一つ違えば
いつもの朝が来る、ぶるるるる、ぶるるるる
二度寝
これがいつものルーティンである
俺は寝るのが好きだ。
学校にはいつも遅刻ギリギリに行く。
いつもの細道を駆け抜け校舎に入った。
そのタイミングで朝礼のチャイムが鳴る。
おしセーフ(ギリアウト)
小一おはようお前相変わらずギリギリだな
いやーまた二度寝しちまってよ。
ひでは早くきすぎだわガリ勉
早く席に着きなさい。授業始めるよ。
担任が声を張り上げて言う。
つまらない授業が始まった。
おーいひで今日さ放課後遊びにいこーぜ。
今、授業中だぞ後にしろよ。な事言ったって
ガリ勉気取って成績おれと変わらないじゃん。
ちなみに俺は、生まれつき記憶力が高く勉強をしなくても一度解けば覚えられる。産声をあげた日の記憶さえある。
真面目なバカはダメだって誰かが言ってたぞ
お前なあ、一言余計なんだよ。
あんた達静かにしなさい
すみません(ひで)
すんませーん(小一)
俺が遅刻してきたこともあって一時間廊下で立たされ
課題までさせられた。
ひでごめんなほんと悪かったつい調子に乗っちゃって
ああいいよ勉強にもなるしな。
あのさ、ひでここの答え教えてよ
小一おまえなぁ
俺とひでは幼馴染で高校になった今一番古くから
の仲だった。
放課後になったらサッカーしたり
ゲームしたり映画見に行ったり
何をする時でも2人のことが多かった。
言わば、親友だと俺は勝手に思ってる
今日はカラオケに行った。ふぅ今日も楽しかった
おぉひでがそんなこと言うの珍しいな
そうかと照れながらひでは笑った。
じゃあまた明日、明日は遅刻すんなよー
いやギリ遅刻してないから。
僕らはいわゆる普通の高校生だ。
今が2年一番気楽である。一年は初対面の
人たちばかりで緊張するし3年は進路を考えなきゃなくなる。だから今を楽しみたい。そんなことを考えながら眠りに落ちる。朝目が覚めてまた二度寝をして学校に走っていくそんな日常が続き冬休みに入った
休みに入るしひでと遊びにいく約束をしていた。
しかし、冬休みに入って
からピタリと連絡が取れなくなった。
家に行ってもひでの家は空き地になっていた。
LINEをしたが全く返ってこない。
ひでとは、小学校からの幼馴染で今まで会わなく
なったことは一度もない。
何か嫌われるようなことをしたかなとか引越し
をしたのか?と考えていた。
明日ら日は過ぎ、明日から、学校が始まる。
そういえば明後日はひでの誕生日
だったな祝ってやろう、明日はきっと会える
と願いながら眠りについた。はぁはぁ悪夢で日も登っていないのに起きたひでが俺の身代わりになる夢だ。
普段は二度寝するのに今日はそんな気にはとてもならず誰よりも早く教室に入った。
たまにはひで遅いぞって言ってやろうと意気込んでいた。だがひではチャイムが鳴っても来なかった。
同級生にひではどうしたんだろうな、と話しかけた。小一それ誰のことだ?
