配そうな顔でそう言いました。


「だけど……!」


「日が暮れた後、外に出るのは危険です。

 行く先が王城でも、それは変わりません。

 屋敷の使用人で手分けをして、髪飾りが落ちていないか探します。

 お屋敷の中はもちろん、馬車の中もくまなく探します!」


ロザリンの目は真剣でした。本気で私のことを心配してくれているのが伝わってきます。


「それでも見つからなかったら、その時は明日の朝、旦那様が登城する時にお城に参りましょう。

 昼間の方が、物を探すには適しています。

 私も探すのをお手伝います」


ロザリンが、私を諭すようにそう言いました。


彼女の言いたいことはわかります。


彼女の言っていることが正しいとも……。


「……わかったわ」


私がそう返事をすると、ロザリンが安堵した表情で息を付きました。


「お嬢様は今日はお疲れです。

 お食事をして、早めにお休みになられてください」


「ええ……」


髪飾りを一つ無くしただけで……こんなにも動揺してしまうなんて。


今でも心がざわめいています。


殿下からの贈り物である髪飾りが見つかるように……そう、星に祈りました。



読んで下さりありがとうございます。

少しでも、面白い、続きが気になる、思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです。執筆の励みになります。




※下記作品を大幅に改稿し、中編から長編にしました。

 こちらもよろしくお願いします!

「妹の身代わりに殺戮の王子に嫁がされた王女。離宮の庭で妖精とじゃがいもを育ててたら、殿下の溺愛が始まりました」

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