27話「銀髪の貴公子!」
「うるせぇな!
ナンパは早いもん勝ちなんだよ!
後から出てきて、偉そうなこと言ってんじゃねぇ!
この優男が!!」
黒髪短髪の男が、王弟殿下に殴りかかりました。
「危ない!」
私が声を上げた時には、黒髪の男性は殿下に返り討ちにあい、地面に大の字に倒れていました。
「残った君はどうする? 俺に殴られたい? 蹴られたい?」
殿下はすっと目を細め、低い声で茶髪の男に尋ねました。
「それとも……剣の錆になりたい?」
王弟殿下が男に向ける目は、獲物を狩る時の獅子のように、冷たい殺気が籠もっていました。
「ひぃぃぃぃ……!! い、命ばかりはお助けを……!!」
茶髪の男は真っ青な顔で命乞いをしました。男の体はガタガタと震えていました。
「なら、とっとと失せろ!」
殿下が茶髪の男の手を離すと、彼は倒れている相方を肩に担いで、逃げるように去って行きました。
私は殿下の勇姿に、見惚れていました。
彼は雲の上の存在。
傷物になった私には縁のないお方。
そんなことは始めからわかっているのに……心臓がドキドキと音を立て、静まってくれそうにありません。
「アリーゼ嬢、怪我はない?」
王弟殿下は、優しい口調でそう問いかけてきました。
彼に声をかけられるまで、私は彼をぼーっと眺めていました。
「あの……助けてくださり、ありがとうございます!
殿下に助けていただいたので無傷です」
私はなんとか我に返り、彼にお礼を伝えました。
「市場を一人で出歩くのは危険だよ」
彼は眉間に皺を寄せ、目を細めてそう言いました。
「しかもそんな目立つ格好で歩くなんて、襲ってくださいと言っているようなものだ」
王弟殿下は上着を脱ぐと、私の肩にかけてくださいました。
ジャケットからは、ほのかに香水の爽やかな香りが漂ってきます。
彼の上着を纏っていると、彼に包まれているような……そんな不思議な感覚に襲われます。
「一人で市場に来るなんて聡明な君らしくないね。
どうしてこんな無謀なことをしたの?」
王弟殿下は、私の前に立ち私の事を見つめてきました。
彼は、心配と優しさが入り混じった顔をしていました。
不思議です。
先ほど、見知らぬ男性二人に隣に立たれた時は、圧迫感でとても息苦しかったのに……。
殿下にすぐ側に立たれても息苦しくありません。
それどころか、とても落ち着きます。
先ほどまで、緊張と恐怖から体が強張ってたのですが、今はそういう嫌な感覚がありません。
「一人で来たわけでは……。
それに、私の格好はそんなに目立っていたでしょうか?
クローゼットの中にある服の中で、一番地味で、価格の安い物を身に着けてきたのですが……」
ロザリンは、この格好なら市場に溶け込めると言っていました。
「やれやれ、君は生粋のお嬢様だね」
殿下はそう言って、困ったように微笑みました。
それはいったいどういう意味でしょう?
「一人で来たんじゃないなら、誰ときたのかな?
一緒に来た人の姿が見えないけど」
「メイドとロザリンと一緒に」
「なるほどメイドとね。
それで、彼女は今どこにいるのかな?」
「彼女はスリを追いかけて行って……まだ、戻ってきていません……」
ロザリンの帰りが遅いのが心配です!
ロザリンが、私に絡んできたような男に絡まれていたら……!
「アリーゼ嬢、落ち着いて。
何が起きたのか話してもらえるかな?」
彼は私を落ち着かせるように、穏やかな声でそう言いました。
「パンケーキの代金を支払おうとしたら、ショルダーバッグを盗まれてしまって……。
ロザリンはひったくりを追って向こうに……」
私はロザリンが走っていった方向を指差しました。
ロザリン、どうか無事でいて……!
「それは心配だね。
一緒に探しに行こう」
殿下はそう言って私の手を握りしめました。
「で、殿下……手が……!」
男性に手を握られたことがなかったので、ドギマギしてしまいました。
心臓の鼓動が先ほどよりも、うるさいくらいに鳴っています!
「ごめん、許可もなく女性の手に触れるべきではなかったね」
殿下は申し訳なさそうにそう言いました。
ですが、繋いだ手を離そうとはしませんでした。
「君は手を離すと迷子になってしまいそうで……」
私はそんなに、危なっかしく見えるのでしょうか?
「それに、放っておくとまた変な男に絡まれそうで、心配なんだ」
王弟殿下はそう言って、不安げな顔で私を見つめました。
彼にそんな顔をされると、手を振りほどけなくなってしまいます。
「僕と手を繋ぐのは嫌かな?」
彼は眉を下げ、悲しげな表情をしました。
そんな切なげな顔で見つめないでください!
王弟殿下にそんな顔をされると、私の心臓が、ぎゅーっと締め付けられて……!
息ができなくなるのです!
「嫌……というわけでは……」
私は彼の顔をまっすぐ見られず、俯いてしまいました。
今の私はきっと、りんごみたいに赤い顔をしています。
読んで下さりありがとうございます。
少しでも、面白い、続きが気になる、思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです。執筆の励みになります。