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50話「隣国から来た王女」



「僕は君のことが……す……」


殿下が何かを言いかけた時でした。


「ラファエル様〜〜〜〜!!

 こんなところにいらしたのね〜〜!!」


若い女性特有の、甲高い声が聞こえました。


私は声に驚いて、殿下から距離をとりました。


殿下とこのように、至近距離で話しているところを、他の方に見られる訳には……。


彼と手を離しても、まだ心臓がドキドキしています。彼の顔を直視できません。


「ラファエル様〜〜!」


また声が聞こえました。


私は声のした方に目を向けました。


フリルとリボンが沢山ついた桃色のドレスを纏った少女が、こちらに走って来るのが見えました。


彼女を視認した王弟殿下は、顔をしかめました。


殿下のお知り合いでしょうか?


こちらに向かってきた少女は、腰まで届くウェーブのかかった金色の長い髪をなびかせた、私と同じぐらいの女の子でした。


彼女の後ろから、お付きのものが走ってくるのが見えました。


「ラファエル様、お会いしたかったですわ!」


金髪の少女は、殿下の前に立つとそう挨拶をしました。


少女からは、強すぎる香水の匂いがしました。


少女は少しつり目がちな大きな金色の目、陶磁器のようにすべすべした白い肌を持ち、整った容姿をしていました。


彼女の着ている服やアクセサリーから推測して、相当身分の高い女性のようです。


高位の貴族か、王族でしょうか?


それにしてはマナーに問題があります。


男性の名前を呼びながら、走って近づき、挨拶のときにカーテシーもしないなんて……。


「ラファエル様、私に黙って帰国するなんて酷いです!

 私、あなたが帰国してしまって、と〜〜っても寂しかったんですよ!」


彼女はそう言って、殿下の腕に自分の腕を絡ませようとしました。


殿下は彼女の腕を、すっと避けました。


殿下は鋭い目つきで、金髪の少女の背後に控えるお付きを睨みつけました。


「侍従長、この区域には僕が許可するまで誰も立ち入らせるなと命じたはずだ」


殿下がこのように厳しい表情をされるのは、珍しいです。


「申し訳ございません王弟殿下。

 イリナ王女が急に走り出したものですから……止める間もございませんでした」


彼に叱られた侍従長は、青い顔で肩を震わせていました。


金髪の少女は、イリナと言う名前のようです。


彼女は隣国サルガルのお姫様だったようです。


サルガルの第一王女が、このような破天荒な方だとは思いませんでした。


「ラファエル様〜〜!

 侍従長を叱らないでくださ〜〜い!

 私が侍従長の止めるのも聞かずに、ここに来てしまったのですから〜〜!」


イリナ王女が侍従長を庇いました。


「それもこれも、ラファエル様に一刻も早く会いたい乙女心からなんです〜〜!

 可愛い私に免じて、侍従長の事は許してあげてくださ〜〜い!」


イリナ王女は瞳をうるうるとさせ、王弟殿下を見つめました。


王弟殿下のお傍に、女性がいるだけでもやもやします。


「イリナ王女、あなたはどうしてこの国にいるのですか?」


殿下が冷ややかな視線をイリナ王女に向けました。


「叔母様が、話し相手が欲しいとサルガルに手紙をくださったのです」


サルガル王国は、王妃殿下の祖国です。


サルガル国王は王妃殿下の実兄、イリナ王女は彼女の姪にあたります。


「義姉上が……?」


王弟殿下は目を大きく見開きました。


王妃殿下がイリナ王女を呼び寄せたことが、想定外だったようです。


「叔母様は言ってましたわ!

 私がこの国に滞在することは、この国の王様の許可も得てる〜〜って!」


王女殿下だけでなく、この件には国王陛下も関わっているようです。


「陛下が、あなたを滞在させる許可を出したと……」


王弟殿下の目は冷たく、口元はやや引きつっておりました。


「私、前からラファエル様が育った国を見てみたかったんです〜〜!

 長〜〜く滞在する予定ですから、色んな場所を案内してくださいね〜〜!

 まずは王宮から案内してくださ〜〜い!」


イリナ王女は満面の笑みを浮かべ、そうおっしゃりました。


王弟殿下は、眉間に皺を寄せ、息を長く吐き出しました。


「その件に関しましては、陛下と王妃殿下に確認します」


王弟殿下は冷たい声でそうおっしゃいました。


「え〜〜!

 そんなのつまんな〜〜い!」


イリナ王女が子供っぽく駄々をこねます。


「すまないがアリーゼ嬢、今日のところは帰ってもらえるかな?」


王弟殿下は、私を見てそう言いました。


彼が私に向ける表情は、いつもと変わらず優しいものでした。


「はい、殿下」


殿下は陛下や王妃殿下とお話があるようですし、今日は帰った方が良さそうです。


「ゼアン、彼女を家まで無事に送り届けるように」


殿下は、厳しい表情でゼアンさんに命じました。


「承知いたしました、殿下」


殿下が、ゼアンさんに私を家まで送るように命じるのは初めてです。


「あら〜〜?

 そこに女性がいたんですか〜〜?」

 

イリナ王女は私の存在に気づくと、私の服装を上から下までじっくりと眺めました。


「地味な服装だから気づきませんでした〜〜!」


彼女はそう言って、私の顔を見てふふっと笑いました。


ふんだんにリボンやフリルが使われた王女様のドレスと違い、私のドレスのデザインはやや落ち着いているかもしれません。


ですが、地味と言われるほど酷いものではないと思うのですが。


「初めまして、サルガル王国のイリナで〜〜す」


イリナ王女はそう言って、顎の前で両手を合わせ、にこりと微笑みました。


サルガルの淑女は、カーテシーしないのでしょうか?


彼女の挨拶の仕方に、私は衝撃を受けました。


「初めまして、アリーゼ・ルミナリアと申します。

 王女殿下にお目にかかれたことを、光栄に思います」


私はこの国の作法にのっとり、カーテシーをしました。


「アリーゼ様は、お顔や服装だけじゃなく、挨拶も地味なんですね〜〜。

 伝統に則ってカーテシーをするなんて、おばあちゃんみたいです〜〜」


イリナ王女が声を上げて笑いました。


サルガル王国では、年配の人しかカーテシーをしないのでしょうか?


ですが、サルガル出身の王妃殿下は、優雅にカーテシーをされていました。


イリナ王女が少し風変わりだと、解釈した方が良さそうです。


イリナ王女は、先ほどから私の名前を呼んでいます。


隣国では、許可なく相手の名前を呼ぶのが普通なのでしょうか?


イリナ王女の無邪気な発言の数々に、私は愛想笑いを浮かべ耐えることしかできませんでした。


「アリーゼ嬢、この埋め合わせはきっとする。だから今日は……」


王弟殿下は、困ったようにそう言いました。


彼は、私の事を早々に帰宅させたいようです。


「承知いたしました、殿下」


私は淑女の礼を取り、踵を返しました。


「ラファエル様〜〜! 

 叔母様の所に行く前に、イリナに庭園を案内して〜〜!」


振り返ると、イリナ王女が殿下と至近距離でお話ししていました。


その光景を見て、私の心の中はもやもやとした気持ちでいっぱいになりました。


殿下とイリナ王女が親しくしている時に感じる、この胸のもやもやの正体は何なのでしょう?



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