銀髪で病弱で幸薄そうな痩身の女の子の首を絞める話
「――っえ」
ひょん。まるでそんな気の抜けたような言葉が似合ってしまうほど、気の抜けたあっけのない声が漏れる。
ふと。震える彼女の瞳に映る男が笑っていた。
怯えた瞳を浮かばせながら、それでも何かを期待するように口角は若干と上がっており、それでも恐怖に体と記憶は支配されており、ビクリと、目線に晒された途端に大きく震えた。
「どうしの? そんな強張った顔、しちゃって」
男に見下ろされている。
いや、男が多い被さろうとしている。
私はベッドに押し倒されたのだ。
この表現だと少し誇張している気がするが、それでも結果は同じだ。
男が私とすれ違う、そんな瞬間に横から軽く押され、それだけで私の体はベッドの上に。
昔から病弱で痩身だったこの体はとても軽く、男には私は押し倒すことなど、まるで造作もない。
ニヤニヤとまるで悪魔の笑みのような笑みが本性が滲むように浮かび上がり、私の首横に押された手とは逆の右手を、私の腹部に添わせた。
「っん……くふぅ……っ」
苦しい。息ができないわけではないが、男の呼吸に合わせたように間隔ごとに圧力がかかる。
それは筋肉のまるでないお腹を押すのはたやすく、そして恐怖が芽生えてくる。
男性の腹部にはなく、女性の腹部にはあり、それはとても――女性にとっては大事なもの。
対して優しくもない刺激が子宮を刺激すると、それは恐怖でも快感でもなく、ただ逃げなきゃと本心が体をよじらせるだけだ。
「苦しそうにしちゃって。何? 俺がマッサージしてあげてるのにさ。気持ち良くないの?」
「気持ちよく、ない、っぁ……やめてっ、ください……ぃ」
男の腕の動きに合わせるように、私の口端から漏れる、到底意図しない声が漏れだす。
やめて。そう目で懇願するような視線を送れば、それは急に訪れた。
「あがっ!? ――がっ……はっ、はぁぁ……っぃ!?」
「いやなの? ねぇ、俺からされることさ、嫌なことないよね?」
「いやじゃっ、ない、からっ! だからっ――」
「だから何? 止めて欲しいって?」
瞬間、私は気づいた。
その目だ。その、この目。
まるで遊んでいるような、楽しそうな。それでいて悲しそうなそんな目に。
――私の体は恐怖にも似た何かに支配されていたんだ。
まるで私を遊ぶような、苦しくて逃げたくてたまらない間隔を見計らって、繰り返すのだ。
絶頂たいと叫ぶ体を、許さないを蜜壺の弄り方を変え、大して気持ちよくもない外れた場所を弄り、絶頂感が遠のく狭間に入り口付近を狂うほどに激しく。
まるでそれだ。
逃げたい逃げたいともがく体が、解放された瞬間には甘く漂い続ける快楽の微波に苛まれ、逃げることができない。
私の体は、この男に弄ばれ続けるのだ。
「気持ちいい癖に。苦しいのが良い癖に。それを俺に求めているのにさ……本当に困っちゃうよ」
吐き捨てるように呟いた言葉の顔は、慈しむような、まるで辛がるような、そんな顔だ。
私のために、こんなことをしているのか。
それを考えてしまうような顔だ。
それを考えれば考えるほど……とても気持ちがいい。
どんな苦痛も、どんな苦しみも、私のために、なんて枕詞がつくだけで、快楽に変わってしまう。
「だっらしねぇ顔だな。仮にも美少女だなんて持て囃されてんのによ」
「あいっ!?」
男の言葉で自覚を持てば、次の瞬間には下を引き伸ばされた。
私の顔は、まるで水を求める犬のように舌を吐き出し、肩は脱力するように下がり、顔の造形はまるで快楽に蕩けるように無様なものになっていた。
「いっつもダメなお前を叱ってあげてるのに。なんでお前はそんな気持ちよさそうな顔してんの?」
いきなり舌を引っ張られれば口を閉じてしまい、叩くようにして噛んだ舌からは若干の鉄の味がして、蕩けだした目も一瞬で苦痛に変わる。
でも、それが気に食わなかったのだろう。苦痛に染め方を変えた顔に、男はつまらなそうに吐いた。
「いっつも辛いんだよ? 何から何まで俺がいないと不安だなんて言ってさ。俺だって好きでやってるわけじゃないのにさぁ」
するり。
突然と先ほどまで腹部を圧迫していた手のひらが、指先で添わせるように突き立て、鳩尾を通り、胸部を焦らすように這わせ。
「君がそんな顔するから、僕はもっと、頑張らなきゃいけないじゃん」
――いやっ、いらないのに!
