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鏡写しのダブル  作者: 近衛
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神代鏡

 これはまだ、新城明がアティドになる前の話。

 彼と共に仮想の奥を目指していた途中、『黒の旅団』の首領の地位を継承したニクム・ツァラーと戦闘状態になった。

 新城大地をマクト・ロートシルトが殺し、そのマクトを新城明が殺し、マクトの腹心であったニクム・ツァラーが今度は新城明を殺した。

 実力の差はそれほどあるようにも思えなかったが、天宮水月を庇い明が敗れ、動揺した水月もすぐにその後を追った。

 事が起きた瞬間に、一歩外から見ていた私こと、神代鏡は逆に冷静だった。単なる意趣返しの繰り返しといえばそれまでだろう。

 一瞬遅れて状況を理解して、その直後に激情が全身を駆り立てていった。

 後先なんて一切考えない、滅茶苦茶な速攻。

 『倉庫』から全武装を開放、全てのビットで敵を包囲、自身の近接武装をアビリティの『磁界領域』で無理やりミサイルウェポンへと変える技、『エクスカリバー』を至近距離から連続で打ち込み続ける。

 数瞬前までぼろきれのようにだった相手は、即座にAAの構成を再構築し何事もなかったかのように再生し、何度崩れても即座に再構築される。

 別段苦痛を与えたい訳ではないが、相手のイメージによる再構築による回復を無効化するにはそれ以上の速さで攻撃し続けるかコアユニットを正確に射貫くしかないのだ。

 コアユニットの位置を何度変えようが、『神の眼』で見えている私には何の影響もないはずだが、そのアドバンテージを以てしても仕留めきれないこの状況は相手の狂気を物語ってもいる。

 ニクム・ツァラーという相手は、戦闘における直感ともいうべきものが異常なまでに高いのだ。

 致命的な一撃を叩き込むには、この至近距離ですら遠過ぎる。

 だが、これ以上近づくのは自らが挽き肉になりにいくようなものでもある。


(防御なんて無視、ひたすらに攻撃を続けて、大技を仕掛けるしかない)


 激情とは裏腹に永延と繰り返してきた戦闘行為は、勝つ為の筋道をはじき出す。当たれば即死の攻撃に防御など考えている余裕などない。全て回避してその上で攻撃、否、もう、命などいらない。

 ただ目の前の相手を殺せればそれでいい。


 (生き残るなんて温いことを言っていては勝てない、なら、何を犠牲にしてもここで仕留めるしかない)


 実質的には単なる特攻でしかないが、ここで選んだ彼女の行動は結果的に最適解でもあった。手持ちのユニークウェポンと空中に散らばっている明と水月の武装も含めすべての武器を『暴君』でビット化して自らとその敵を包囲する檻にする。


 (『深紅の水蓮』で攻撃中に自身を弾丸として『エクスカリバー』で特攻なんて我ながら無茶なプランね、はは)


 ウィザードのソードビットで全方位した敵を串刺しにする『深紅の水蓮』、無数の刃が敵を串刺しにするその瞬間に敵に同時攻撃を仕掛けるなど狂気の沙汰だ。


 (そもそも『深紅の水蓮』自体、自身の鎧であるビットの防御を捨てて攻撃に全振りした行動だ。流れ弾ですら死ぬのに自分自身が突っ込むくらいなにも変わらない、か)


