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序章 そして記憶は異世界へと引き継がれる

 ~10年後~

 「パパ!ママ!こっちだよ」


 丘の上を掛け上がり、カーフはそう叫んだ。無論叫んだ先は愛するパパとママである。毎日農作業に勤しみながらも、休みの日は毎日カーフと遊んでくれるパパとママは、カーフにとって宝物である。


 「カーフ、ちょっと休憩しましょ。お母さん疲れたわ」

 「えー? 僕はまだまだ遊べるよ」

 「ママ達はもう年だから、カーフ見たいに元気ではいられないの」

 「ママの言う通りだ。このままじゃバテバテになって、晩ご飯が作れなくなっちゃうかもなー」


 「それは……イヤ」

 「なら少し休憩しよう。なに、時間はたんまりとある」

 「そうね、今日はうんと楽しみましょ!」


 カーフは上ってきた丘を少し下り、パパとママが座っている岩に腰かけた。カーフとしてはまだまだ遊び足りないのだが、パパ達が限界なのであれば仕方がない。


 それに、座ってお喋りをするのも嫌いではないのだ。昔、それこそ自分という存在が生まれるずっと前から、こんな会話に憧れていたような気がする。


 「いや、カーフは剣士だろう!」

 「いいえ、きっと魔術師よ!」


 そうこう考えている内に、いつの間にか話はスキルの話へと移っていたらしい。スキルというのは15になるとこの世界の全ての人間、勿論亜人にも与えられる神様のご加護である。聖籠の神殿と言われる場所で1人につき3つまで授けられ、そのスキルの内容で人生が決まると言っても過言ではない。


 カーフはまだ10歳、スキルを授かるまで後5年はあるのだが、夢見がちなパパ達は、ずっと前からカーフが剣士になるか魔術師になるかで言い争っている。スキルによっては、農家を継ぐという可能性もあり得るのだが、パパ達からすればそれは少しも考えていないようである。


 「なあカーフ、お前は将来何になりたいんだ?」

 「僕の……夢?」


 夢……そういえば夢なんて考えた事もない。将来何になるかはスキルを授かるまで分からないし、何より毎日が楽しすぎて夢なんて考える暇が無かった。ただ、1つ叶うとするなら……


 「僕は……僕はパパとママとずっと一緒に暮らしたい」

 「カーフッ…」「カーフ!」


 パパ達は涙を流しながらカーフに抱きついた。少し苦しかったが、ずっと2人を感じていられるような気がして暖かかった。


 「よし、休憩もこのぐらいにして何かするか! せっかく村から少し離れたこの丘に来たんだ。ただ喋ってるだけじゃここまで来た意味がないからな」


休憩も終わり、みんなの体力も回復した所で、パパが勢い良く立ち上がった。さっきまで太陽の光が眩しかったのだが、今は雲に覆われている。


 「パパ! なら肩車して」

 「よーし任せろ。なんならそのまま丘のてっぺんまで行っちゃうか!」

 「やったー!」


 パパがしゃがみ、カーフが肩に足を掛けようとしたその時……さっきまでカーフを照らしていた太陽が、何処からか現れた薄暗い雲に隠れた。


 「変ね……今日は1日中晴れって言ってたのに」

 ママがそう言い終えると同時、ピカッと空に稲妻が走った。その後からゴロゴロと音が響いてくる。雷だ! 確か雷が表れれるとおへそを取られるという話を聞いたことがある。怖くなったカーフは目を瞑りパパの体を力強く抱き締めた。パパからはぶつぶつと独り言が聴こえてくる。


 「雷か、でもそれにしては早すぎる。とても自然の事とは……」

 「パパ……」

 「心配するなカーフ、パパが付いているか……ら……!」

 励ましてくれたパパの口が急に止まった。正確に言うならば恐怖のあまり声が出なくなったようである。だが、元冒険者でもあるパパが、雷ぐらいでそれほど恐怖するだろうか? もしかしたらただ喋るのを止めただけかもしれない。真実を確かめるべく瞼を開くと、


 「え……」


 パパ達の何倍もある巨体に、丘の上にある木の何倍も太い4つの足、人程度なら意図も容易く吹き飛ばせるであろう巨大な羽。


―――ギガントドラゴン


最上級モンスターにも指定されている竜が何故? そんな事を考えたが、すぐにそれどころではないということに気づく。辺りにいる生物はカーフ達のみである。人をも喰らうドラゴンであれば、カーフ達をたべてしまうなど容易い事だ。

 

体のあちこちが早く逃げろと告げてくるが、体が震えて動かない。パパに目をやると、カーフと同じく体が動かないようだった。その表情からは戦慄に彩られているのがよく分かる。


 それも無理はないだろう。カーフ達が住んでいる村は魔王城からもかなり遠くの位置にある。それ故、出てくるモンスターも農家でも倒せるような弱いものばかりである。


 そんな平和な町の近くで、ドラゴンなんてものを見たのであれば、今までに体験したことのない恐怖が襲ってくるのは当然の事だ。そこで、パパが抱きついていたカーフを地面に降ろした。


 「カーフ! 逃げろ!」

 パパが叫ぶ。ドラゴンなんかに狙われれば、生きて帰れる確率など万に一つもない。この場にいる生き物がカーフ達だけな以上、カーフが狙われないようにするには早々にこの場から立ち去るしかない。だがそれは……


 「パパ……パパは? ねぇパパ!」

 「済まないカーフ……お前達は、幸せになってくれ」

 誰か1人が犠牲になるということ。誰か1人が犠牲になれば、残りは生き残れる可能性がある。ただ、全員で逃げる選択を取れば、全員がドラゴンのターゲットとなり、誰1人生き残れない。


 「そんな! パパ!パパ!ぱぱぁぁぁぁぁ!」

 「行くわよカーフ!」

ママがカーフを抱えて走り出す。後ろではパパが「こっちだ! ここに良い餌がいるぞ!」と叫んでいるのが聞こえる。


 「パパ……パパがぁぁぁぁぁ」

 丘を下り森に差し掛かった頃、さっきまで耳の奥にまで響いていたパパの声が、ピタリと止んだ


 何故こんな所にドラゴンが?この辺りはゴブリン一匹いない平和な場所のはずだ。今までも、この場所でドラゴンが出たことはない。なのに何故! 何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故

何故、こんな理不尽な……


 理不尽?カーフは、心当たりがある気がした。まるで、今までもこのような理不尽を何度も体験しているような。頭の奥から体験したことのない風景が思い起こされる。身に覚えがないのにハッキリと覚えていて、その時感じた事まで頭の中に残っている。他人の記憶のようなのに、どこか懐かしい。例えるならば、()()()()()()()()()その記憶に、何処か不快感を覚えた。


 そこまで考えた瞬間、頭の奥がずきりと痛んだ。まるで、頭が思い出すのを止めろと言うかのように。だが、思い出さなければならない。何かを忘れている。大事な何かを。再び頭の奥が痛む、だが、カーフは思考を止めない。この何かが分からなければ幸せにはなれない、そんな気がしたから。後少しだ、頭の中にぼんやりと浮かぶ2文字、この2文字さえ分かれば。カーフは根拠のない自信を抱えながら思考を回転させる。吉宗、吉川、吉浦、吉、吉、吉! 


 「吉……彦?」

 その言葉が出た刹那、今まではぼんやりとしか分からなかった他人の記憶が、鮮明に思い出される。吉彦という人間が如何に育ち、如何に死んだのかがハッキリと頭の中に残った。自分が体験していないのに体験したかのような記憶、自分の……前世の記憶を。

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