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序章2 賢者でドラゴンスレイヤー

 ~6年後~


 人の噂も七十五日と言うが、七十五日が経った後はどうなるのだろうかと考えた事がある。『そんなが噂あった気がする』程度に風化するのか、それとも、噂が事実へと勝手に変わり、当たり前の事として受け入れられるのか。ほとんどの場合は前者な気もするが、カーフに至っては逆のようである。


 カーフはギルドの扉に手を掛けながら、そんな事を考えていた。

 町では、カーフの事を「賢者様」と呼び憧れの眼差しを向ける子供達、ギルドに入れば……


 「ようドラゴンスレイヤー!」「今日の狩りはどうだったよ。またドラゴンを狩ったのか?」「なあ、どうやったらそんなに強くなれるんだ? 後今度のクエスト手伝だってくんない?」


 等、()()()()()()()()()()()()()()()言われる始末である。初めこそは困惑したものの、毎日言われれば流石に慣れてくる。


 「だから俺はそんなんじゃないって! クエスト付いてっても荷物になるだけだし、あんたらの方が絶対強いっての」

 「またそう言うのかよ。俺らじゃパーティー総出でかかってもドラゴンなんて狩れねぇっての」

 「なのにお前は」

 「たった1人で」

 「倒しちまうんだから」

 「すごいよ」

 「な」


 「仲良いな! そして1人『な』しか言えてねぇぞ」

 この妙なくらいに息ピッタリな6人組が、トーターズと言われている冒険者グループだ。カーフが冒険者を始める少し前に結成され、ビギナー冒険者なのだが……


 「なんせ」

 「俺達は」

 「昔からの」

 「親友」

 「だから」

 「な」


 「だから1人『な』しか言えてねぇって!」

 「な?」

 「急に『な』しか言わなくなるなよ! 昨日まで『な』以外も話してただろ!?」

 

 こんな感じで所構わず絡んでくる少し困った連中である。しかし、実力は折り紙つきで、組んでから僅か1ヵ月でDランクに昇格する程である。1ヵ月でランクアップするのはこのギルド最速タイムだ。まあ、その後カーフが塗り替えたのだが。


 クエストで疲れた事もあって、今このノリは大分キツイ。その証拠にさっきのツッコミでもう息が切れそうである。なんとかして抜け出す方法はないかと頭を抱えていると、受付の方から1人の少女がこっちに近づいてきた。金色に染まったポニーテールに、水晶のように輝く碧い瞳。お洒落なナイフを数本携え、少しギャルっぽい印象を受けるその少女の名はユーナ・キャルメン。カーフの幼馴染であり、彼女もまた冒険者だ。


 「お~いトーターズ君達、カーフは疲れてるんだからそこら辺にしてあげて」

 「は」

 「あ」

 「あ」

 「あ」

 「い」

 「な」


 「何? その喋り方、『あ』3回も要らなくない? そして最後の『な』は何?」

 ユーナも空かさずツッコミを入れる。しかし、今回はツッコミ所が多すぎではないだろうか? 助けに来た筈のユーナも困り顔を作る始末である。


 それから暫くして、トーターズ達は宿へと帰っていった。そして、ギルドの入口にはカーフとユーナが取り残された。


 「いや~人気者は辛いねぇカーフ。まあそれもそうか、Fランクでドラゴンを討伐した期待の新星だもんね」

 「イヤミか? お前はその理由を知ってるだろ」

 「まあまあ、それもカーフ自信の実力でしょ」


 その言葉にカーフは少し顔をしかめた。確かにこれはカーフ自身の実力かもしれない。だが、カーフのステータスは全く今の自分の評価に釣り合っていないのである。それを知っているユーナは、よくそれをネタにしてからかってくるのである。


 「さて、からかうのはこのくらいにして、せっかく会ったんだから、夕飯一緒に食べない?」

 「料金は割り勘だろうな?」

 「じゃないと来てくれないじゃん」


 言ってユーナは顔をプイッと左へと傾けた。こういう子供っぽい所は昔から少しも変わっていない。それが彼女の魅力であり、カーフ自身もそれに何度も助けられた。まあ、これを本人に言えば100%からかわれるので絶対に言わないが……


 カーフ達はギルドを出て店へと向かう。行き先はいつも2人で飲んでいる行きつけの店である。ギルドの少し左側に位置しており、水に生息モンスターから山にある植物系モンスターまで、色々な種類の料理が楽しめる、日本で言う居酒屋のような場所である。


 『いらっしゃいませ!』

 カーフ達が扉を開けると、中から活気の良い声が聞こえてきた。まだ夕飯時には早いため、席は結構ガラガラだ。


 「大人2人、席は個室でお願いがします」

 「2名様、個室でございますね。……2名様入りまーす!!!」

 『うぇぇぇぇぇい!』


 その掛け声と共に、他の定員が何を言っているか分からない声を上げる。どうやら雰囲気作りの為にやっているらしく、そのお陰か、いつも店内は賑やかである。……個室のカーフ達には関係ないが。


 店員に連れられ個室へと入ると、店員は机の真ん中にあるスイッチを押し外に出た。この机は1つの魔道具で、スイッチを押せば机から半径1mの範囲は完全防音となり、外からの声は完全に聞こえなくなる。うるさいのが苦手な人等が良く使う魔道具である。


 「部屋に入ったし、注文しよっか。何が良い? ビールにする? おつまみにする? それとも……あ・た・」

 「お前以外で」

 「まだ全部言ってないのに~!」


 本来夫婦間で使われる(実際使われているかは分からない)この言葉は、この世界では冗談として使われる事が多い。これも全て()()()()()()である。


 この世界に文明が無かった頃、偶然組まれた勇者召喚の儀式によって異世界へと転移してきた日本人が村を作り、それが町、国へと成長し、今の世界がある。日本語が通じるのも居酒屋に似た店があるのもそのせいである。


