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カルディオグラフ  作者: 臼木潤二
2/8

目覚めの悪い日

ありがとうございます。


小説を開いてくれただけで私はうれしいです。


せっかくですので読んでいってください

一定の感覚で、何かの音が鳴る。

その音はまるで心臓のように鳴り続けた。

私は目を開け、その音の方へ首を向けた。しかし、目にみえた景色は九十度回転したようなものだった。

いや、違う。私が横たわっていたのだ。


私は体を起こそうとしたが、腕の感覚がなかった。腕が無くなったのかと焦り、何とか首だけを起こして、腕を見る。


感覚はなかったが、確かに私の体に腕はついていた。

少し安堵し、先程気になっていた音の方へと目をやる。

雲の上のように青く澄んだ景色の中に一つの異物。


『カルディオグラフ』


いわゆる心電図を図る機械だ。


私はそれを見た瞬間、そして自分が少し高めの位置からそれを見ていることから今どこにいるか瞬時に察した。


(嗚呼、私は今牢獄にいるのか)


何故か声が出なかった。

私がそんなことをしていると、ガラガラと音を立てて、何かが開く音がした。


顔を音の方に向ける。

人間が二人、扉を開けて入ってきた。

百八十センチくらいの背の高さでもやしみたいに細く、ボサボサの黒い髪で、白衣を着た男一人。

百五十センチ後半くらいで、パーカーを着た女一人。


男の方は顔を出していてわかったが、女の方はフードを被っており、顔が見えなかったが、胸に膨らみがあることから、女であるのではと私は思った。


男の容姿はいわゆる塩顔?というやつだろう。ただ、顔立ちは整っており、私好みの顔かもしれない。


その二人は私に近づいてきた。

男の方が何か紙に書いて女に見せた。

女が口を開く。


「起きたのですね。」


この女の声は高めの声だった。顔を見ようかと思ったが、見えなかった。


(はい)


そう答えようとしたが、先程と同様声が出なかった。

だから私は首を縦に振った。


するとまた男がなにか書き始め、女に見せた。

女は近くに置いてあった箱の中から液体を取り出した。

それをおもむろに女は私の口へと運んだ。抵抗なんかできなかった。なぜなら首こそ動かせようと、他のところは動かせないようだった。


そう、今になって気づいたが、私は呼吸をしていなかった。


女に液体を飲まされ、私のお腹の所に来て何かを外した。


数秒すると、まるで全身に血が行き渡るようなか感覚と共に、息の仕方を思い出した。


急に入ってきた、薬品のような匂いの混ざった空気に噎せながら、私は体を起こした。


「ゴホッゴホッ……」


噎せる私を心配とは遠くかけ離れた顔で女は私を見た。

言葉に少し怒りを乗せて、私は聞く。


「あの、ここは何処で……ゴホッゴホッ、あなた達は……ゴホッ、何者……なんですか」


今度は声が出たが、薬品混じり空気と、一気に話したせいか、私は何度か咳き込んでしまった。


女の方が口を開く。


「“道樹(みちのき)涼夢(すずむ)”さんですね?」


聞く気がないのだろう。的はずれな答えが返ってきた。


私の名前なのだろうか、そうではないのか、分からなかったが、私の名前だと言われたらそんな気がした。


「……はい」


すると隣に立っている男がまたなにか紙に書き始めた。


「調子はどうですか?。」


女がそう言った。


「あ、あまり良くないです……」


はっきり言って私の怒りはほぼ頂点に登っていた。

だが、怒りを乗せて話せるような空気ではなかった。

永遠と鳴り響く機械音、何も意味をなさない窓、飛ぶことしか知らない虫の羽音、そしてこの男の下手くそな笑顔。


「あの……さっきも言ったんですけど、あなた達は?」


男がまた何かを書き始め、女に見せた。


「私は道樹(みちのき)蒼真(あおま)、あなたの“夫”です。」


女がそう言った。


「え?」


私はそれしか言えなかった。私は結婚していたのか?

いや、そんな記憶はない。


(ん?記憶…………)


「ごめんなさい、今って何年ですか?」


男が紙に何か書き始めていたが、男が紙を見せる前に女が口を開いた。


「今は“20XX年”です」


聞いたことも無い数字だった。

いや、正確には私の思っている年ではなかったと言うだけだが……。


女が再び口を開いた。


「いきなりのことで戸惑っていると思うけど、散歩に行ってみない?。」


訳が分からない。でも、ここで喚き散らしても何も進展しないだろう。


私はそう思い彼らの提案に賛成した。


私の賛成に嬉しかったのか、蒼真と名乗る私の夫は先程と同様下手くそな笑顔をしていた。


体についているいくつかの機械を外し、私が寝ていたベッドから降りようとすると、蒼間は部屋に置いてあったのだろうか、ひょいっと車椅子を出てきた。

そして、女がこう言う。


「まだ、足の筋肉が戻っていないでしょうから、車椅子で」

「は、はい……」


私も少し、歩けるか心配だったので嬉しい気配りであった。

私についている機械類を外し、彼は私を軽々と持ち上げ、車椅子に座らせた。


また、あの下手くそな笑顔だった。





─────





扉を開ける音が、白く無機質な廊下に響いた。

意味もなく左右にのびた道が今の私のように見えた。


雨でもふっているのだろうか、ザーザーと窓に何かが当たる音が常になっていた。

が、不思議なことにそこに窓はなく、窓に当たってなっているのではなく、私の耳に響いているようだった。


鬱陶しくなり、思わず耳を塞ぐ。


「どうしました?」


女の声が聞こえた。


「ごめんなさい。耳が少し痛くて……」


私がそういうと、蒼真は私の顔をそっと覗き込み、掠れた声で、


“大丈夫かい?”


