45話「自分の意思」
「いえ、私自身がやりたいと思ったんです。
私の持ってる技術や知識を人の役に立てたいんです。
それに、同年代の女の子たちとお話ししてみたいんです」
学園に通っていた時は、忙しすぎて、同年代の女の子と話す機会はありませんでした。
「私が役に立つ人間だとわかれば、父も私の価値を見直してくれるかもしれません。
このまま家にいても、
いつ父に『修道院に行け』と言われるのかと怯えながら過ごすだけですから」
それならば、私はできることをしたい。
私の持ってる知識が誰かの役に立つなら、それを生かしたい。
それに、王宮に来れば殿下にお会いできるかもしれません。
今日のように、ガゼボでお茶を飲めなくても構いません。
遠くからでもいいので、殿下のお姿を眺めていたいのです。
「ありがとう。
引き受けてもらえて嬉しいよ」
殿下はそう言って、朗らかに微笑みました。
「マナー教室に呼ぶ予定なのは三人。
中立の家の子で、君と同い年だ」
貴族の日には、派閥があります。
中立の家の子なら仲良くしても問題ないでしょう。
「全員、年下の婚約者がいる。
婚約者が学園を卒業してから結婚するので、結婚するまで時間があるから、家で暇を持て余しているらしい」
学園を卒業した後、大体の女性は婚約者と結婚します。
なので、マナー教室を受ける時間があるのか、不思議に思っていました。
婚約者が年下なら納得です。
婚約者が学園を卒業するまでの一年か、二年、彼女達にはやることがないのですね。
「気立てのいい子達だから、すぐに仲良くなれると思うよ」
殿下は優しい目でそうおっしゃいました。
「王妃殿下が、王子妃教育を詰め込んだせいで、君は学園での生活を謳歌できなかった。
学園は勉強するだけの場所ではなく、友情を育む場所でもあるのに……」
王弟殿下は、悲しそうな目でそうおっしゃいました。
そのことで、あなたは悔やむことはないのに。
「君に、もう一度学園生活を送らせることはできない。
だけど、王宮でのマナー教室が、学園に代わる友情を育む場になればと思う」
殿下のお心遣いがとても嬉しいです。
「マナー教室が、少しでも君の癒しになれば嬉しい」
殿下はそこまで考えていてくれたのですね。
確かに学園ではお友達ができませんでした。
王子妃教育が忙し過ぎて、友達を作っている余裕がなかったのです。
一人クラスなので、クラスメイトと世間話をすることもできませんでした。
マナー教室で、同世代の女性たちと週に二回会い、他愛のないおしゃべりができたら、きっと楽しいでしょうね。
想像するだけでワクワクしてきました。
「ありがとうございます。
殿下の心遣いに感謝いたします」
私は殿下に頭を下げました。
「殿下じゃなくて、二人きりの時は名前で呼ぶ約束だろ?」
「はい……ラファエル様」
やはり、彼の名前を呼ぶのは緊張します。
「もしもなんだけど、その……君が嫌じゃなかったら……。
マナー教室のあと、一緒にお茶をしないか?」
殿下がそう尋ねてきました。
彼の頬は心なしか赤く色付いていました。
「それはマナー教室に参加した女性も一緒にという意味でしょうか……?」
「いや、そうじゃない。
君と二人だけでお茶をしたい」
殿下に真剣な眼差しで見つめられ、ドキッとしました。
「街を散策した時、君は言ってただろ?
王宮でのお茶会になら参加すると」
確かに言いました。
ですがそれは、大勢の女性が参加するお茶会で、私はその中の一人として参加するものだと思っていました。
遠くから彼を見られたら、それで良いと思っていました。
まさか、週に二回も彼と二人きりでお茶をすることができるなんて……。
どうしましょう! とても嬉しいです!
でもそれを言葉にして伝えてもいいのでしょうか?
彼と二人きりでお茶会をするからと言って、彼が私に好意を抱いてるとは限りません。
殿下はきっと、マナー教室でどのようなことを教えたのか、知りたいだけです。
過度な期待をしてはいけません。
「ラファエル様はとてもお忙しいのに……私のために時間を取っていただくわけには……」
「心配しなくてもいいよ。
君のためならいくらでも時間を作るから」
殿下は、どんな気持ちで今の言葉をおっしゃったのでしょうか?
朗らかに笑う彼の心のうちを、測る術はありません。
婚約者でもない私が、王弟である彼の貴重な時間を使ってしまって良いのでしょうか?
ですが、彼の申し出を断る理由が見つかりません。
「では少しだけ、殿下のお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。
こちらこそ、君の時間を使わせてしまってごめんね」
そういった彼の顔は、ほんのり色づき、嬉しそうな表情を浮かべていました。
お茶会のことは、父の判断を仰ぐか、お断りするのが、正しかったのかもしれません。
私が彼とお茶会をしていたら、彼の婚約者を探すのに邪魔になってしまいます。
ですが、彼と一緒にいたいと思う気持ちを止めることができませんでした。
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