 そして、その日本人は余程のゲーム好きなのか、全ての町にギルドを作り、ギルドは国の予算で運営していく事を義務付けた。ギルド側にはお金が入らないにもかかわらず、運営出来ているのはその日本人のお陰なのだが、良いことばかりでもない。日本人が発した日本の文化等は世界中に広まっているのだが、1部の文化は、間違った伝えられ方をしているのである。


 そのせいでカーフは、本来なら正しい使い方をしているにもかかわらず間違っていると指摘される事が多々あった。勿論日本人の生まれ変わりだなんて言っても信じてもらえないので、カーフが折れて謝罪している。


 「でね、って聞いてる?」


 考え事に夢中になっていたせいか、どうやら料理が来ていたことに気付かなかったらしい。勝手に酒を飲み始めたユーナが何か言っていたようだが、聞いていたことにすれば良いだろう。


 「勿論聞いてる。聞いてるぞ」

 「あんたが慌てて嘘をつく時って同じ言葉を2回言っちゃうって知ってる?」

 「マジで?」

 「勿論マジだよ。昔は素直だったのにな~いつからそんな悪い子になっちゃったのか」


 ユーナは酒を飲んだせいか、少し赤くなった顔を近づけてそう告げた。小さい頃から可愛がってくれたお姉ちゃんみたいな台詞を言っているが、一応同い年である。昔は素直で可愛らしかったのだが、本当にどうしてこうなってしまったのだろうか……


 「聞いてなかったカーフの為にもう1回話すけど、最近また近くで発見されたらしいわよ」

 「何が?」

 「ドラゴンよ」


 ユーナの言葉に、カーフはピクッと体を震わせた。――ドラゴン。中位後半から上位に位置するし、かつて父親を殺した張本人でもあるモンスター。そして、カーフが不当な評価を受ける原因にもなったモンスターである。


 「……もう勘弁してくれ」


 無意識のうちに、そんな言葉が口から漏れ出ていた。カーフがドラゴンに遭遇した回数は3回、1回目は6年前、2回目と3回目はカーフが冒険者になってから3週間と、半年のタイミングで遭遇している。


 そして、カーフは2回目と3回目は討伐に成功しているのである。ただそれも問題で、カーフは1度も攻撃をしていないのだが、それを何度説明しても信じる筈もなく、カーフが謙遜していると思われているらしい。唯一信用したのは幼馴染のユーナだけであり、その理由も、カーフのステータスとスキルを知っているからである。


 「にしても、面白いスキルを持ったね~。幸運+999か、私もそんなチートみたいなスキル欲しいな~」

 「確かに、()()()()()()()()()()()()()

 

 この世界にはステータスとスキルという人の能力を表す数値が存在している。ステータスは表と裏が存在し、表ステータスには物理攻撃力、魔法攻撃力、魔力、防御力の4つで、ギルドの魔道具で簡単に見ることが出来る。


 そして、裏ステータスも存在する。裏ステータスは表ステータスよりも詳細に個人の能力が写し出され、それを見ることが出来るのは聖籠の神殿だけである。

 そこには運も数値化されており、一般的な運の数値が50程に対して、ユーナは95という倍に近い数値を叩き出している。


 そんなユーナが幸運+999なんてものを手に入れていたなら、魔王すらも倒せてしまうかもしれない。

 因みに、ユーナがカーフの裏ステータスを知っているのは2人が同じ日にスキルを授かったからであり、カーフもユーナの裏ステータスを知っている。


 今更だが、幼馴染の女子の皆は知らない秘密を知っているというのは少し恥ずかしい気もする。本人は気付いていないが、ユーナは容姿も整っておりノリも良いため冒険者の中でも非常にモテる。そんなユーナのファン達がこの事を知れば、羡ましがられる程度では済まないだろう。


 まあもう1つの秘密を知ればユーナの人気も少しは落ちるだ……

 そこまで考えてカーフは思考を止め、今の状況を分析し始めた。居酒屋に入ってからどれだけの時間が過ぎた? 考えている途中、しっかりとユーナを見ていただろうか、そして、()()()()()()()()()()()


 カーフは慌ててユーナに視線を向ける。そこには何杯も置かれたビールジョッキに、顔を赤く染めベロベロに酔ったユーナがいた。


 「や、やあユーナさん……え~っと~」

 「おいミジンコ!」

 「ミ、ミジンコ? 僕の事でしょうか?」

 「テメエしかいねえだろが単細胞並の思考も出来ねえのか!?」

 「ヒィィ! ごめんなさい」


 「ごめんなさいじゃねえだよ。謝るんだったら最初からその小さい頭使ってちっとはあたしの会話に返してこいよ」

 「は、はい! 次からは気を付けます」

 「分かったか? 次はねえぞ」


 ユーナは酔うと性格が豹変する。これがもう1つの秘密である。防音効果がある個室を選んだのもその為で、今の所この事を知っているのはカーフだけである。


 この状況になったユーナは手のつけようがない。自然と一人称が僕に変わってしまい、言い返そうものならその倍の罵詈雑言で返り討ちに遭う。


 ユーナもその事を気にしているらしく、酒を飲むのはカーフとこの店に入った時だけにしており、飲み過ぎないようにカーフが監視しておく筈だったのだが、考え事をしている間に手遅れになっていた……


 「テメエまた聞いてねえだろ!」

 「すみませんでした」

 「返事が小さい!」

 「すみませんでしたぁぁぁぁぁ!」


 その後、ユーナの説教は夜明けまで続いた。





 その日、ある1人の少女の登場によって物語は動き出す。

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