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祈憚  作者: 和鏥
鬼門
5/33

現在


「そんな日記があってね。明日送り返す予定なのだけれど、君に一度読んでもらいたくて」

 私が読み終わるのを見計らい、M氏が言った。

「彼と……。O君とはコンタクトをとれていますか?」

「いや、俺から連絡はしていないんだ。なんとなく、怖くてね」

 情けないだろう? M氏はそう言って手付かずのケーキを宰さんの方に押しやった。宰さんは嬉しそうにしていたが、話の邪魔にならぬよう小さく頭を下げただけだった。

「気になった事があるんだ。彼が、日記で書いていた駅の順番なんだけどね」

 彼はそう言ってコピーしてきたのだろう、山手線の経路図を一枚取り出した。そして、東京駅に一と六、高田馬場に二、品川に三、馬場に四、渋谷に五と番号を降った。

「彼らが到着した順に線を引くと」

 そう言ってペンで線を引く。それは少し歪んだ星の形を作る。

「出来すぎた話だけどね。話をしたかったのはそれだけ。一人で抱えてるとなんだか怖くて」

 そう言った彼は疲れ切っており、目の下には隈がある。相当怖い思いをしたのだろうか。

 鬼門、裏鬼門の話をしたが、氏はやはり調査済みだった。それどころか

「山手線の経路図は陰陽五行の太極図と一致するとも言われている。また、それを守護する二頭の犬っていうのが、渋谷のハチ公像と上野の西郷像だ」

 と、経路図の渋谷と上野を指して教えてくれた。丁度、O君が乗ったとされる線がかかっている場所でもある。

「けれど、都市伝説の枠から出られない。行き詰まった。だから、君の力を借りようとしたんだけど……」

「私は鬼門裏鬼門の話だけで、満足していた身ですので……。恥ずかしい限りです」

 正直忘れていました、などと言えるわけがなく私は頭を下げる。M氏は「いいよ」と答え、それから話題はただの世間話に変わって行った。


「あの……。ケーキごちそうさまです。友達の家に寄ってから帰りますんで、これで失礼します」

 帰り際、私とM氏に向かって宰さんが言った。

 手には持ち帰り用のケーキが入った箱が握られている。

 残された私とM氏は最寄りの駅に向かう。電車に乗るのはM氏だ。改札口に向かった彼は突然振り返ると、早足で私の元にやって来た。

「あのさ。コレって現実だよね?」

 突然の問いかけに私は困惑した。

 おかしな質問だと思うのだが、M氏の目は至って真面目だった。

「はい、現実です。夢ではありませんよ」

「だけど、君はこの前の夢でも――……」

 そこでアナウンスが流れ、彼は慌てて改札口に向かった。

 あれ以降このネタに触れていないのは、仕事と私生活で手一杯となったからだ。

 ちょうど、M氏がこの件を調べ直すと仰ってくれたので、せっかく頂いたネタだったが全て返すこととなった。そのことを宰さんに伝えると、すんなり納得してくれた。

 体験したわけではないので、あの不可解な話も月日が経てば恐怖心は薄らいでいく。


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