23話「祖国からの手紙と帰国」王弟視点
――王弟ラファエル視点
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そんな時、兄上から……グレイシアの国王から手紙が届いた。
手紙を届けに来た使者の様子からして、ただ事ではないとすぐに察した。
手紙を読んで、僕は衝撃を受けた。
べナットが卒業パーティーで、アリーゼ嬢に婚約破棄を突きつけ、王子の身分を剥奪され、幽閉されたと記されていたからだ。
驚きよりも、やっぱりという気持ちの方が強かった。
べナットは、思慮が浅く、世間知らずで癇癪持ちだった。
いつかは、こんなことになるのではないかと思っていた。
そもそも、べナットは側室と浮気相手の男爵令息の子。最初から王族の器を持ち合わせていなかった。
それを、今まで王子として扱っていたことが間違っていたのだ。
僕は、幽閉されたべナットを一ミリも可哀想だとは思わなかった。
やつは処罰されて当然の人間だ。
むしろ幽閉など生ぬるいくらいだ。
後世に憂いを残さないために、今度こそ処刑すべきだ。
陛下は、優しいといえば聞こえがいいが決断力に乏しい。
陛下は、べナットを殺せないだろう。
そしてまた、国王はべナットの生死を僕に委ねるのだろう。
己の罪悪感を減らすために、人に責任を押し付けるために、あの人はそういう人だ。
だが、それは僕にとっても願ってもない機会だ。
今度は判断を間違えない。
十六年前の過ちを正す為にも、僕の手でべナットを殺す。
十六年前、陛下にべナットを生かすか、殺すか、選択を迫られた時。
僕はべナットを生かす選択をしてしまった。
そのことを、今でも後悔している。
十六年前の過ちを正す機会が、ようやく巡ってきた。
べナット、僕がこの手でお前に引導を渡してやるよ。
お前は、最初から存在してはいけない子供だったのだよ。
◇◇◇◇◇
グレイシア王国に帰国した僕は、真っ先に国王と王妃に挨拶に行った。
謁見の間で玉座に座る国王は、僕が帰国の挨拶をしても、上の空だった。
国王は、自らの手でべナットから王子の地位を取り上げ、彼を幽閉したことで精神的に参っているようだ。
そんな国王の横で、王妃殿下は「私のせいです! 私が子を産めなかったからこんなことに……!」と頬にハンカチを当て涙を流していた。
国王は、王妃を慰める気力もないのか、横で彼女が泣いているのを呆然と眺めていた。
僕が国を留守にしている間に、何が起きたのか詳しく知りたかったが、彼らに聞くのは難しいようだ。
そう判断した僕は、ルミナリア公爵の執務室を訪ねた。
宰相をしている彼が、この国のことに一番詳しいと判断したからだ。
冷静沈着な公爵なら、起きたことを正しく判断し、事実を伝えてくれるだろう。
ルミナリア公爵は、僕が隣国に留学したあと、この国で起きたことを詳しく話してくれた。
彼の説明を受けて、この国で起きたことを、詳細に把握することができた。
ルミナリア公爵は、一人娘のアリーゼ嬢のことをたいそう気にかけていた。
ベナットの有責とはいえ、娘が婚約破棄され、傷物になったのだから当然だ。
「アリーゼは今まで王子妃になるための努力を重ねてきました。
その努力は全て無に帰してしまいました」
ルミナリア公爵は、悲痛な面持ちでそう言った。
アリーゼ嬢とベナットの婚約に、彼女の意志は反映されなかった。
彼女は、自分が婚約したことを事後報告で聞かされ、婚約相手をただ受け入れることしかできなかった。
しかも、婚約相手は全然自分を大切にしなかった。
この十六年間、彼女の味わった心痛を思うと、胸が痛い。
「アリーゼには苦労をかけました。
なので今後、わしから娘に縁談を進めるつもりはありません。
娘には、これからは自由に生きて欲しいのです。
アリーゼ自身が好きな人を見つけるまで、見守るつもりです。
娘には、心から愛する人と結婚して幸せなって欲しいのです」
そう言って目を細めたルミナリア公爵の顔はとても穏やかだった。
その顔は厳格な宰相の顔ではなく、優しい父親の顔だった。
アリーゼ嬢には支えてくれる父親がいる。
今後は、ルミナリア公爵が、アリーゼ嬢の盾となり矛となり彼女を守るだろう。
ルミナリア公爵さえよければ、アリーゼ嬢に婚約を申し込もうと思っていたが……なかなか難しそうだ。
ベナットの出自を公表すれば、ルミナリア公爵家は、孫や息子を王太孫にするために、べナットが王族の血を引いてないことを隠していた……と非難されるだろう。
そんな彼らを守れるのは、近いうちに立王嗣の礼を受け、王太弟になる自分しかいないと思っていた。
アリーゼ嬢と婚約をして、彼女を守りたかった。
だがそんな理由では、ルミナリア公爵はアリーゼ嬢と僕の婚約を認めてくれないだろう。
王族の身分を傘にアリーゼ嬢に婚約を迫れば、政略結婚を疑われる。ルミナリア公爵は娘に政略結婚させるつもりはないから、断られるだろう。
それに、アリーゼ嬢に政略結婚だと思われて、僕の気持ちが伝わらないのも悲しい。
ルミナリア公爵が娘の恋愛結婚を望むなら、僕は彼女の心を手に入れてみせる。
アリーゼ嬢の心を手に入れ、その上でプロポーズをする。
それなら、ルミナリア公爵も僕と彼女の婚約を認めてくれるはずだ。
今までは、王弟という微妙な立場だったから、欲しいものを我慢してきた。
いや、何かを欲する情すら押し殺してきた。
だが、そんな生活はもう終わりだ。
もう欲しいものを我慢したりしない。
僕は絶対に、アリーゼ嬢の心を掴んでみせる。
彼女を、必ず僕の伴侶にする!
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