35話「教会で子供達と楽しく遊ぶ」
私達は、支払いを終えてお店から出てきたゼアンさんと合流しました。
王弟殿下に連れられて向かった場所にあったのは、小さな教会でした。
そこは赤い屋根に白い壁の石造りの小さな建物で、壁や木製の扉には年月の経過による劣化が見られました。
石造りの壁を覆うように蔦が伸びています。
中庭からは、子供たちが遊ぶ楽しげな笑い声が聞こえてきます。
「ラファエル様、ここは?」
「この教会に知り合いのシスターがいるんだ。
それで、たまにお菓子を差し入れをしているんだよ」
殿下は、子供達を見つめ優しい微笑みを浮かべていました。
年配のシスターがこちらに向かって歩いてきました。
「これは王弟殿下、ようこそお越しくださいました」
「久しぶりだねシスターカトリーヌ。
元気そうで良かった」
彼は朗らかな笑みを浮かべ、年配のシスターに挨拶をしました。
「それより『殿下』呼びはやめてよ。
僕の身分を知ったら、子供達が萎縮してしまうからね。
ここでは、たまにお菓子を届ける親切なお兄さんでいたいんだ」
年配のシスターに「殿下」と呼ばれ、彼は困ったように眉を下げました。
「失礼しました。
では失礼して『ラファエル様』とお名前で呼ばせていただきます」
「そうしてくれると助かるよ」
殿下はシスターと知り合いだと言っていました。
彼らの間には、深い信頼関係があるように見えました。
「今日は、どういったご用件で当教会をご訪問くださったのですか?」
「偶然、焼き菓子を大量に手に入れてね。
だから子供達におすそ分けしようと思って。
少し、形は崩れてしまったけど味は保証するよ」
王弟殿下は、ショールに包まれたマカロンを、年配のシスターに手渡しました。
「お気遣いありがとうございます。
子供達も喜ぶでしょう」
シスターは口角を上げ、朗らかに微笑みました。
「これからお茶にいたします。
皆さんもいかがですか?」
年配のシスターが殿下に尋ねました。
「せっかくだからいただこうかな?
アリーゼ嬢はどうする?
先ほど、カフェでお茶を飲んだばかりだけど、まだ食べられるかな?」
「マカロン一つぐらいなら」
歩道に倒れていたおばあさんに、最初に声をかけたのは私です。
彼女の焼いたマカロンに、興味があります。
「では食堂にご案内いたします」
私達は年配のシスターの後について、食堂に向かいました。
「ラファエル様、シスターカトリーヌと仲が良さそうですが、どういったお知り合いなのですか?」
殿下がお名前で呼ぶことを許すほどの関係となると、限られてきます。
「彼女は、昔僕の教育係をしていたんだ。
結婚を機に教育係を辞めたけどね。
彼女の夫が亡くなって、それからはこの教会に身を寄せているんだ」
「まあ、そうだったのですね」
シスターカトリーヌはとても優しそうな方でした。
きっと教育係時代の彼女も、子供に好かれる穏やかな方だったんでしょうね。
◇◇◇◇◇
食堂で赤い色のマカロンをいただきました。
サクサクしていてふんわりと甘酸っぱいベリーの味がして、家でパティシエが作るものとはまた違った味わいがありました。
マカロンを頂いた後も、私達は教会に留まる事になりました。
教会は孤児院を併設しているらしく、そこの子供達の遊び相手をすることになったのです。
子供たちがお菓子のお礼に歌を披露してくれました。
礼拝堂に、子供達の高い声で奏でられる賛美歌が響き、感動的でした。
シスターの一人が、「賛美歌ばかりでは子供たちが飽きてしまう……」と悩んでいました。
私はシスターに、簡単に弾ける曲を教えました。
彼女にも、子供達にもとても感謝されました。
また別のシスターが「バザーに出すハンカチに刺繍を施したのだけど、いいデザインが思いつかなくて……」と悩んでいました。
私はおしゃれな刺繍のデザインと、刺繍の仕方を教えました。
シスターは「これでハンカチがたくさん売れます」と顔をほころばせ喜んでいました。
シスターは、子供達にもハンカチの刺繍を手伝わせるそうです。
成長した子から順番に孤児院を出て、外に働きに行くことになります。
刺繍などの特技があれば、仕事の幅が広がります。
私は、シスターや子供達の役に立ててとても嬉しかったです。
その後、庭に出て皆で鬼ごっこなどをして遊びました。
庭を走り回るなんて、子供の時以来です。
そうして楽しく過ごしているうちに、日は西の空に傾いていました。
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