32話「アンティークな雑貨店と木製のオルゴール」
街を歩くこと数分。
王弟殿下がある場所で足を止めました。
どうやらここが目的地のようです。
石畳の先には、木造作りの二階建ての可愛らしいお家がありました。
木の看板には上品な字で「手作り工芸品とアンティーク雑貨の店」と記されています。
お店の窓にはレースのカーテンが引かれ、ショーウィンドウには木製の棚があり、陶磁器製のティーカップや、木製のカトラリーや小物などが、美しく陳列されていました。
外から見ているだけでも、ときめいてしまうぐらい可愛らしいお店です。
「中に入ろう。
店内にはもっと素敵な物が並んでいるよ」
殿下に手を引かれ、私はお店の中に足を踏み入れました。
店内は綺麗に掃除されていて、木製の床には艶がありました。
棚やテーブルには、陶磁器やガラス製のカップやソーサー、アンティークな時計、木工品のカトラリー、手織りの布や、木製の小物などが、整然と並べられていました。
「素敵ですね!」
私はそう声を上げていました。
「店内を好きに見て回るといいよ。
気に入った商品があったら言ってね。
僕が買ってあげるから」
殿下はそう言って爽やかに微笑みました。
「そういうわけには参りません。
今日は見るだけにします。
また、街に散策に来る機会があったら、その時に購入します」
王弟殿下には、既にパンケーキをご馳走になっています。
その上、殿下の半日のスケジュールを私の為に開けていただきました。
これ以上、ご迷惑をおかけするわけには参りません。
今日、スリにあったことや、見知らぬ男性に声をかけられたことをお父様に伝えたら、きっと叱られます。
次は、外出の許可がおりないかもしれません。
もし許可が降りたとしても、その時はきっと護衛が一緒です。
今日のように、自由には歩けないでしょう。
だからといって、これ以上殿下のご厚意に甘えるわけには参りません。
「お嬢様、あちらにアンティークのオルゴールがありますよ!
洗練されたデザインの物や、可愛らしい物や、細工が凝った物まで、見ているだけで心が弾みます!」
「まぁ、本当? 私も見てみたいわ」
オルゴールは見ているだけで楽しい気分になれるので、大好きです。
「殿下、オルゴールを見に行ってもよろしいでしょうか?」
「好きに見て回るといいよ」
「ありがとうございます」
私は王弟殿下から手を離し、ロザリンと一緒にお店の奥に向かいました。
ロザリンに案内された場所には、陶器製のオルゴールや、木製のオルゴールが、丁寧に配置されていました。
陶磁器のオルゴールには、バレリーナや、ドレスを纏った貴婦人、抱き合っている貴公子と貴婦人、愛らしい服を着たうさぎなどが焼かれ、まるで生きているかのようでした。
木製のオルゴールには回転木馬が彫られたものがあり、可愛らしかったです。
「繊細で素敵ね」
見ているだけで心がときめきます。
「音も素敵なんですよ。鳴らしてみますね」
ロザリンがオルゴールのネジを巻くと、どこか懐かしい音色が店内に流れました。
「こんなに魅力的な商品が並んでいると、お店の棚ごと買いたくなるわね」
「すみません、お嬢様。
私がスリにお金を奪われなければ、
このお店にある商品を全て買うことができましたのに」
ロザリンがしゅんとしてしまいました。
「ロザリン、気にしないで。
このお店には、また来ればよいのだから」
ロザリンを励ます為にそう言いましたが、またこのお店に来れるかどうかわかりません。
なので、じっくり商品を眺め、心に焼き付けておきたいのです。
棚に陳列されたオルゴールを眺めていると、ある商品で目が止まりました。
それは、長方形の木製のオルゴールで、ワインボトルほどの大きさがありました。
箱の周りには、花の繊細な彫刻が施されていました。
オルゴールの蓋を開けると、中は小物入れになっていて、柔らかで優しい音楽が流れました。
「お嬢様、このオルゴールが気に入ったのですか?」
「ええ、心が惹かれて」
「このような素敵なオルゴールに、思い出の品を仕舞えたら、うっとりとしてしまいますね」
「ふふ、そうね」
「お嬢様がお気に召したなら、お店の人にお願いして、取り置きしてもらいましょうか?
次に来店する時には、売れてしまっているかもしれません」
ロザリンが私を気遣い、そう提案してくれました。
「そこまでしなくても大丈夫よ。
次にここに来る時の楽しみにしておくわ」
お父様が、屋敷に呼んでくれる出入りの行商人が持ってくる商品も、もちろん素晴らしいです。
ですが、こうして街に出て、自分の足でお店に向かい、自分の目で確かめて、気に入った商品を見つけるのも、また違った楽しさがあります。
屋敷に来る行商人が持ってくる商品は、洗練されていて上品な物が多かったです。
このお店にあるものは、素朴な暖かさがあります。
「お嬢様、今度はあちらにある木製のカトラリーを見に行きませんか?
絵本に出てくるような可愛らしいデザインのものがたくさんありましたよ。
他にも陶器製のペアのティーカップや、手織りの布など、興味深い商品がたくさんありました」
ロザリンが瞳を輝かせ、頬を上気させながら言いました。
「まあ、それも素敵ね」
私はロザリンと一緒に、それらの商品を見に行きました。
このお店にいると、時間を忘れてしまいます。