〈第6話〉これまでにMー1決勝進出したアマチュアコンビは変ホ長調だけ
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「はい、どうも~、こんばんはー!!サラリーマンズと申しまーす!!」
「声おっきいな」
「ね、僕たち実はですね、普通のサラリーマン同士が組んでるコンビなんですけどね」
「だいたい名前で分かるだろ」
「部長~!!見てますか~!!」
「やめろよ。M-1決勝なんだと思ってんだ」
「優勝したら明日会社辞めまーす!!」
「やばいなお前」
「それでさ。実はおれさ、将来の夢があってさ。漫才師になるのが夢なんだけどね」
「あんまり49歳で将来の夢とか言わないけどね。漫才師になりたいの?」
「だからさ、今日はちょっとその感じを練習してみたいの。オレがボケをやるから、お前がツッコミやってくれない?」
「え?どういうこと?」
「はい、どうも~、ようこそいらっしゃいました。パッチ&ワークと申しまーす!!突然なんだけどねワーク君、おれ将来の夢があってさ。サラリーマンになるのが夢なの」
「なんなのこれ?ワーク君って誰?」
「だからさ、今日はちょっとその感じを練習してみたいの。オレがサラリーマンやるから、お前もサラリーマンやってくれない?」
「なんのループ?」
「うそうそ。ほんとは結婚詐欺師になるのが夢なんだよ。今日はちょっとその練習させてくれない?」
「結婚詐欺師になるのが夢って2002年のおぎやはぎじゃねえか。お前は人様のネタをパクってばかりで何やってんだ。そのうち相方に愛想つかされて過去にタイムスリップして殺されるぞ」
「・・・・・」
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『ピンポン!ピンポン!ピンポン!』
甲高い呼び鈴の音が鳴り、おれは目を覚ました。
寝汗でシャツがぐっしょりと濡れている。
「ってえ・・・」
頭が尋常じゃないほどズキズキする。完全なる二日酔い。呑みすぎだ。
『ピンポン!』という音が延々と繰り返されてるが、とても出て行く気にはなれない。
「J」でお湯割りを5杯ほど飲んだところまでは覚えてるんだけど、どうやって帰ってきたのか。その程度で記憶をなくしたことなんてないんだけどな。
夢の中で、なぜだかオレは会社勤めをしていて、そのうえアマチュアコンビとしてM-1決勝の舞台に立っていたようだ。
われながら、恥ずかしい夢を見た。
それにしても訳の分からない、ひでえネタだったな。だいたい、なんでおれが49歳なんだよ。しかもパッチ&ワークって。なんだそのだっさいコンビ名は。
それはそうと、あの相方は誰だったんだろう。
そんなどうでもいいはずのことがやけに気になった。顔はぼんやりとして見えなかった気がする。
まだチャイムが鳴っている。
新聞の勧誘にしてはやけに根性があるな。こんな朝っぱらからピンポンピンポンピンポンうるせえなあ。朝でもねえのか?
オレは台所の水道水をがぶがぶと飲み、あきらめて玄関のドアを開けた。
すると、そこにはなにやら興奮した様子の山下が立っていた。
「おれたち、来週テレビに出るぞ!」
親友が勢い込んで言ってることの意味が分からないまま、オレはドアを閉めようとした。