えっだからひでのことだってお前の前で俺とひで話してたじゃないか、それもお前ひでと帰り話してた
じゃないか。知らないって勘違いしてねぇか誰だよ。
この日誰に言ってもひでのことを覚えていなかった
担任の先生ですら学年が違うのかしらと言い出す
始末だった。
次の日学校に行くと女子達が上の学年に転校生が来たと騒いでいた。
どんなやつだと覗きに行く、そこにはひでがいた、はあと俺は呆れた。
と同時に俺の右手はひでの胸ぐらを掴んだ。
ひでお前何してんだよ。
学校も来ずにきたと思えば転校生って何があったんだよ。周りの女子は知り合いなのと青くなった顔で
言った。横の女子がとりあえず私先生呼んでくる
と言って駆け出した。
知り合いも何もいつも話してただろ。
何で忘れたふりしてんだよ。
涼介知ってんだろ。俺ら幼馴染でちっせえ時から
見てんじゃねえかよ。何とか言えよ
涼介が知らないと言った。
ひでも同時に僕ら初対面だよね、、、
その日から俺はクラスで気味悪がられた。
転校生をいきなり友達扱いしたやつとして
友達もめっきり減ってしまった。
あの一件から俺は人間不信になっていた。
誰の言うことも信じられない。
時に自分の記憶を責め出すことがある、こうなると抜け出せなくて自暴自棄になってしまう。
夜も眠れ無くなっていた。
仮病で休む回数もだんだんと増えていった。
そうしているうちに学校も行かなくなってしまった。
もう自分の居場所も仲間もいない。
うちに引き篭もるようになった。
学校からの電話と母が来ても鍵を閉めた。
2ヶ月が過ぎた頃母がドアを叩いた。
単位の話があると先生から電話がかかってきた。
半ば強引に母に引っ張られて学校に着く。
担任の先生が小一君これ以上休んだら、あなた
留年してしまうと言われた。
正直もうどうでもよかった。一番の親友だったひででさえ俺を忘れた、こんな場所なんて俺は辞めますと言って走った。母の鳴き声が後ろから聞こえる。
もう何があっても心が動かなかった。
正門を出ようとするとすっと前を黒髪の白いワンピースに色白な肌の女がすっと通った。
制服を着ていないさらにすらっと伸びた足には
靴を履いていない。
明らかにおかしいだけど、僕は無視して早く家に帰ろうと駆け出した時だった。
小一くん、その女に名前を呼ばれた、振り返ると同時に目の前に女が距離を詰めてきた、俺は冷や汗をかきながら、以前会ったことありましたかと、聞いた。
女は強い口調でなぜお前はひでくんを知っていると
怒鳴った。その後のことは、記憶が途切れ途切れだった、確か消すと叫んだと思えばナイフを持って俺の
腹に飛び込んできた、うわっと、俺が悲鳴を上げるときには血が溢れていた。俺は走馬灯を見た、目が覚めると俺は病院のベッドの上にいる。先生に聞くと
怪我は軽症で打った頭の傷だけだという。一週間もすれば退院できると言われた。
俺は記憶を、思い返す色白の女がひでをなぜ知っていると言ってナイフを俺の腹めがけて刺した。
血も出ていた、俺の腹は無傷、なぜ俺は生きてるんだ。いっそあのまま死ねたらよかった。
ぼーっとそんなことを考えていた。
ガラッとドアが開いてしょういちとまた泣きそうな
顔で母が入ってくる。あんたひで君に謝りなさい、
えっ、口をついて出た。
俺が刺されるのを庇ってひでは刺されたという。
あの女は走り去って母が救急車を呼びナイフは
心臓に当たっておらずなんとか一命を取り留めたという。
一階下で入院しているひでの病室に入る。
そこには痩せこけて腹にびっしりと包帯が
巻かれたひでが横たわっていた。
意識不明の状態が続いていると言う。
俺は謝った。起きないひでに謝っても済まされない
のは分かっている。けどもう祈るように謝って目を覚ますのを待った。注射によって栄養を体に送っていた。誰も見舞いには来ないくるのは俺と母だけだ。
小学校の頃にひでの家にいくとひでの父と母は
とても仲良くみえた。仕事の休みの日にはよく
家族で旅行に行っていた。約束せずにひでの家に行った時もひでが父と仲良くドラマを見ていたのを覚えている。
だけど、中学の時父の会社が経営不振で倒産。
それから家族に手を上げるようになった。
毎日笑いが上がっていた家からいつしか
悲鳴が上がるよ家になった。
父は酒に、逃げるようになり昼から呑みだくれるようになった。
暴力はエスカレートし包丁を持って切りかかって
来るようになった。
そんなある日ひでに切りかかった父を鬱病になりかけ
ていた母が吹っ切れて首を刎ねた。
その時の血飛沫を見た時は一瞬自由になった
ように感じたという。ひでの母は殺人罪で今も
刑務所だという。
現実は皮肉だとつくづく思う。
我が子を必死で守った母は刑務所で罪を償い我が子を
殺そうとした父は楽に死んだ。苦しくも無くなった。
そして、はたから見ていた俺も皮肉なやつだ。
中学生の頃ひでの家族は仲良くていいな、となんの気なしに言った。ひでは顔を曇らせていた。
親が両方いるだけで俺は幸せだったのに、そんな事にも気づいていなかった、そしてまた何も知らない俺はお前を責めてお前に助けられた。
誰も来ない病室で俺は祈り続けた。
ひでの手を握り続けた。あくる日またいつものように
ひでの病室に向かった。
ドアを開くとひでがガラス越しに空を見つめていた。
ひでやっと目覚めたのか抱きしめた、ひでが痛いよ小一と言った俺は涙が溢れ出た。泣いている俺の声が、
あんまり大きくて先生が駆けつけた。
それからひでは、食べ物も食べれるようになり
ひでが話し出す。
小一に俺は謝らなきゃならない事がある。
知らないふりをしていたんだ。すまない。
どういう事だ?聞き返した。
俺は記憶がぐちゃぐちゃでお前との記憶が無くなっていたんだ。あの時までは、転校生としてきた時記憶が戻ったんだ。
一瞬で今までのことが蘇った。けど俺は小一の事を
知らないふりをした。すまない
記憶がなくなってたのか?