耳を撫でるように優しく包み、頬を撫でるように擦りおろし。
分かっているのにくすぐったさで警戒を解いてしまう。
分かってる。本当に分かっているはずなのに。
「かはぅ……はっ、はぁっ……あ“あ”っ!?」
油断しきって晒した首元を、男のごつごつと大きな手が力強く締め付けた。
苦しさのあまり空気を吸おうと灰を動かすが、まるで逆効果。吐き出すだけで吸える酸素はどこにもなく。
「本当はやりたくないんだよ? 俺だって疲れるし、それになりよりさ、君のそんな顔は見たくないんだ」
苦しい苦しいともがく様に涙や唾液が流れ出せば、それを拭うように開いている手でそっと撫でる。
苦し紛れに滲む視界で男の顔を見てみれば、まさに悪魔だ。
この苦痛を与えることをまるで遊びと考えているのではないかと思ってしまうほど、にやけているのだ。
逃げようと体をい動かしてもすでに男にまたがられているせいで身動きすることが出来ず。
手を使ってどかそうとするけれども。
「逃げちゃだぁめ。そんな悪い手は、捕まえとかなくちゃね」
私の細腕を男の片手がベッドに押し付けるようにして、完全に抵抗ができなくされた。
手を頭上で拘束された状態で首を閉められれば、いつもよりも苦しさが増していく。
「ほら。悪い子は反省、しなきゃ」
汚らしい効果音が着くと思えるほどの笑みを浮かべながら、更に強く首を絞めてくる。
今度は完璧に息ができないほどにだ。
これは苦しいとか痛いとかじゃなくて、頭に血が溜まって熱くなる顔と、血が流れなくなり冷える体。まさに死神の宣告のようなものだ。
死ぬ。本当に死ぬ。
冷静なままならばこれを考えられただろう。でも、頭には何も浮かんでこない。
「苦しい? 助けてほしいの?」
まるで興奮するような息遣いが鼻先にかかるほどまで顔を近づけてくれば、嫌でも耳に声が入る。
「だすぅ、け、てぇ……ふぐぅ!?」
「ほら! ほらほら! もっと助けてって言わなきゃ!」
「ばぁっ! ぐるしぃっ!? っは! っはぁ!? ……ぐふぃ!?」
楽になれる寸前のラインをまるで見極めているように、意識が飛ぶ、その瞬間に手を緩め、まるでぬるま湯につからせ要るように、逃げ場がない。
涙がこぼれて行く。
口端から泡が立った唾液が滲む。
まるで。なんて言葉がいらないほど、私の顔は汚いだろう。
「ほら。やめてほしかったらさ、おねだりしなきゃ」
「わがっ!? もう、やめでぇ!?」
私が喋るたびに強く締め付け汚い声を出させれば、それをおもちゃのようにして遊んでくる。
もう喉が潰れてもおかしくはないと考えられるほど声を出すのがいたく、何より辛い。
「ほらぁ、もっとかわいくさ? できないともっと苦しいよぉ?」
「わかったぁ、から……」
涙が出てきて、声が出せない。
泣こうにも苦しくて泣けず、ただただ涙が流れるだけで。
「はんせぇい、してまずからっ……もう、やめて、くだっ、さい……っ」
流れた涙を男が吹き上げれば、木々から零れようと滲みだす涙の粒を、今度は舐め上げた。
気色悪い、なんてことはなく、暖かい、なんて小さな感想しか浮かばなかったんだ。
「うん、偉いねちゃんと言えて。君は自分を小さくするのが常習だからさ」
ゆっくりと解かれていく手に、先進からは痺れるような甘い心地に包まれる。
地が通っていくのだろう。あれほど暴れていた足も、今は疲れたというように動くことすら億劫でできない。
暖かい、ただただ暖かい。
体に流れ通っていく熱が、暖かい。
「俺だってさ、好きでやってるんじゃないんだからな? 好きになった子が、困難だから、仕方がなく、だから」
何か言ってきている。
申し訳なさそうな顔で、今にも泣きだしそうな顔で。
まるで私に許しを求めるような顔で。
あぁ、そうだった。
この人には、この、私の好きな人には――私がいなきゃダメなんだ。
「だいじょうぶ、だよ。ありがとね?」
「っ、あぁ! 俺の方こそ! ごめんなぁっ」
すっかりと涙の出なくなった私の顔に、今度は男の涙がこぼれてくる。
熱い涙。
男の熱のこもった涙が。
それが立てれ私の口に入れば、興奮して仕方がない。疼いて仕方がない。
こんな私だけど。
これほどまで思ってくれる人が居たなんて。
改めて実感できた、愛。
「大好きだから、何されても平気なの」
「あぁ! 俺も!君が好きだッ」
これが愛なら。
私は何でも受け入れよう。
たとえ死ぬまで首を絞められても。
私の最期か男でまみれるのなら――
本当の愛というのは、純粋ではない。
丸でもなく、四角でもなく、常にどこか歪んでおり。
もし純愛が本当の愛であるというのならば、それは互いに憂慮の潜んだ愛であるだけで。
だから言おう。
本当の愛というのは、最愛だと――。
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