Chapter 1 俺の通学路
ギリギリ毎日更新を達成!主人公くんと彼を取り巻く学園生活での喜怒哀楽を楽しめるように描写しています。
毎年夏になると俺はこう心で叫ぶ――
「ああああああ! 今日こそ涼しい日だったらいいのに!」
まあ、当然だが……目が覚めても夏であるのは変わらない。そして、ジリジリと暑いのも理論上絶対変えられないので俺は汗だくになりながら学校へ行くわけだが。学校といえば、学園生活での青春ラブコメのイメージがある。が、現実はそうもいかない。ライトノーベルというジャンルの小説で青春ラブコメを読んだことがある。その世界では夏が爽快な気分になるなんてことが描写されていた。
そんなことを思える日が本当にくるのか、と考える日もある。が、青春ラブコメみたいな生活が羨ましいと思ったことはない。いや、ないはずだと言っておこう。ないだろうな。
手を顎に当て、まるでオーギュスト・ロダンが制作した『考える人』という銅像にでもなったかのようにずっとそのことを考えながらトボトボと歩き続けていた。そんな通学途中に幻聴が聞こえ始めた。いや、聞こえるのか? というか、聞こえざるを得ない状況らしい……。
「あんた、なにぼさっと歩いてんの!? そのペースで歩いてたら遅刻するよ? まあ、私は自転車通学だ・か・ら! 問題ないかな」
やっぱりこいつだった。麗奈がトボトボ歩きの俺を爽快に自転車で追い越していく。いつか絶対俺の学術的知識を使ってマウントとってやっからな、なんて心で憎しみを込めて思いながら麗奈の後ろ姿を睨みつけ見届けた。
――あいつ、マジで覚えとけよ!
♦
「橘、お前また遅刻か? きちんと正しい通学路を歩いて学校に来ているのか? というのも橘の自宅からこの学校の距離はいくら亀のように遅くあるいても遅れることはないはずだが」
とパワハラまがいの台詞をクラスの教室中を通して先生が俺に語り掛ける。
「高橋先生、俺はふっつーうに歩いて来てるんですよ。亀より遅いなんてありえないです」
「だが、お前の自宅からうちの学校までは徒歩10分の距離だろ? 通学途中にお前を見かけたっていう生徒もいるから余計に不自然だ。あとで職員室にくるんだぞ、いいな?」
クラス中で笑い声が響き渡る中、俺は先生にこう伝えた。
『は? 黙れよ!? てめーは俺より頭悪いの知ってるんだからな?』
と言うのが理想だよな。分かってる。が実際口にしたのはこれだから俺はある意味、書籍のマニュアル通りに生活していると思う。
「はい……分かりました」
「よし、じゃあ放課後に待ってるからな」
くっそ!通学途中ですれ違ったやつなんて、あいつしかいねーよ! 麗奈め!と奴に視線を送るとその視線に奴が気が付いたのか、チラッと後ろの席の俺の方を見て変顔をして俺を挑発してきた。
あいつ! いつか変顔なんか出来ないぐらい泣かせてやるからな? 覚えておけよ!
汗だくでの学校通学で辿り着いたこの場所がどう青春ラブコメになるのか、俺には全く理解できないし、理解したくもない。そんなのそもそも幻想だよな――?
授業だるいな。書籍を読んで自習した方が早いって話。そう思いながら一限目の授業を受けようと俺は自分の席についた。