ああ、これは俺の持論だがあの色白の女が俺を含め
生徒、先生に何か記憶を操作するような事を
したんだと思うんだ。
過去を思い返そうとすると憤怒したあいつの顔が浮かぶんだ。そして来るなと言うんだ。
あの時も影にあいつがいる気配がしたから俺は
小一の事を知らないふりした。
本当にすまない。
俺こそごめん、ひでが守ってくれていなければ俺は
今頃ここにはいない。当たり前のことをしたんだよ。
俺だってお前がいなきゃ生きれないんだよ。
こんな狂気じみた世界、だがさ小一あいつの顔どこか見覚えがある気がするんだよ。無いか無いなと言うより俺はあの時焦っていてそれどころじゃなかったんだ。
そうか、まず俺たちはここからでることを考えなくちゃならないな。
俺はこの調子だしといつ退院できるのやらと腹をさすった。
俺は、すぐ退院するし俺が動くよ。
ああ、ありがとう。
一方その頃、ガシャン、バシャンああまだ足りない。
あいつらの記憶を改ざんする技術が足りていない。
くそっ。
私は小学生の頃から、病弱だった。
柱坂 ひで
牧野 小一とは同じ小学校に通っていた。
父は医者だった、その影響もあり私は父のように
人の命を救う医者になりたかった。
そして、私自身のこの病弱な体も治したかった。
それもあって病院に度々ついて行っていた。
そんな時に棚の中にあった禁止と書かれた箱。
これは何と聞いたら、パパも入社した時からあって
何なのか使えるのかすら分からないんだよと言った。
子供心で禁止と書かれていると見たくなった。
父がトイレに行った時に箱を家に持って帰った。
開けようとした。けど蓋のところに、しっかりと
釘が打たれていて開けさせる気は無さそうだった。
だけど、私はどうしても中が見たくて釘抜きを探して来て一本抜いただけど縦に10本も釘が刺さっていた。
小学生の私には大変な作業だった。
けれど中が見たい一心で外していった。
最後の一本が抜けてパカっと箱が開いた。
そこには中を覆うように一枚の紙があり説明書と
書いてあった。
すっととって、本体を取り出した。
形はダイヤル式の黒電話そっくりだ。受話器も付いている。
ただ違うのは数字が0、10、20、30、40、50、60、70、80、90と並んでいた。これでは電話はかけれないなと思った。
説明書を広げてみる。
国家機密実験にのみ使用を許可する
一般の使用は固く禁ずると書いてある。
それだけしか書いていない、えっ終わりなの?
これじゃあ使い方わからんよ。スマホで調べた。
電話番号を順に指をはめて回していくのか。
受話器を取り耳に当て10に指をはめ回した。
数字が元の位置に回っていく。
じーっと待った。これはプログラムによる説明です。
あるんかいと1人ツッコミした。
番号は年齢を表します。10は10歳から19歳の間の誰の記憶も見れます。他のダイヤルも同じシステムです。
名前を知っている相手でその人を念じながらダイヤルを回してください。
そうしたら、相手の記憶を見ることができます。
見るといっても記憶が頭に直接飛び込みます。
また記憶の改ざん機能もついています。
これには相手の指紋、髪など相手を識別する材料が必要です。もし違う人の記憶を改ざんした場合犯罪と判断され罰則または罰金の支払いを要求される可能性
があるので十分注意してください。
少し気持ちが淀む、犯罪で捕まるのはごめんだ。
私はとりあえず、押し入れの中に隠した。
バレたら適当に言い訳して返そうと軽い気持ちで待っていた。けど一ヶ月経っても父は全く気付く素振りもなかった。使う事もなかったわけだし当然といえば
当然である。学校も病弱な私からしたら大変な場所でやっとの思いで座る。家では基本的にベッドでの時間が多い。
座っているのも疲れる。入院生活が続いていたこともあって歩くのでさえ本当に体力を使う。
体育の授業は、毎回見学だった。
私だって、みんなと同じように、走り回ったり、遊びたいけど走るとすぐに心臓が痛くなって、すぐに歩く事もできなくなってしまう。