上手く聞き取れなかったが、彼の顔と口の動きで私は、そう言ったと思った。


私は、


「はい……」


そう答えたが、彼は私のことを無視した。いや、“聞こえていない?”。気のせいだろうか……いや、気のせいだろう。


彼はそそくさと何かを紙に書き始めた。それを女に見せると、女が口を開いた。


「散歩はまた今度にしましょう。今日はまだ部屋にいて、涼夢について話をしませんか?。」


私は別にこのまま外に出てもよかったのだが、先程以上に耳の痛さが、強くなっていた。だから私は、彼らの提案にまた賛成した。



私は、蒼真に車椅子を押され、部屋に戻った。

その時、ふと右手の廊下の先を見てみると、赤く染まっていた。

まるで海に飲まれる夕焼けのように。




─────





ベッドに座る。

私はまだあの二人の目の中にいた。


私が一息つくと、蒼真がはなしかけてきた。正確には女の方だが……。

蒼真は、ただただ紙を見せているだけだった。


多分彼は話せないのだろう。

私は彼が喋らない、喋れないことは聞かなかった。なぜなら、記憶が消えていると言うだけでも彼の心に傷があるのにそれ以上今は、広げる訳にもいかないからだ。


女を通しての蒼真との会話はそこそこに盛り上がって行った。

私の好きな歌手、二人でそのライブに行ったこと、結婚式で蒼真が緊張しすぎて階段から落ちそうになったこと……私がどんな人間だったかを。

蒼真は女を通してだったが、いろんな話をしてくれた。

そろそろ切り上げるのかと、蒼真が腕時計をサッとみた。

その隙に女が口を開いた。


「最後に何をしたか覚えている?」


(最後に何をしたか……)


多分だが、蒼真が避けていた質問を女は聞いてきた。

私自身覚えていることは、蒼真から聞く前はほぼ何も覚えていなかった。

少し考えてみると、遠くから車の音が聞こえたような気がした。


「トラック?」


私がそうぽつりと呟くと、蒼真は私の両肩を少し強めに掴んだ。

私は驚き、彼の顔を見る。

その顔は先程の普通の顔、下手くそな笑顔、そんなものとはかけ離れたかなり焦った顔だった。


「えっ……きゅ、きゅうにどうしたの?」


蒼真は、ハッとし両肩から手を外し、紙に急いで何か書いた。


『ごめん。』


紙にはただその一言だけ書いてあった。

蒼真は私にその紙を見せたあと、足早に部屋を出ていった。


部屋の中に、女と私が取り残された。


「ごめんなさいね。ああ、そう言えば、私の名前は早水(はやみ)京香(きょか)。女、女ってあまり言わないでね。割と傷つくから」


早水京香は、かぶっていたフードをとり、フードに隠れていた少し赤みがかった長い茶色い髪を翻し、「それじゃあ」といい部屋を出た。


「私、彼女のこと女って呼んだっけ……」


コツコツと、彼女の足音が廊下に響いていた。


彼女の容姿は、童顔なのだろうか、幼いように見えた。顔は小さく、たれ目で鼻はシュッとしており、唇は横に長く涼しげな印象だった。





─────





彼らが出て行った後わたしは一人。

この何も無い部屋の中にただ一つ外に通づる、はめ込み式の窓の外を眺めた。

先程、廊下で聞こえたはずの雨はそこにはなく、美しい庭園が広がっていた。

視界の中の右下あたりに見える機械が鬱陶しかったが、その庭園はこの小さい窓からでも分かるくらい、綺麗に手入れがされていた。

どこからかはいる光に照らされる木々たち、彩り鮮やかに咲き誇る花たち、池でもあるのだろうか少しだったが、何かが水の上で跳ねる音が聞こえた。

そんな景色を眺めているとふと思うことがあった。


(私って今何歳なんだろう……)


それは直接には声に出さなかったが、確かに彼らには聞かなかった質問である。そして、彼らもそれには全く触れていなかった。


蒼真を見る限りまだ私と彼はそんなには歳をとっていないと思う。

あの早水京香という女も、若く見積って二十って所だろう。


それに、ここってどこなんだろう。


辺りを先程よりも注意深く見渡してみると、まるでそこは病室の様だった。

不自然にドアまで遠く、ベットの近くに早水京香が、液体を取ったであろう机。机以外に家具的なものは何一つなかった。強いて言うならば椅子がひとつ。そして、先程乗った車椅子。

何かはわからなかったがすごく引っかかるものがあった。


この狭い空間を凝視して、家なのか病院なのか探ってみるが、少なくとも家ではないことは分かった。

だが、ここがどこなのか確証がつくものは何一つなかった。


そう言えば……私ってどんな顔をしているんだろう。

部屋を見回して引っかかったものはそう。

この部屋には“鏡”がなかった。

そう、病室なら大抵どこにでもあるもの。

私はドアまでのところにあるかなと思い、少し覗いて見たが、そもそも洗面台らしきものがなかった。


それにさっき、蒼真は私が“トラック”って言ったの聞こえてたのかな……じゃあ、耳が聞こえないていうのは気のせいなのかな。


それに、私はなんでここで寝ているんだろう……病気なのかな?それとも、怪我?


分からない。


どうしようもなく私はベットに横になる。

目を閉じ私は思考をめぐらす。

が、行き場のない疑問が、頭の中を巡るだけだった。

考えるのは多分無駄なのだろう。また後で、蒼真にきこう。


最後で読んで頂きありがとうございます。


まだつづく予定なのでよろしくお願いします。

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