〈第11話〉ガキの使いのフリートークは神業以外の何物でもなかった
「やめろ、やめろ、やめろ!こんな丸パクり漫才は!」
中年男性の野太い声が響き、スタジオが凍り付いた。
突然のことに引きつる山下の横顔が見えたが、おれは構わずにパンクブーブーのネタを続けた。
「『てめえこそ、ふざけんじゃねえぞ!』って言ってきたから、おれも頭きて、『お前に言ったんじゃねえよ、ジジイ!』って言い返したんだよ」
練習通りなら、ここで山下が「ジジイが言い出したの?」とすかさずツッコむはずなんだが、固まったままだ。当然、客席から笑い声なんて起きるはずもない。一番盛り上がるはずのところなのにチクショウ・・・
「てめえら、なめてんのか。だから、そのパクり漫才やめろっつってんだよ!」
再び男性の怒声が響く。
おれはもうネタに関係なく「うるせえジジイ、黙ってろ!!」と怒鳴っていた。
スタッフさんが「いったん止めますっ」と叫んだのと、男性が羽交い締めにされながらスタジオの外に引きずられていったのは覚えているが、その後の記憶がない。
気づいたらおれはテレビ局の一室で山下と二人、座っていた。
「おい。おいって、長瀬。聞いてんのかよ。おい」
おれは「あ?」と言いながら、相棒に顔を向けた。
「あのオッサンが言ったことって・・・なあ、長瀬、お前が未来からきて、20年後の漫才師たちのネタをパクってるって話ほんとだったんか」
「だから本当だって何度も言ったじゃねえか」
「てことはあのオッサンも未来から来たんか。俺たちがパクったネタをやってた芸人さんってことだろ?なんでお前、あんなに強気だったんだよ」
「いや、ちげえよ。あの漫才はパンクブーブーっていうものすげえ実力派の芸人さんがちゃんと自分たちで考えた・・・」
おれがそう言いかけたところで、ガチャッというドアノブを回す音がした。「いったん止めますっ」と叫んだスタッフさんの顔が見えた。
なんだか、とても気まずそうな表情を浮かべている。
「いいからどけっ」
スタッフさんを押しのけるようにして部屋に入ってきた男は、スタジオに響いたあの野太い声を発しながらおれたちのほうにまっすぐ向かってきた。ひげもじゃに太い眉。50歳ぐらいだろうか。意外となんだか精悍な雰囲気を漂わせている。
「お前たち、ていうか、お前。さっきはよくもジジイとか言ってくれたな」
さっきに比べ少し落ち着いたのか、あまり怒ってるようには見えなかった。
おれは、ふてくされたようにそっぽを向きながら、
「お前に言ったんじゃねえよ、ジジイ」
と返した。
おっさんは「パクったこと反省してんのか。高校生だからって許されることじゃないぞ」と続けてくる。
「別にパクってないですけどね。リスペクトですよ、リスペクト」
「いや、明らかにパクりだろ。お前はどう思ってんだ」
突然、話をふられた山下が「あ、いや」と口をぱくぱくさせ、「おじさん、なんでそのこと知ってるんですか」とおずおずと訊ねた。
おれが「おい、ばかっ」と止める間もなく、おっさんが「ほらみろ」と勝ち誇ったように見下ろしてくる。
「お前さんの相方は認めたぞ。まあ、誰もが見てる視聴率20%の番組のトークをパクってんだから認めるもくそもないけどな。あとジジイとかおじさんとか言ってるけどオレ28歳だからな」
「28!!??」
おれも山下も口をそろえた。
とてもそうは見えないが、まあそんなことを気にしている場合でもない。
おれはこれだけははっきりさせておかなければならないということを訊いた。
「ジジイがさっきから言ってる番組だのトークだのって何のことだよ?」
おっさんは大きなため息をつきながら「まだしらばっくれるのか」とつぶやき、
「だからガキ使見てんだろ、お前たちも。松ちゃんが先週話してたゴリラとおっさんのトークとお前らがさっきやったネタ、まるっきりそっくりじゃねえか!」と一気にまくしたてた。
おれが「だからそれは」と反論しようとするとオッサンは手を大きく振り、
「ああ、もういいもういい!おれは今日、こんな話をするために来たんじゃねえんだよ。さっきは思わず叫んじゃったけどよ」と言い出した。
「じゃあいったい何しにきたんだよジジイ」と返す間もなく、おっさんが続ける。
「お前に話があって来たんだよ、お前に」と、おれを指さすと、おっさんは意外なことを口にしはじめた。
「おれは『サウスウエストポスト』の記者だ。お前、先週天文館と図書館に行ったろ?あの事件のことで訊きたいことがある」




