17話「王弟殿下とガゼボでお茶会」
王弟殿下に連れられ、ガゼボに移動しました。
ガゼボの周りには花壇があり、様々な花が咲いていてとても美しいです。
ガセボから人工池が見え、清涼感のある噴水と、花々の華やかさを同時に楽しむことができました。
王弟殿下の命を受けた侍女が、ケーキスタンドと紅茶を運んできました。
侍女がカップに紅茶を注ぐと、アップルティーの甘い香りが漂いました。
ケーキスタンドの一段目には、サンドイッチとキッシュが。
二段目には、スコーンとマフィンとクロテッドクリームとジャムが。
三段目にはイチゴの乗ったケーキと、レモンパイと、マカロンが並んでいました。
会議の後、何も食べていなかったので、お腹が空いていたところでした。
私はレモンパイを一ついただくことにしました。
王弟殿下のお皿には、マフィンが乗っています。
紅茶を一口口に含むと、アップルティーの甘さが口の中に広がり、少しだけ気持ちがほっこりしました。
やはり、疲れた時には甘いものを食べるのが一番ですね。
改めて王弟殿下をじっくりと観察しました。
銀色のサラサラした髪を肩まで伸ばし、濃い紫色の切れ長の目、白磁のように美しい肌、目鼻立ちが整った美しい顔。
八年前の王弟殿下のお顔には、まだあどけなさが残っていました。
成長なされたこともあり、今の殿下は高貴さと優雅さの中に色気が混じり、優美な好青年といった感じです。
彼が纏っているのは、きちんとプレスされた白のシャツとベスト、セルリアンブルーのジュストコールとズボン、黒の靴です。
王弟殿下は服に着られることなく、見事にそれらのものを着こなしていました。
彼の紅茶を飲む姿の優雅さに、思わず見とれてしまいます。
彼は私と目が合うと、目を細め口角を上げました。
妖艶なほど美しい彼に微笑まれると、照れくさくなってしまいます。
落ち着きましょう。
彼に微笑まれる度に、ときめいていたのでは心臓が持ちません。
お菓子と紅茶を出し終えると、侍女たちは下がっていきました。
「人払いをしたから、これでゆっくり話せるね」
王弟殿下は穏やかな表情でそうおっしゃいました。
「王弟殿下がお戻りになっているとは思わず、先ほどは声をかけられて驚いてしまいました。非礼をお詫び致します」
「気にしなくていいよ。急に声をかけた僕にも非はある。
昨日帰国した時、陛下には一番に挨拶に伺ったのだけどね。
陛下から僕が帰国していることを聞かなかった?」
「陛下からは、『隣国に留学している王弟殿下に、帰国するように記した手紙を送った』としか」
「そうか。
陛下も色々なことがあってお疲れだから、
僕が帰国したことを君に伝え忘れたのかもね」
王弟殿下はそう言って、困ったように眉を下げました。
陛下にとってべナット様は、血のつながりがないとはいえ、大切に育ててきてきた息子。
陛下は、べナット様が問題を起こしたと知った時、さぞやショックだったでしょう。
ベナット様に処罰を下さなくてはいけないのは、国王陛下です。
ベナット様の王位継承権を剥奪し、幽閉処分を下した時の陛下の心痛は、察してあまりあるものがあります。
王弟殿下が帰国したのを私達に伝えるのを忘れるくらい、陛下は疲れていたのでしょう。
「陛下と王妃殿下と会議室で話したそうだけど、君はどこまで聞いたの?
池のほとりでは詳しく聞けなかったから、今話してくれないかな?」
王弟殿下が眉根を寄せ、真面目な顔で尋ねてきました。
「べナット様は、側室の托卵で出来た子だということ。
私とべナット様との婚約は、彼を王子として生かすためのものであったこと。
次の国王には、私とベナット様の子供がなる予定だったこと。
べナット様が大勢の前で私に婚約破棄を突き付けたことで、その計画が破綻したこと。
べナット様は王子の身分を剥奪され、幽閉されたこと……。
私が陛下から伺ったのはここまでです」
自分の口から言うと、情報量の多さにびっくりします。
「そう……君は全てを聞いたんだね。
そのことをいつ発表するかはもう聞いたかな?」
王弟殿下の目は鋭く輝き、口角が引き締まっていました。
彼の表情から、大事な話だというのが伝わってきます。
「いえ、それはまだ」
私は首を横に振りました。
これだけの情報は内密にはできません。
いつか発表しなくてはなりません。
国内に起こるであろう波紋を考えると、伝えるべきタイミングは重要だと思います。
「ベナットの王子の身分が剥奪され幽閉されたことと、彼の生い立ちについては、
僕が立王嗣の礼を受ける時に発表する予定だ。
それまではこの件は内密にしてほしい。
君とベナットの婚約破棄の件についてはもっと早く発表する予定だ。
婚約破棄は、ベナットの有責であることを念を押して伝える。
君が不利益を被ることはない。
だから安心してほしい」
王弟殿下は、目を細め優しく微笑みました。
「はい、承知いたしました。王弟殿下」
ベナット様が国王陛下の血を引いていなかったことは、かなりセンセーショナルな事実です。
国民に動揺を与えないためにも、次のお世継ぎの発表と共に国民に伝えた方がいいかもしれません。
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