だけど、耐えてきた。結局高校生になった今でもあいつらと同じ学校に行くようになった。ある日私の前で、牧野 小一 柱坂 ひでが仲良く遊ぶ姿が目についた。放課後にはカラオケに行こうとかラウンドワンに行こうとか話しているのが本当にストレスだった。
私にはできないことを当たり前にするあいつらが腹立たしい。そんな思いを抱えて家に帰るようになった。
後一ヶ月すれば春休みが来る。
その時頭に浮かぶ春休みの間なら皆んな会う回数も減る。なら、その時に記憶を改ざんさせようと思った。
そして私は、クラス全員の髪の毛、指紋を集めた。
そして春休みに入った。すぐにクラスメイトを浮かべながらダイヤルを回した。すると、記憶が頭に飛んでくる。指紋を置いて識別させる。柱坂 英の記憶を消すようにしていった。そして柱坂 英の記憶は幼稚園の頃から改ざんし、年さえも一つ上と記憶を変更した。当然、先生の記憶も改ざんした。
こうすることであの仲の良かった牧野 小一は気づく
こともなく生きていくことになる。あんなに仲よさ
そうにしていたのに。思わず笑みが漏れる。
冬休みが終わる。明日から学校は始まる。柱坂は行かせずに生活の様子を見よう。
そして、どうでもいい私の記憶も全員から消して、そして外から眺めようと計画した。
朝が来て学校が始まった。見ていると明らかに牧野の
様子がおかしい。
授業中、皆が何事もなかったように授業を受けているのにあいつは、すごく不服そうにしていた。
放課後帰りを見ていると同級生に牧野 小一がなんで、ひでのこと覚えてないんだよ。訳わかんねえと言っていた。
いや、私の聞き間違えだな。明日柱坂を転校生として
一つ上の学年に入れて様子を見よう。
当日、柱坂を一つ上の学年に転校させた。
まあ、元々顔が良かったのあるが女子たちが転校生の柱坂に対して色めき立っていた。それもあってか、2年の牧野も上がってきた。どうなると心底不安になりながら見る。牧野が柱坂の胸ぐらを掴んだ。声は聞こえないが、間違いなくお前何してんだ。と言っている
口の動きでわかる。クラスの他全員は記憶を変えれたのにあいつ相当記憶がいいな。
早めに始末しよう。だがその日から、あいつは学校に不登校気味になった。怖気付いたか、これで私の住み易い世界が戻ってくる。なのに、ある日あいつがまた
学校に戻ってきた。そして、すぐに一人で出てきて走って出ようとしている。今しかない、ナイフを強く握った。小一くんと呼ぶ。キョトンとした顔で振り向いた。振り返ったところに心臓めがけて飛び込んだ。
その瞬間柱坂 ひでが庇うように飛び込んできた。
後ろから人が走ってきた。
引くしかない。逃げるように家に走る。ガチャ家に着く。くそっ殺し損ねた。
牧野は邪魔だ。だが、柱坂 ひで何であいつ庇えた。
もう一度記憶を改ざんするか。
ううっ、ひで、大丈夫か頭が痛い、あいつがまた記憶をいじってるかもしれない。ううっ、バタン
ひで、ひでお前大丈夫か。やっと目覚ましたな。
誰ですか?牧野 小一だよひでの頬をビンタした。
ううっ、小一ありがとう。小一のお陰で記憶がすぐ戻るようになったよ。けど小一はなんで記憶を変えられないんだろう。俺はさ、言ってなかったかもだけど生まれつき、記憶が良いんだよ。俺の最初の記憶は自分の産声だし母ちゃんに初めて抱っこされた記憶だって
あるんだ。結構おかしいけどな、多分それでだと思う。だから、勉強しなくてもひでと同じくらいは
わかるってことだ。一言余計だ。そんな記憶いい奴
聞いたことないな。
あのさ、小一あの女は中田 奈緒だよ。えっ、中田って嘘だろ?顔が違うぞ。いやあいつの声は甲高くて鼓膜に響く声だ。顔は変えられても声は変えられない。
小一は中田が怒鳴った時しか聞いてないから無理もないよ。そうか、中田がなんでそんな事を、あいつに会って聞くしか、けどあいつは、今人を殺しかねない。
また、ナイフを持って飛びかかられたら次はない。
俺がまた学校に行くのはどうだ。その時にナイフを持っていく。あいつが出て来て話ができない状況なら
殺す。裏で、ひでは隠れていてほしい。もし俺が刺されたらひでがとどめを刺してほしい。
話ができたら俺たちの記憶をいじったのは何故かと、
