伸びた身長、怯えた心情
頭の中に思いついたことをそのまま書いています。
誤字脱字があるかも知れません。
見つかった場合は報告してくださると嬉しいです。
庭園の奥には、さっき私が通ってきた道と同じような道が続いていた。
私は、そこを無我夢中に走った。周りを見ている暇はなかったが、この長い廊下にどこか違和感を感じていた。
コツコツと誰かの足音が聞こえてきて、私は立ち止まった。
どこかに隠れようと辺りを見渡したが、私が感じていた違和感が答えを出してくれた。
隠れる場所がどこにも見当たらなかったのだ。これだけ長い廊下に、窓もなければ、部屋に入るための扉すらない。
歩いている人は見えないが、コツコツと足音がどんどん近づいてきていることがわかる。だが、聞き覚えのある足音だった。
「こんなところで何やっているんですか?涼夢さん」
早水京香の声だった。
「……ちょっとだけ散歩でもしようかなって」
「そうですか、元気そうで何よりです。ですが、あなたは実験対象だと言うことを忘れないでください。あなたに何かあったら困るのは私たちです。」
「そうですか……」
「わかったのなら病室に戻りましょう」
「はい」
彼女の姿がやっと見えた。白衣の下にパーカーを着て、ミニスカートを履いていた。彼女の年頃だとこのような服装は相応だと言えるのだろう。
私はまたここである違和感に駆られた。
「もしかして、私の身長“変わってる”?」
さっき病室で話した時よりも早水京香を見る視線の位置が高いと思ったのだ。
早水京香はため息まじりに、
「……はい。このようなことがあるかも知れないので、今後は気をつけてくださいね」
と答えた。
遠くの方から、2人の走ってくる足音が聞こえてきた。
一つは聞き覚えのある音、もう一つは聞いたことがなかった。
「涼夢君!無事か?」
蒼真とアーヴィング・アスヴェルグ・アグルスだった。
蒼真は息切れをしていて膝に手をついていて、到底話せそうになかった。代わりと言っては何だが、アグルスが話している。
「びっくりしたぞ!急に走り始めるものだから」
「ごめんなさい」
アグルスはきっと親切心で蒼真に連絡を取ってくれたのだろう。その親切心を無視したことに少しながらも、悪気を感じていた。
「分かってくれればそれで良い。だが、急に身長が変わった時は驚いたぞ」
アグルスがそう言うと、慌てて蒼真が顔をあげた。顔はを私の方に向いていたが、視線はどこか別の方に向いているような気がした。
「とにかく、一度病室に戻りましょう」
そう言うと早水京香は私が歩いてきた方に歩き始めた。
蒼真も顔から垂れる汗を手で拭い、早水京香を追いかけた。私が1人そこに取り残されていると、アグルスが、
「女性を一人残していくだなんて。さぁ私とともにいこうじゃないか」
そう言って手を差し伸べてきた。
私がその手を取ると、彼は嬉しそうに握り返してきた。顔を見てみるとまたあの鳥の頭蓋骨の口角が上がっていた。
私は彼と二人で歩き始めた。
ーーーーー
私が一人で歩いた時よりも病室に早く着いた気がした。それは私の身長が伸びたせいか。それとも、一度歩いたからか。はたまた、道自体が変わっているのか……。それは私には分からなかった。
ここまで手をつないできたアグルスが、
「私の役目はここまでだろう」
と言って、私の手を離し、来た道を引き返して行った。その歩く姿はどこか寂しくもあった。
早水京香が扉を開ける。
「さぁ、どうぞ中へ」
言われるまま、病室の中に入る。
病室の中は、私が飛び出した時と何も変わらず、雲の無い空の様だった。が、ベッドの上に一冊だけ本が置いてあった。それはまるで、快晴の中の風船の様だった。
私がそれを持ち上げると、紙が一枚落ちてきた。私がそれを屈んで見てみると、その写真は少し古いもので、誰かの家族写真だった。
「それは、涼夢の日記だよ。」
早水京香が言った。そう言われ、家族写真をよく見ると五歳より成長した私と家族が写っていた。
だが、私にはこの写真、日記についての記憶が無かった。
「本当に私の?」
振り返りながら、二人に聞いた。すると、蒼真は頷いたが、早水京香は無反応だった。
蒼真が紙に何か書き、早水京香に見せた。
「君が小学生くらいの時に書いてたって教えてくれたよ。」
早水京香が言い終わると、蒼真は私に手鏡を渡してきた。
手鏡を受け取り、鏡を覗き込むとその中には、小学校一年生くらいの私がいた。
「あれ、私の身長が変わるのって一日一回じゃないの?」
私がふと彼らに聞くと、蒼真がまた書き始め、早水京香に見せた。
「今まではそうだったんだけど、こんなことは初めてなんだ。」
初めて……と言うことは、この『骨格変動症』の研究結果にない全くの異例の事態ということなのだろう。
「ごめんなさい」
私は突然彼らに頭を下げ、謝罪をした。
「な、何ですか。突然……」
「私のせいで研究に支障が出たのでしょ?だから、申し訳ないと思って……」
私が顔を上げると蒼真が、驚いた表情をしていた。そして表情が柔らかくなって、私の方に近づき、両肩を掴み、
“大丈夫だよ”
と、言った様な気がした。
私はそれに笑顔で返すと、蒼真もまたあの下手くそな笑顔で返した。
手にとった日記をよく見てみると、裏面に私の名前が平仮名で書いてあった。
パラパラとめくってみるが、どこの日にちもいまいちピンとこない様な内容だった。が、七月八日の
『きょうおうちにあたらしいかぞくがやってきた!なまえは“アグルス”!ぱぱがつけたんだ!わたしもままもかっこいいなまえだったから、すぐにきまったよ!』
と言う内容だった。
私は庭園にいた、アグルスのことを思い出す。名前の長さは違えど、一致している事に気づく。
私は気になってしまい、蒼真に聞いた。
「ねぇ、あの庭園にいたアグルスって何もの?蒼真の友達?それとも、私の家族?」
蒼真は、少し戸惑って早水京香の方を見て、彼女が頷くと蒼真は書いた紙を彼女に見せた。
「アグルスは私の古い友人で、研究にも力を貸してもらってるんだ。涼夢が昔飼っていた鳥と同じ名前だなって話したこともあるんだよ。」
「で、でもあの顔は?」
そう聞くと、早水京香が答えた。
「アーヴィング・アスヴェルグ・アグルスさんは、生物学の実験をしている方です。何でも空を飛びたいから、鳥の細胞を取り込んだか何だかでああなってしまったとか」
そんなバカな話があるのだろうか……。
蒼真の方を見てみると、頷いていた。早水京香が言うことは正しいのかもしれない
蒼真が、紙に何か書きはじめた。
「この後、涼夢の検査をしたいから、この睡眠薬を飲んでくれるかい?。」
と言って、早水京香が薬と水が入った紙コップを手渡してきた。
私は、言われるがままにその薬を飲んだ。飲んだ瞬間私はその場に倒れ込んだのだろう、蒼真の匂いがした様な気がした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
まだ続くので、楽しみにしていてくださるとうれしいです。