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カルディオグラフ  作者: 臼木潤二
7/8

愛情癒着

誤字等々ありましたら報告よろしくお願いします。

「あなたどういうつもりなの?」


私はベッドの上に座りながら下から睨むようにして早水(はやみ)京香(きょうか)に問い詰めた。すると彼女は、急に顔を拭い始めた。


「わ、わたしは、、、うっ、、、蒼真(あおま)先生のことが、、、あなたさえ目を覚まさなければ」

「、、、よくそんなこと言えるわね。あなたここの研究員じゃなかったの?」


彼女の発言にあっけにとられてしまい、疑問しか出てこなかった。私の知っている早水京香は冷静かつ研究にしか興味のない女性だった。が、実際はそうでははないみたいだ。今の彼女は恋する一人の女性だ。


「、、、彼の仕事を手伝ううちに好きになったんです。あなたに関わるごとに彼はどんどんボロボロになっていってる。そんな彼を見ていられない。私は少なくとも生きている。あなたはそんな体じゃもう生きれないでしょ?だから、私に蒼真先生をください」


彼女は目を真っ赤にして私の方をまっすぐ見た。彼女は本気で蒼真のことが好きで自分のものにしたいと考えていることが彼女の決意と目から訴えられていた。


「正直、私が蒼真の妻かどうかなんて全く覚えてない。でも、彼から私たちの話を聞く限り本当の関係なんだと思ってる。今の私には蒼真しかいないの。あなたはもう信用できないし、アグルスさんはまだよくわからない。そんな私から蒼真を奪うの?」


彼女の気持ちは十分理解したつもりだ。だから、私の気持ちも彼女にはわかってほしい。私は純粋にそう思って伝えたつもりだった。


「涼夢さん、あなたの方から蒼真先生を遠ざけてください。あなたに夫である蒼真は必要ない。じっ、、、研究者としての道樹(みちのき)先生で十分です」


私の気持ちは全くと言っていいほど彼女には伝わっていないようだ。私の問いにすら答えてくれていない。

そして仕舞いには、蒼真と呼び始めているではないか。

私が見ていた中では蒼真に好意を寄せているような仕草はなかったと思う。


私が何か言う言葉を探していると、彼女は「それではお願いしますね」と言って部屋を出ていった。


部屋にポツンと私一人だけが取り残された。色々なことがありすぎて理解が追いついていない感情とは裏腹に私はどこか懐かしい感覚が滞っていた。

初めてこの牢獄を抜け出してアグルスに出会った時の感覚に似てるのだ。あの時はわざと一人になりたいと言ったけれども今回は意図せず一人になってしまった。


病室には相変わらず一定の間隔で機械音が鳴り響いていた。私たちが口論をしていた時は空気を読んだのか鳴っていなかったような気もするが。


今一度病室を見回してみたが、やはり何も無かった。あるのはテーブル、心電図を測る機械のみだ。また、テーブルには私の日記が置いてある。


日記は先日読んでしまい、することもなかったので私は機械を調べてみることにした。機械をよく見ても素人目には全くわからなかった。機体は古いブラウン管のもので、画面には正常なのかわからない数字、波形が永遠と流れていた。こういったものはたいてい私の体とつながっていて脈拍などを測っているのだろう。だが、そのような管もしくはケーブルは一切見つからなかった。


「え?」


思わず言葉が漏れた。私はこいつが生きていると教えてくれるものだと思っていたが違う。そう、こいつと私は繋がってはいない。ひとりでに何かの音を刻んでいるだけだ。私は隅々までこの機械について調べたが、ほかには何も見つからなかった。もし何か見つかったというならば、喪失感だろう。


目が覚めてからものすごい勢いで起こったことに対し私の感情はどこか遠い所へと行っていしまった。自分の夫かもしれない男性に想いを寄せる女性、私とは全く関係のない機械。どうしたらいいか分からず途方に暮れていたなか、不意に彼の言葉を思い出した。


『彼に言えないようなことがあったら私を頼って欲しい。私はいつでも君と出会った場所にいるから』


アグルスに会いに行こう。多分早水京香は蒼真の所へ向かっただろうから蒼真には会いに行けない。それに今の蒼真に質問攻めをしても余計に困らせてしまうだろう。それに、アグルスも実験に協力しているらしいから心電図について何か知っているかもしれない。





―――――





私は恐る恐る部屋の扉を開ける。扉はガラガラと音を立ててゆっくりと開いた。部屋の外に出たときこの前見た景色とは高さが全く違ったので、本当に自分の身長が変わったのだと実感できた。私はこの前と同じように右手側に向かった。


部屋の中にサイズが合う履物がなく、私は裸足のまま外に出る。廊下の床はひんやりと冷たく私の足の裏をなめた。ぺちぺちと足音を立てながらゆっくり歩くが、ほんの一分程度で庭園にはついてしまった。


庭園が近くなるにつれて木々が風になびく音、鳥の鳴き声、川の流れる音、魚が泳ぐ音、ロッキングチェアのきしむ音、アグルスが読んでいるであろう本のページをめくる音が強くなっていった。庭園の中に入ると先ほどまで歩いていた廊下とは比べ物にならないほどに明るかった。いや、廊下が暗くなっていたのだろう。というかもとから光源らしいものが一つも見当たらないのにも関わらず明るいのなんて……


そう考えていると、耳の近くで


「涼夢君じゃないか!!」


という声が聞こえ、思わず振り返るとそこには誰もおらず、遠くの離れ小島で本を片手に手を振っているアグルスの姿があった。私は今確かに耳の近くで声をかけられたが、気のせいだったのかもしれない。もしくは、彼の声が大きくあたかも耳の近くで話されているように感じただけなのだろうか。

彼は持っていた本を椅子の上に置き、どたどたと橋を渡り、舗装されている道をコツコツと走ってきた。その足音は私に近づくにつれてどんどんと大きくなっていった。


「どうしたんだい涼夢君。何か私に聞きたいことでもできたかね」


そんなに大きな声で話しているはずがないのに私の耳にはなぜか大きな声に聞こえた。思わず眉間に皺を寄せ、体を縮こませる。


「私の勘違いか……この庭園は広くて空気もうまい。ゆっくりしていくといい」


彼は絞り出すようにそう言い、また私に寂しそうな背中を見せた。私はしまったと思い、急いで彼の背中に言葉を投げる。


「勘違いじゃないです!アグルスさんに話を聞こ、、、」


私が言い終わる前に彼は体を翻し、私の元に来ていた。


「私としたことが、少し早とちりをしたかもしれない。だが、先程の仕草何かあるのでないか?」


彼は声量もトーンも落とし、私の目?を見て話してくれた。表情は全く分からなかったが、


「ごめんなさい。なぜか分からないんですけど、いつもより音が良く聞こえるんです」

「む?音が良く聞こえる?」

「詳しく言うと聞こえすぎるくらいなんです」


そう言い直してみたが、彼はあまりよく理解できていないようだった。私はここまで来る間のこと、アグルスの声がいつもより大きく聞こえたことを話した。


「不思議な事だな……そんなこと蒼真氏も“クロユリ”にも……」

「ちょっと待って」


私は聞き覚えのない単語。いや、この世でいちばん美しいものを耳がまた欲しいと望み彼に縋りついた。


「“クロユリ”ってなに?」

読んでいただきありがとうございます。

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