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掌編集

まりつき

作者: ginsui
掲載日:2020/09/30

 路地裏で、女の子がまりをついていた。

 てん、てん、てん。

 手がひらひらするたびに、おさげ髪がぽんぽん跳ねる。

 まりは生きもののようによく弾む。

 車も入れない狭い路地だ。土曜日の昼下がり、通る人は誰もいない。

 わたしの家は路地を曲がった先にある。

 お使い帰りのわたしは、思わず立ち止まって女の子を見た。

 一年生か二年生、わたしと同じくらいの年。白いブラウスに紺のスカート。

 近所にこんな子はいない。

 どこかの家に遊びにきているのかな。

 てん、てん、てん。

 きれいなピンク色のゴムまりだ。

 女の子の頬は、上気して赤くなっている。

 まりといっしょに楽しげに身体も上下する。

 てん、てん、てん。

 わたしは、ちょっとうらやましくなった。

 女の子は上目づかいにわたしを見て、にっこり笑った。

「ついてみる?」

 うれしかったけれど、わたしははっと首を振る。

「でも、お家に帰らなくっちゃ。お使いの途中なの」

「大丈夫だよ、ちょっとだけなら」

 そう言いながらも、女の子は見せびらかすようにまりをつき続ける。

 てん、てん、てん。

「ね、おもしろいよ」

「うん」

「かしてあげる」

「いいの?」

 てん。

 女の子は、わたしの方にまりを弾ませた。

 わたしは思わず続けてまりをついた。

 まりはひんやり、いい気持ち。手のひらに、吸いつくようだ。

 てん、てん。

 お使いの牛乳が入ったレジ袋が邪魔になる。

「持ってあげる」

 女の子はわたしからレジ袋を受け取った。

 満面の笑みをうかべてる。

「じゃあね」

「え?」

 女の子はレジ袋を持ったまま、くるりと背を向けて駆け出した。

 追いかけなくっちゃ。

 けれど、まりは弾みつづける。

 角を曲がる時、女の子はおさげではなくなっていた。

 わたしと同じ肩までの髪、緑のパーカーにデニムのキュロット。

 あれは、わたしだ。

 牛乳持って、ただいまって家に帰るんだ。

 じゃあ、わたしは誰だろう。


 まわりの景色が霞んできた。

 あの路地ではなくなった。

 たそがれ色の光の中、わたしのまわりに編み目のように道がある。

 ここは、どこの路地にも通じてる。

 ひとりでに手が動く。

 まりは弾む。

 てん、てん、てん。

 そうだ、わたしも代わってくれる子を探さなくちゃ。


 わたしは、ずっと探してる。

 でも今は、みんなお家の中で遊んでる。

 まりつきしたがる子なんてどこにもいない。

 てん、てん、てん。

 わたしは、まりをついている。

 まりが、わたしに憑いている。


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