おわり
それからまた暫く経ったある日、M氏からメールが届いた。
”O君だ。これで良い物語が書けると思う”
とだけ書かれた文章とURLだけが付属されていた。その手のウイルスを疑ったが、記載されていたのはニュースページだった。
四月四日に四ツ谷駅付近で人身事故が起きていた。そんな記事だ。だが、それ以上調べることは難しかった。人を探すにも駅では聞き込みも難しい、ならばせめてとSNSを頼ってみたが該当日四ツ谷での人身事故は流れていなかった。
再度確認のためにM氏のメールに記載されていたURLをクリックしたが、すでにリンクは切れていた。
O君の日記はM氏が彼の実家に返却した。
それからお互いに仕事が忙しくなったのを切っ掛けに、M氏とは次第に連絡がとれなくなり、そして縁が切れた。
あの夢を見ると言っていた彼が、どうなったか気になるが、そういった不穏な噂が流れていないあたり健在なのだろう。現に彼が編集する雑誌も発刊されている。
「あの。よかったら座ってください」
試しに宰さんと山手線に乗ったが、何も変なことは起きなかった。
強いて言うならば、人酔いで疲れたというくらいだろうか。どうにか宰さんが席を確保してくれて私はようやく落ち着ける。
「ありがとう。乗車する時間帯、悪かったね」
「いえ。いつだって混んでますよ」
同じように人酔いをしている宰さんが答える。
「辛くなったら、いつでも変わるからね」
「ありがとうございます。でも、立ってる方が楽なんです」
宰さんがそう強がって言ってくれるので、私は甘えることにした。
「Mさんはこれで話が書けるって言ってたけど、書けそうですか?」
心配そうな宰さんに、私は「大丈夫」と答える。
舞台は身近な場所だ。グロテスクな夢、不可解に終わる話。それらの要素から何かできないかと頭の中でプロットを立てる。
集中するために目を瞑る。
がたん、ごとん。
がたん、ごとん。
電車に揺られる。
心地良い。
一定のリズムで揺れ聞こえる走行音、柔らかな日差しに微睡む。
私が今いるのは夢か、現実なのか。
そんな曖昧な感覚の中、遠く、遠くでアナウンスが流れている気がした。