 「貴方を超える、今日、ここで」


 ふと、出てきたのは惚れていた相手の言葉。

 『ARM』による自動対応行動を利用した技の再現では、遅すぎる。

 これから発動する全ての動作を瞬間的に並列に思考する。

 球体状に包囲した武装をわずかにタイミングをずらして、数百にも及ぶ刃や弾丸を順次射出し意図的に逃げ道を作る。

 包囲の穴に気付かれた、その瞬間にさらなる追撃として剣の雨の第二波を陽動とする。

 散発的に飛んでくる攻撃を、敢えて同じ座標軸上で防御をしていた自分を『転送』により『エクスカリバー』で事前に設置しておいた射出用の砲台にセット。

 相手が回避や防御を取った瞬間に神速の斬撃で相手を切り裂いた。


 「……一体何手先まで読んでいたんだ、化物め」


 「その化物じみた攻撃の嵐を最後の最期まで読み切っていた貴方にだけは言われたくないわね」


 至近距離での自爆とも言えるような特攻の果てに、もぎ取った薄氷の勝利。

 首領を失い、順次撤退していく『黒の旅団』。

 彼らもまた、意趣返しに来るのだろう。

 浮力を失い、崩れ落ちた黒いAAが大地に倒れ伏し、その頭部に更に剣を突き立てる。

 システム的に確実に破壊されているはずだが、殺しきれた気がしない相手を裁断し、戦闘終了のアナウンスと共に、デジタルデータが霧散していく。

 AAの姿を維持できないほど被弾した鏡は、その場に倒れ伏す。


(まともなやり方では勝ち得ない相手に相討ちなら最善の結果だったのかな)


 「貴方が死んだら、何の意味もないじゃないの……」


 そして、ニクムは彼を慕っていた私と相討ちになり、データ上は生きていた私はそこで力尽きた。

 意識を失う直前に突如現れた黒木愛、はこういった。


 「同じ相手を愛したよしみで、やりなおさせてあげましょう」


 私達の仇を討ってくれましたね、などというような声も聞こえた気がするが、自らの死を否定できないほど痛めつけられた私の意識はそこで消失した。


***




 (転生、いや、データの置換か。都合よく入れる肉体がないから自分の肉体に二重人格として潜んでいてね、って)


 ぼやけた視界映るのは、母さんと父さんか。

 正直印象の薄い相手だ。

 神代鏡として生きていた、と思っていた頃は気を引くことに必死であったが、それは逆にこちらからアクションをしないと、相手は何もしてこなかったともいえる。

 結局、自分は愛情に飢えていて、その対象が親から彼に変わっていった。

 彼こと新城明は、この世界の女神ともいうべき存在である天宮水月からも選ばれた相手だった。選んだ相手が彼女と同じだったのは運がよかったのか悪かったのかはわからない。

 だが、彼が死ぬその瞬間に、同じ相手を愛したよしみでこうしてやり直しをすることができるのは、奇跡ともいえるだろう。

 

 (恋敵が女神とは、散々ねえ。それなら私は、横槍を入れる魔女とでも言ったところなのかしら)


 現状彼女がつかめている情報としては、シロエが本体で、その分体として天宮水月、や自分自身をここに送り込んだ黒木愛などがいる。シロエには悪いが神代鏡としては、別段アハリ・カフリの撃破には興味はない。

 敵として立ちはだかるなら戦うつもりもあるが、直接的には関わりのない相手でもある。


 (私Aと私Bみたいな形では自我融合でもしてしまいそうだし、便宜上でも名前はあった方がよさそうね。今ここに在る自分の人格が欲しているのは未来の新城明だし、現在の肉体側に付随する神代鏡が欲しているのは親の愛情だ)


 意識の共存。

 自分の内側から話しかけられるかのような異常な感覚に戸惑っている自分。


 (彼女自身の影、黒衣。クロエとでも名乗っておくかな。私自身が不幸になるのなんてなんのメリットもないし、二重人格でその意識が同時存在して対話することができる、とでもいうことにしておきましょう)


 まくしたてるような連続した思考。だが、幼少期の神代鏡には、その半分も理解できていない。

 だから、彼女はこういった。


 (私は、貴女の中に在って、貴女を助けるもの。貴女が願うときに願う力を与える者よ。そして、貴女自身の可能性でもある)


 うつろな瞳には、両親が映り。

 両親もまた、眠そうな目をした娘をみてほほ笑む。


 (要するに、貴女が困ったら呼びなさいって、ことよ)


 睡眠によって意識が途切れていくのだった。

 

風邪にて本格的にダウンしてました、更新遅れてすいません。

まあ、こちらの方を呼んでいる方はあまりいないと思いますが謝罪をば

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