〈あらすじ〉
うだつのあがらない中堅漫才師、長瀬和春は絶望にうちひしがれていた。2日前にコンビを解消したので、正確にはもう漫才師でもない。
仕事もなく金もない。おまけに才能が一番ない。同棲していた彼女も出て行った。
このまま芸人を続けていても、売れる見込みなんてあるわけがない。
21歳で初舞台を踏んでからの20年、努力らしいことは何もしてこなかった。唯一やったことといえば、これまでのM-1グランプリの決勝で行われたネタをすべて大学ノートに書き起こし、相棒と繰り返し繰り返し練習してきたことぐらいだ。
でも、そんなことになんの意味もなかった。
そりゃあそうだ。
いくら練習したところで、人様のネタを舞台でできるわけはないのだから。天才たちの漫才を研究し、分析すればするほど、ただ己の発想の貧弱さを思い知るだけだった。Mー1出場資格もとうになくなっている。
この3冊のノートとともに、死のう。長瀬はそう決めた・・・はずだった。
青春時代を過ごした高校の教室の光景が、リアルな喧噪とともに目の前に立ち戻ってきた、そのときまでは。
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日本一の漫才師を決める大会「Mー1グランプリ」が産声をあげる4年前、お笑い界に彗星のごとく現れた天才高校生コンビがいた。
変幻自在のスタイルで、次から次に斬新な発想の漫才を披露しては爆笑をかっさらっていく2人。
その名は「パッチ&ワーク」。
彼らのネタは「未来の漫才」と評された。
劇場にとどまらず、テレビ局からも引っ張りだことなるまでにそう時間はかからなかった。
だが、この若きスターコンビは、2001年のM-1グランプリ開幕を待たず、ある日突然姿を消す。