劣等感
「ひな!おはよう!」
私は後ろから肩をたたかれた。
振り返ると、学年一美人と名高い笹原美月が、私に微笑みかけていた。
ぱっちりとした二重、鼻筋が通った綺麗な鼻、主張の激しくない唇に、卵型の綺麗な輪郭、その上ブルーベースときている。
この人に百点とつけないでだれが百点というのだろうか。
「おはよう!今日も元気だね」
「……実は、今日寝坊しちゃって。メイク適当なんだけど変じゃない?大丈夫?」
少しそわそわと私に確認を頼む。
「どれどれ。うん、いつも通り綺麗だよ」
「もう、ひなは優しいんだから。本当のこと言って良いんだよ」
「本当だって」
その言葉を嬉しそうに美月は、媚びを売っても何も出さないからね!
とふわっと微笑んだ。
ああ、なんて綺麗なんだろう。
嫌味がない美しさ。
私にはないこの純粋さが羨ましい反面少し憎くも感じた。
私がメイクのために費やしたこの時間は、この子にとっての睡眠時間だ。
私はメイクが大好きだ。メイクで美しくなることもできる。
しかし、何もしなくても純粋な内面からあふれ出る美しさはどうにもまねできそうになかった。
ずっと美人で来たからこそのあふれんばかりの自信。
「ひな、どうした?おなか痛い?」
ぼーっと考えていた私を心底心配そうにのぞき込む。
嫌味は全く感じない。いかんいかん。話を変えないと私が暗くなってしまう。
「ううん。なんでもない。そういえば、今日の授業宿題あったよね」
「……うそ!やってない!うわー本当にありがとう。ひなはしっかりしているから本当に助かる!」
……違うよ。私はしっかりしていないと誰からも助けてもらえないから。
口まで出かかったとげとげしい言葉を必死に喉の奥へ押しやった。
「じゃあ、教室行こうか」
「うん!」
少しのわだかまりを残したが、私は自分の顔を鏡で確認することで安心することにした。