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15話「思いがけない再会」


しかし、私のお茶会での待遇は改善されたのですが、ベナット様との仲はより拗れてしまいました。


彼との仲が拗れた理由は二つ。


一つ目は、お茶会の件で、ベナット様が陛下と王妃殿下からお叱りを受けて、彼はへそを曲げてしまったこと。


二つ目は、ベナット様の楽しみを私が奪ってしまったこと。


ベナット様は、何時間も私を放置することに優越感を覚えていたようなのです。


楽しみを奪われ、陛下から叱られた殿下は、ご機嫌ななめ。そして、そのストレスを私にぶつけたのです。


私はベナット様に歩み寄ろうと最善を尽くしました。


しかし、彼との距離は縮まることはありませんでした。


ベナット様は、私の存在を最初から拒否していました。


彼は、私と仲良くする気が全くありませんでした。


その理由がずっと謎だったのですが、卒業パーティーで解けました。


彼は自分の母親の身分が低いことに、コンプレックスを抱いていたのです。


彼は、公爵家の当主の父と、侯爵家出身の母の間に生まれた私に、嫉妬していたのです。


側室の托卵によって生まれたベナット様を救うために、王家の縁戚である私が婚約者に選ばれました。


言わば私は彼の命綱だった訳です。


なのにベナット様は私を嫌い、私に婚約破棄を突きつけ、自ら命綱を手放してしまった……。


私の生まれが良いから彼の婚約者に選ばれたのに、それがベナット様との間に大きな溝を作る原因になってしまった。


世の中は、うまくいかないものですね。


ミュルベ元男爵令嬢が私の立場だったら……頑ななベナット様のお心も解きほぐし、彼と仲良くなることができたのでしょうか?


私に愛想や話術が無いから、ベナット様のお心をつかめず、彼を死地に追いやってしまったのでしょうか?


今さらどうにもならないのですが、つい考えてしまいます。


ですが、人様のことを心配している余裕は今の私にはありません。

 

ベナット様との婚約が破棄され、公爵家の長女として政略結婚をすることもなくなった私は、これからどうすればいいのでしょう?


お庭を散歩すれば、少しは元気になれるかもしれないと思ったのですが、思いのほか効果はありませんでした。


もう……歩く気力もありません。


私は、柵に寄りかかり、池に映る自分の影をぼんやりと眺めていました。 


「早まっちゃだめだ!」


突如背後から男性に声をかけられ、私はびっくりしました。


振り返ると、銀色の髪の男性がこちらに走ってくるのが見えました。


セミロングの髪を揺らしながら走ってくる男性は、焦った表情をしていました。


「アリーゼ嬢! 甥に婚約破棄されたからといって早まっては駄目だ!!」


「えっ?」


私の元に駆け寄ってきた男性は、そう言って私の肩を掴みました。


甥、婚約破棄、銀髪の男性……。


「もしかして王弟殿下ですか? ご無沙汰しております。ルミナリア公爵家の長女アリーゼです。いつ王宮にお戻りになられたのですか?」


国王陛下は、王弟殿下に帰国する手紙を書いたとおっしゃっていました。


ですが、彼はすでにこの国に戻っていたようです。


「ああ……久し振りだね。昨日城に着いたんだよ。」


王弟殿下は、昨日帰国したのですね。でも、おかしいですね。陛下は王弟殿下が帰国したことを教えてくれませんでした。


「アリーゼ嬢、婚約破棄されたからって命を粗末にしてはいけない!」


彼はロイヤルパープルの瞳で不安げに私を見てきます。


彼の声は厳しいですが、厳しさの中にも優しさと温かさがありました。


「はぁ……おっしゃってる意味はよく分かりません。

 どうして私が命を粗末にしなくてはならないのでしょうか?」


やりたいこと……はまだよく分かりませんが……せっかく学園の授業と、王子妃教育から解放されたのです。


やりたいことが見つかるまで、ゆったりのんびりしたいです。


せめて、読みかけの小説は最後まで読んでしまいたいです。


「昨日、ルミナリア公爵から聞いたんだ! 君が卒業パーティーで甥に婚約破棄をされ恥をかかされたと……そのことで身投げをしようとしていたのではないのか!?」


王弟殿下は困惑した表情で尋ねてきました。


「確かにベナット様からは卒業パーティーで婚約破棄されました。ですが王家から多額の慰謝料をいただきました。それにベナット様のお相手の令嬢もそれ相応の罰を受けました。だから、そのことはもう気にしていません」


「良かった……! 僕はてっきり君が苦しみのあまり、世をはかなんだのかと……!」


王弟殿下が安堵の表情を浮かべました。


「それはありません。ベナット様との婚約はあくまでも政略的なものと割り切っておりました。

 それに私は彼を一切愛しておりません。

 ですから彼に人前で婚約破棄されて、恥をかかされたくらいでは、身投げしたりはしません」


「そうか君は強いんだね……」


私の言葉を聞いて、王弟殿下は安堵の表情を浮かべました。


「そうでもありません」


私は首を横に振りました。


「ベナット様との関係がそれだけ希薄だったということです」



読んで下さりありがとうございます。

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