三人目の友達
「二人とも遅い!先飲んでるよ」
そういって手招きして少し不機嫌そうな顔をしているのは、大島夏樹だ。夏樹は、ショートカットに大ぶりの赤色のピアス、黒いタイトなワンピースを着ている。
またそれが、彼女の大きな黒目を目立たせ、小さい鼻と小さい顔と相まってカリスマ的存在感を放っている。
美月のような完璧な100点満点の美しさとは違うが、80点はとうに超える。
好きな人は大好きな顔そしてスタイルだ。
「うわー今日の恰好なかなか攻めた格好だね」
「違う違う、今の彼氏日本人じゃないからこういうのが好みなんだって」
夏樹は、元々、父の仕事の関係でドイツに住んでいたことがあるせいか、海外志向でヘルシーを好んでいた。なぜ日本にはビーガン食が少ないのかとドイツではたくさんあったのにと嘆いていたほどだった。
「えー聞いてない!ちょっと話を伺わねば!」
「まず、飲み物頼んでからね」
私は、目を輝かせている美月を引っ張りながら、夏樹に後でねとかすかに笑う。
それを見て、夏樹も右目でウインクをした。
綺麗。モデルみたい。
私はそんなことばかり考えてしまう自分が少し情けなく感じた。
「で、で、まずどこの国なの?」
席に着くなり、開口一番に美月が話す。
「実は、ドイツの人なんだ。高校の時の同級生のつながりで、その人が今日本に滞在していることが分かって連絡を取り合っているうちに……的な」
「わあー、めっちゃいい!!夏樹ドイツ語そして英語もペラペラだもんね。良いなー帰国子女!うらやましいぞ!」
美月は夏樹のほっぺをツンツンと触る。
「まあ、今の大学も正直英語で入ったみたいなもんだしね。それには異論はないよ。そういえば、ひな。最近、なんか考え事してる?なんかちょっと心配でさ」
夏樹はこう見えて観察眼が非常に優れている。
少しの疲れなど夏樹にかかればあっという間に暴かれる。
無論、私でもわかる単純そうな美月のことは多分なんでもわかっているのだろう。
「え、ああ、ちょっとね。バイトで最近疲れてて」
嘘だ。本当はインスタの写真や自分の顔をどうしたら美しく見えるかの研究し過ぎで眠れていないだけだ。
「ああ、頑張り屋さんだもんねひなは。偉い偉い」
頭をポンポンと二回撫でられる。
非常に気持ちがいい。
もし、彼氏が夏樹だったら非常に居心地が良いだろうな。
「じゃあ、これあげる」
そう言ってもらったのは、2枚の水族館のチケットだった。
「何これ」
「ひな、誰かとここへ行きなよ。二人へってもらったんだけどさ、私らあんまり外出好きじゃないから、お家デート中心だから」
「え、じゃあ私と行く?退屈はさせない!」
「あんたは、出しゃばらない!」
美月の頭の上にチョップがささる。
私はこれをもらって嬉しい反面複雑な気持ちになった。
素直にありがとうともらえればよいのだが、遊ぶ人がいない暇な人扱いされているのかもしれないとどこかで思ってしまう。
そんなこと絶対夏樹の性格からあり得ないのに、惨めな気持ちになるのはなぜなんだろう。
「あ、ありがとう!だれか誘っていくね。ごめん、お手洗い」
そういうと夏樹はにこっと微笑んで、いってらっしゃいと言ってくれる。
こんなに良い人そういるはずもないのに。
「……ごめんね」
私は心の中でそうつぶやいた。
「ねえねえ、お姉さん可愛いね。一緒に遊びません?」
トイレの帰りに男性3人組に声をかけられた。
「すみません。友達ときているので」
「あそこの二人だよね、友達も一緒に遊ぼうよ」
私はこういうことがよくある。
あの二人は断られそうだから、とりあえず私に声をかけておくかと照準を定めて私が一番オッケーしそうな顔なのだろう。
「だから、無理です」
「ねえ、何の話しているの?」
にゅっと私の後ろから顔を出したのは、美月だった。
「あ、あの一緒に遊んでくれないかなーって。俺がお金出すから!」
急にたどたどしくなった態度にへどが出る。
「あ、お兄さん方イケメンですね」
「い、いやそんなことな」
「でも、私らのタイプではないから他をあたってください。ね」
最後の「ね」は強調した恐怖を感じる言葉だった。
美人がすごむとさらに怖さが増す。
「わ、わかりました。また暇だったら誘ってください」
そう言い残すと三人組はすごすごと去っていった。
「もう、ひなは自分が可愛い自覚なさすぎ!もっと引き締めて!」
美月は私の手をぎゅーと握りながら話す。
かすかにその手は震えていた。
「大丈夫。私が絶対守ってあげるからね」
美月は私の手をそのまま思いっきり抱きしめるといつもの笑顔で微笑んだ。
「うし、私もトイレに行ってくる!」
やっぱり美月と私は違う。
彼らは私ではなく美月たちと遊びたいから声をかけたに過ぎないと私は今でも思う。
それに私も別に声をかけられても嫌ではなかった。
でも……美月は……。美月に関して私はよく知らないことが沢山あるのかもしれない。
私はその場で美月に強く握られた手を何度もさすった。