みんなの記憶を取り戻す方法を知りたい。
こうなっちゃじっとしてられないな。点滴スタンドごと持って歩き出した。
おま、ひで先生にあと一ヶ月は大人しく寝てろって言われてるだろ。
知ったことじゃない。今それどころじゃないんだ。
俺がどうにかしないとみんな、操り人形だ。
ひでが珍しく考えなしに行動しようとしている。
待てよ、今さっき言ったように、ひでが最後の砦なんだよ。ひでがばれたらおしまいなんだよ。
ひでも頭に血が昇っていてうるさいな、
わかってるんだよ、だけどもうこんなの早く終わりに
したいんだよ。その日は朝方までその話で持ちきりになった。
その2日後行動に移す時が来た。
小一は久しぶりに制服の袖に腕を通した。
ナイフは右のポケットに忍ばせた。
ひでは前に中田が狙ってきた場所から少し離れた場所
で構えることにした。
そして、2人ともケータイで状況を報告し合うことにした。ケータイなら怪しまれないからだ。
ひでは今日2日前と比べて冷静さを取り戻し随分と落ち着いていた。絶対にみんなを治そうと話した。
お猪口に一杯酒を入れ酌み交わした。飲み終わると
お猪口を割った。
命懸けなんだ。学校に向かって行く。
今のところ周りに気配はない。
今の内に連絡を取ろう。
電話をかける。
繋がった、すぐに切れた。
もう一度かけた繋がった、すぐ切れた。
もう一度かける繋がった、切れないひで。
はい、中田ですよ冷たい乾いた声が聞こえた。
ひでくんならもう死にましたよ。私が今度こそ息の根を止めてあげたよ。
前に貴方を庇って死にたそうに前に飛び出てきてたもんね。お前、俺の中の大事な何かが弾け飛んだ。
ひでがいた場所に走って行く。ひでひで。
嘘だまだ生きてるだろひで。
着いた。そこには目を疑いたくなる光景がまだ広がっていた。確かに、ひでだが心臓にナイフが刺さり、頭は胴体と切り離されている。
あまりの光景に俺は吐いた。心が一瞬で折れた。
その場に倒れ込んでしまった。
後ろから冷たい乾いた声がする。牧野くんどうですか。中田お前なんで、なんで、なんで、なんでだよ
泣き崩れながら聞く。私はね憎かったの病弱で病院を入退院ばかり繰り返している、私の前で、遊ぶあんたたちが嫌いだった。
体育の授業で私が見学していた時あんたたちはサボりだと罵った。私だってあなたたちのように走り回りたいそれだけも出来ないのに。眠りたくても、ベッドの
上での生活だけでは寝れないし、横から老人の呻き声が聞こえてくる、痛みに常に耐えているし、あなたたちには、絶対に分からないだからよ。
私だって住みやすい世界が欲しかった。
それだけよ。神様は皆に公平じゃないから自分で手に入れようとしたのよ。
だからもう死んでよ。あんたも、ナイフを強く握りしめる。小一はゆっくりと口を開く。
お前の事をひでは好きだったんだぞ。
中田の動きが止まる。お前が顔を変えたって声ひとつでお前に気づいたんだぞ。
お前がなんとか頑張ってる姿がひでは好きだったんだ。だから、今回の事も罪を償ってやり直して欲しかったんだ。
なのにお前はそれでいいのか。殺すなら殺せよ。
中田の頬から涙が一筋流れ落ちる。ナイフを落とす。
ガシャンと音が響いた。その後中田は動きを止めた。
まるで銅像のように瞬きすらしない。ただ涙が溢れ出し続けている。
後ろから白い肌の老人が現れる。
中田は動かない。唖然とする俺をよそ目に、老人はああまたか、これで一万二千六百八十五体目だ。
完全に人間の記憶の改ざんもできないのか。
あんた何言ってんだ。
ああ、すまないね。
私がこの子の父なんだよ。
この子はロボットなんだよ。中田の首を刎ねる。
血が飛びでず、無数の配線のようなものがひきちぎれる。これは実験なんだ。
ロボットに人間の感情を入れ私が組んだストーリーに沿って、生活し人の記憶を改ざん出来るかという。研究なんだよ。
だから、こいつがやったのは全部私が作ったストーリーなんだよ。実験に付き合わしてすまないね。
さっと後ろを振り向いて歩いて行く。
あんた、待て何考えてんだ。自分がしたこと分かってんのか。
