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24話「運命的な再会」王弟視点




――王弟ラファエル視点

――




僕が帰国した翌日、王宮の人工池の傍で偶然アリーゼ嬢と再会した。


アリーゼ嬢は、眉根を下げ、唇をかみしめ、思い詰めた表情で池を眺めていた。


このままでは、アリーゼ嬢が池に身を投げるのではないかという不安にかられた。


その時の彼女からは、周囲にそう思わせるほど、表情は暗く重い空気を纏っていた。


気がついたら僕は、アリーゼ嬢のもとに走っていた。


「早まっちゃだめだ!」と、走りながら彼女に声をかけた。


アリーゼ嬢の元に辿り着くと、彼女の肩を掴み「アリーゼ嬢! 甥に婚約破棄されたからといって早まっては駄目だ!!」と叫んでいた。


彼女は目を見開いて驚いた顔で僕を見ていた。


近くで見た彼女はとても美しかった。


アリーゼ嬢は、僕が想像していたよりもずっと魅力的な女性に成長していた。


彼女の憂いを帯びたセルリアンブルーの瞳に見つめられた時、心臓が高鳴るのを感じた。


アリーゼ嬢の肩は華奢で、こんなか弱い女性に、王族の失態の責任を背負わせてしまった。


その罪悪感で、僕は胸が締め付けられた。


彼女が、べナットに婚約破棄され、身を投げることを考えるほど思い詰めていたとは思わなかった。


アリーゼ嬢が、それほどまでにベナットのことを想っていたなんて……!


僕の初恋は「失恋」に終わり、心がズキズキと痛んだ。


だが、アリーゼ嬢と話しているうちにそれが誤解だとわかった。


彼女は、ベナットとの婚約を政略的なものだと割り切っていた。


べナットのことを話す彼女の表情からは、恋愛感情のようなものを読み取ることはできなかった。


アリーゼ嬢がべナットを愛していなかったとわかり、僕はほっと胸を撫で下ろした。


だけど、彼女に王族の過ちの皺寄せを押してつけしまったことへこ良心の呵責は消えない。


彼女の十三年間を無駄にしてしまったのは事実だ。その償いをしたい。


僕は、彼女の心の傷を癒したいと思った。


彼女は、自分を公爵家の駒だと思っていた。


アリーゼ嬢は、ルミナリア公爵も自分のことを駒として扱っていると思っていた。


彼女が池のほとりで落ち込んでいたのは、

ルミナリア公爵に「政略結婚をする必要はない」と言われたからのようだ。


公爵にそう言われたことで彼女は「自分はもう公爵家の役には立たない、公爵家にとって必要のない存在だ」と思い込んでしまったらしい。


ルミナリア公爵は、かなりの口下手なようだ。


そんな言い方では、娘に愛情は伝わらないだろう。


アリーゼ嬢は、聡明な性格だが、言葉の裏を読み取るのは苦手なようだ。


似たもの親子と言うべきか、この親子のコミュニケーション能力には少々問題があるように思えた。


アリーゼ嬢は、このままでは修道院か、領地に送られてしまうのではないかと己の将来を憂いていた。


僕は、彼女にそれは取り越し苦労なこと、ルミナリア公爵が家族を大切に思っていることを伝えた。


また一緒にお茶会をしよう、と言って彼女と別れた。


 ◇◇◇◇◇


成長したアリーゼ嬢は、僕の想像よりずっと美しくなっていた。


彼女は、サラサラの銀色の髪の一部を三つ編みにして、ハーフアップにしていた。


宝石のように輝くセルリアンブルーの瞳、白磁のようにきめ細やかな肌、つやつやと輝く桃色の唇。


その全てから目が離せなかった。


アリーゼ嬢の所作は、優雅で洗練されていて、会話から知性を感じられた。


彼女が、僕の瞳の色のロイヤルパープルのドレスを纏っていたことがとても嬉しかった。


彼女がその色の服を着ていたのは偶然かもしれない。


それでも、彼女が僕の瞳の色の服を着ていたことに幸福感を覚えた。


ちなみに僕は、セルリアンブルーのジュストコールを纏っている。


僕が彼女の瞳の色の服を着ていたのは、偶然ではない。


僕は、今日アリーゼ嬢が王宮に来ることを知っていた。


彼女に偶然会えるかもしれない……そんな淡い期待を込めて、この色の服を選んだのだ。


これからは、彼女の瞳の色の服以外を着るつもりはない。


セルリアンブルーの服を、多めに注文しておこう。


彼女に少しでも僕の気持ちが届くように。


ルミナリア公爵は、アリーゼ嬢の恋愛結婚を望んでいる。


そのことに彼女が気づいたら、彼女はパーティーやお茶会に出かけ、有力な貴族の男子と仲良くなろうとするだろう。


それは困る。


アリーゼ嬢はとても魅力的な女性だ。


彼女は最近までべナットの婚約者だった。なので、男達は彼女に声をかけるのを控えていたのだろう。


彼女がフリーになり、その上、結婚相手を探していると気づいたら、ここぞとばかりに男達はアリーゼ嬢に声をかけ、彼女を口説くだろう。


それはとっても困る。


アリーゼ嬢には申し訳ないが、彼女が父親の真意に気づく前に、彼女の心を奪いたい。


僕は欲張りな人間になってしまった。


本来なら彼女の心を一番に考えて、ルミナリア公爵の真意を伝えることを最優先するべきなのに、それをしないのだから。


僕は、アリーゼ嬢の心を完全に自分のものにするまでは、彼女にルミナリア公爵の言葉の真意を伝えるつもりはない。


僕はとても強欲で、傲慢な人間だ。


僕は彼女のことを絶対に諦めない。


絶対に、彼女の心を掴んでみせる。



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