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鏡写しのダブル  作者: 近衛
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電脳技術研究所


 「君がシロエの言っていた切り札。いや、最終兵器か」


 「……そういうことになるな。兵器と呼ばれるのはいささか過大評価に思うが」


 「謙遜するな、彼女がわざわざそこまで言うのだから、個人としての戦闘能力は折り紙付きなのだろう?」

 

 「そう言っておきながら、戦えば負けることはないと思っているのが貴方だろう? 新城大地、電脳技術研究所所長」


 応接室にて、コーヒーをすする男が二人。

 

 「さてね、だが来るべき決戦に備えるということで用意していた箱がこの電研だ。そして、それを率いているのがこの私だ。相手が例え戦いの神であろうとも、負けると思って戦いを挑んだりはしないさ」


 「組織として対立することがあれば、戦う未来もあるかもしれないな。できれば、戦いたくない相手ではあるが」


 「そうならないことを願いたいね。私には守るべき家族もいるのでね」


 「その家族は、愛されているんだな」 


 「残念なことに、相手がそれを喜ばしく思っているかはわからないがな。憎まれていたとしても、そのうち俺を踏み台にでもしてくれるなら、それでもいいさ」


 「心など、誰にも推し量れるものではないさ」


 新城大地が愛している存在は、彼の愛情を知らなかった。だが、彼の手から離れた今は、アティド・ハレとしての自我は、それをとても嬉しく思った。

 そして、この組織が誰のために何のために作られていたのか、今更ながらに理解した。

 新城大地は、この世界が既に終わっていることを知らない。だから、次世代である自身の息子達がより安全に過ごせるように教育し、庇護する組織を作ったのだ。

 彼がその事実を認識していたのならば、このような迂遠なことはせずに。自分自身で陣頭に立ち、積極的に世界を変えようと動いていただろう。

 

 「わからないのが当然だ。わかったつもりになることはできるが、真実はどこにもないのだから。相手がそれを認める言葉を紡いでも、それが嘘だと見抜くことはできないのだから」


 「嘘が本当だと信じることはできるだろう? 宗教の教えは、欺瞞かもしれないが、その欺瞞が万人に心の安寧を与えたのは事実だ。それが仮に嘘でも、悪ではないだろう」


 「それが嘘だと断言すれば、それは世界を敵に回す言葉だ。だから、不確定で不確実な安寧で包むのが処世術だよ。真実は、誰にもわからない。仮に、神の言葉として啓示を与えられたものがいたとしても、それが本当であると確認する術がないのだから。それは、嘘でも本当でもないんだ」


 「仮想最強と呼ばれている貴方にしては、随分と慎重な意見なんだな」


 「結果として、私が最強と呼ばれるに至っただけのこと。それを目指し、常に鍛え上げていたというわけでもないし、争いは嫌いだよ」


 「はは、それを目指していた全ての人間を敵に回す発言だと思うぞ。貴方の語る、処世術はどうしたのだ」


 「瞬殺した相手に、一瞬で倒さねばやられていたのは俺だった、などと言葉を掛けろとでも? 真剣に戦った相手に対する侮辱にもなるからな。どのような思いを抱いていようが、強い者は強いし、弱い者は弱い。ただそれだけだ」


 「どう取り繕っても、事実は事実。それは、不変か」


 新城大地が当時の仮想において最強であるというのは、事実。

 事実、不敗であったし、強者と呼ばれていたあらゆる者たちが敗れていった。


 「戦えば命の奪い合いになるこの世界では、真の意味での序列は不明。ただ、私を含め、自身が最強と思う者はそれを否定しない、ということだろう。実際、私がアハリ・カフリを見つけ出し、倒すことができるのならそれでもいいのだろうが、そこまで簡単な話でもない」


 「現状の最高戦力と思われる貴方が挑み、勝てればそれで終わりかもしれないが、負けたらその後どうしようもなくなるからな」


 「だからこその、修光学院だ。これは、私が志半ばで倒れた場合の保険でもある」


 「貴方がどうあれ、私は怨敵を倒すためにここにいる。貴方が倒れても、私が奴を討ち果たす。それは、信じてもらって構わない。だが、そのための道の上に貴方がいるのならば、私は容赦はしない」


 「『白の教団』と積極的に対立するつもりはないよ。今のところは、だが」


 「それが確認できただけでも、十分な収穫だよ。そろそろ、引き上げるとするよ。貴方が入れてくれたコーヒーは、初めて飲んだがとても美味しかったよ」


 思えば、会話らしい会話などそれほどしていなかったように思う。彼は、息子である、新城明を大切に思っていてくれたのに、だ。

 

 「お粗末様でした。息子とも、こんな風に話せればいいのだが、世の中そう上手くはいかないものだな」


 「年頃の息子さんなのだろう? 単に反抗期なだけで、そのうち収まるさ。少なくとも俺から見た貴方は、いい父親だよ」


 「世辞でも嬉しいよ。機会があれば、また、コーヒーを飲みに来るといい」


 「ありがとう。貴方にもAIの加護のあらんことを」

ブックマークをつけていただいた方にこの話を捧げます。

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