美月side 可愛いって何
「美月って可愛いよね」
私は、そう言われれることが日常茶飯事だったし、それに対して何かを疑ったことは終ぞなかった。
でも、見えない悪意は確実に存在して、私は悪意を見て見ぬふりをしなければなかったことに気が付いたのは高校生の時だ。
「美月、この人にこれ渡してきて」
そう言って渡されたのは、綺麗にラッピングされたフィナンシェだった。
「何これ?誰に?」
「三年の宮下先輩に。私宮下先輩好きなんだけど超緊張しちゃって。美月なら平気でしょ。お願い、友達のためを思って」
宮下先輩というのは、三年の先輩で剣道部の部長をしている、硬派で真面目なイケメンである。頭も非常に賢く、推薦でいち早く、東京のとある国立大学に受かったほどだった。
そのため、一年の私たちからすると、雲の上の人という位置づけで人気もすさまじかった。
そんな人に私はこれを渡しに行くのか。
私はなぜか、昔から美月なら緊張しないと思われがちだったが、本当はそういうのとっても苦手だ。
私だって初対面の人と会うのはドキドキするし会いたくない。ましてや、あの先輩だ。
「ねえ、本当に一回だけだから」
そうやって頭を下げる、果歩の真剣さに圧倒された私はいいよと笑顔で微笑んだ。
頑張るの果歩も可愛かったからだ。
「じゃあお願いします」
キラキラ目を輝かせて言う果歩はザ、女の子様で本当に美しい。
「もちろん任せて」
私は、安心させる様に果歩の肩を叩いた。
放課後三年の教室の方へ向かい奇異な目で見られる中、宮下先輩を探した。
どうやら話を聞くと、彼は既に部室に向かったようだった。
私は、部室となってる武道場の方へ向かった。すると、そこで竹刀をを振っている先輩を見つけた。
「あ、宮下先輩ですよね」
「ああ、そうだけど君は?」
「一年生の笹原です。先輩に渡したいものがあって」
そういって私は先輩に果歩のお菓子を渡した。
「……お菓子。か。俺アレルギーで食べられないんだよね。ごめんね」
先輩は私に申し訳なさそうに顔をポリポリと掻いた。
「あ、全然、謝らなくて大丈夫です。練習中にすみません。私も実はそばアレルギーです!」
「いや、どんな脈略?それ関係ないでしょ」
余計なことを言って少し顔が赤くなる私に対し、ははっと爽やかに笑う先輩は、そのまま優しく目を向けた。
その目を見て少しどきっとしてしまった。
「笹原さんだっけ?ちょっと待ってね」
彼は自分の竹刀を横に置くと、そのまま自分の鞄を探ると携帯を取り出した。
「lineからでも交換しよう。俺は普段あまり女子とは交換しないんだけど。君は特別」
スマホをんと振る先輩を見て、私は肝心なことをはじめに言っていなかったことにようやく気付いた。
「あ、あの実は、そのフィナンシェ友達からなんです……」
「え、君がくれたわけではないの?そうか、ちょっと残念だな、まあここまで取り出してなんだし、連絡先だけでも交換しようか」
「は、はい」
なんだろう、罪悪感とちょっとした気持ちの高揚でこの分からない気持ち……。
この「はい」が後に最悪なことを生み出してしまうことはこの時は知る由もなかった。