私かい。私だってこんなことはしたくないよ。
だけどね、記憶の改ざんは人間がすれば即逮捕なんだよ。法律で認められていない。
だからロボットを使って研究したんだよ。
だけどね、これは大いなる発明なんだよ。
唾を飛ばしながらいう。
記憶の改ざんに認可が出れば、鬱病の人間の治療も
家族を病気や震災で無くした人の治療にも、認知症の治療にもその他にも様々なところに使える。
分かっていただけたかな。老人は唾を飛ばしながら
笑顔で言う。
一つも分かんねえ。なんで、ひでが、中田が死ななきゃならなかったか。一つも分かんねえんだよ。
頭に一気に血が昇る。ナイフを老人に振るう。
はっはっ力づくで振る、老人は見た目とは別人のように素早い身のこなしで避ける。こう見えてもわしは空手をしてたんだよ。ぼすん、腹に拳がめり込む。
がはっ、とんでもない力だ。一瞬気が飛びそうになる。だけど、なんとか踏ん張る。俺は仇を取るんだ。
左足で老人の右足を蹴るバランスを崩したところをにナイフを振る。
そんなものか、ナイフを持った手を握られた。とんでもない力だ。なんとか、手首を捻って外す。ありえない、こんな怪力の老人いるわけがない。あんた、何者なんだよ、私はね
自分でも人体実験をしてるんだよ。白衣を脱ぐ。
左半身が金属製のボディでできている。
私は左半身にロボットのボディーを移植してるんだ。
イカれてる、頭だけじゃなくて、体までとはな。
年上への口の聞き方がなってないな。私が教えてやる。すっと間合いに入ってきた。
寸前のところで顔へのパンチを避ける。
瞬間左手の金属製の拳が腹に入る。
そのまま蹴りが脇腹に入る。
うぅ、うずくまってしまう。
ひでごめんな、なんだよく聞こえないな。
ごめん、俺はこのままだと死ぬ。
なんだって、金属製の左手が首を絞める。
小一はある限りの全ての力で左ポケットに隠し持っていた、爆弾を老人の体に投げつけた。
なんとか転がって走って爆弾の爆発の範囲から出る。
ドカンと大きな音とともに爆発した。燃え上がる。
火はやがて消え跡形も無くなった。
爆弾は使うつもりはなかった。
俺もひでもそれを望んでいた。
だけど、そうはいかなかった。
そのあと、ひでを埋めた。中田も埋めた。
老人が言っていた記憶を改ざんする装置を家に持って帰った。
全員の記憶を元に戻した。俺は二人をみんなに忘れて
欲しくないから二人の記憶も戻した。
全てが終わった。失ったものは数知れない。
もう、抜け殻のようになった俺は家から学校の往復
しかしなくなった。
ある日ひでの母から電話がかかってきた。
どうやら刑務所からはもう出ているらしい。
ひでに手を合わして欲しいと言う事だった。
お邪魔します。牧野くん今日は来てくれてありがとうね。笑顔のひでの母が出てきた。だけど目の下は涙を擦った後で赤く腫れていた。
雰囲気から、人を殺した感じは一切しなかった。
失礼します。仏壇に、ひでに向かい手を合わした。
そのあと、ひでの母はご飯を作ってくれた。
話していて気づいたが、この人は本当に普通の人だ。
何もなければ、今頃、幸せに家族で生活している。
中田だって、操られてひでを殺した。
俺だって殺したくなんて無かった。
誰も殺したくて殺してないのに、ひでの母を見ると
胸が痛む。
ひでの部屋は閉められていた。入るとこの部屋の止まっていた時間が動き出した。机に一枚紙がある。
遺書だ。
そこには小一へと書いている。
牧野 小一へこれを読むことがあったら僕は死んだって事だね。悲しまないでください。今これを読んでいるあなたはまた暗い顔をして読んでいるだろうけど、小一は気づいてないだろうけど、小一は笑顔が似合うんだよ。
どうしても、悩んでしまう時は悩む事を楽しんでください。
悩みなんて大なり小なりみんな抱えています。
もう、僕の事なんて新しい友達でも恋人でも作ってください。
そして皆んなを笑顔にしてください。
僕は君と友達になれて良かった。
幸せでした、ありがとう。
読み終わったあと、涙が止まらなかった。
だけど、数時間すると立ち上がった。
涙が乾き、また歩き始めた。