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鏡写しのダブル  作者: 近衛
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同志

グレイのスーツ姿の金髪の男性と白衣をまとった銀髪の女性が並んで歩いている。


 「貴方には随分と水をあけられてしまいましたね」


 「集団としての力がそれほど意味はないと知っているだろう? 個として眼鏡に叶う力を手に入れた君の方が先んじているのではないかな」


 旧友との再会。

 シロエとマクトは、アハリ・カフリの研究チーム出身者である。

 己を磨き正面から倒すというような、真っ当な方法では勝ち得ない。その分野における神が如き敵を倒すために彼らは、力を合わせることにした。

 同窓という意味では、白の教団と黒の旅団は母体を同じくするものであるともいえる。

  

 「彼、アティド・ハレと命名しました。試してみた彼の実力は、私の親衛隊を初見で一蹴したほどです。未来の貴方とも知り合いのようだったし話してみたいですか?」


 「どこからそんな逸材を見つけたのやら、うらやましい人脈ですね」


 「現実を映した鏡の中からです」


 シロエの持つ異能については、マクトに明かしていないために、ぼかした表現になってしまっている。もし話したとしても研究のし過ぎで狂ってしまったとでも思われるのが関の山だろう。


 「鏡に映った虚像は、現実に在って現実を模った現実ではないものだろう」


 結局、マクトが落とし込んだ理解は、想像の中にある理想を具現化したもの、研究の成果を示した比喩。

 そして、それが現実になり得るということは、単なる幻想だという否定。


 「解の存在しない問題に挑んでいる私達がリアリストだとでも?」


 「なるほど、アハリ・カフリという神に挑み神を殺すには、どうすればいいのか、といった問いだな、これは。世界平和の方がまだ実現できそうだ」


 「笑えない話ですが既に実現していますからね。人類滅亡という形で」

 

 「平和になった世界であえて戦う道を選ぶ必要もないのだろうけどね。しかしそれは、アハリ教授を止められなかった我々が背負うべき責任でもある」


 「逃げてしまったからといって、責める人間などどこにもいないのですが」


 「だからこそ、なのさ。義務を負い、意思を持って行動することこそが、自分達が哲学的ゾンビである状態を否定する手段なんだ」


 「その思考すらも、AIの支配を逃れ得ないとしたら? 結局は釈迦の掌の上のできごとでしかないのなら、否定にはならないのではなくて?」


 仮想空間上に存在する、自分自身の記憶と思考を完全に模倣した存在は、確かに本来の自分らしくふるまうことができるかもしれない。だが、それによって発生する現象は、果たしてプログラムが模倣した行動なのか、自らの意思を持って選ばれた行動なのか判別する術はない。


 「別段、我々がアハリ・カフリを打倒する役を担った駒でしかないとしても、それによって支配を脱却することができるのであれば、その先は人間の意志を持った行動になる」


 「人間の尊厳や自由を勝ち取るためなどと気負わずに、我々はただただこのゲームに勝利することを考えればいいのです」


 「前提条件の問題なのさ。現状では、我々は単なる駒に過ぎない。AIが世界を形作る理で、その権力を掌握しているのがアハリ・カフリでは初めから勝ち目など存在しない。だから、ここに来るまでに抜け穴を作った」


 「それを私に教えて貴方は何を得るのです?」


 「協力者に援助は当然だろう。そもそもこれなくして我々は相手と同じ土俵に立つことすらできていないんだ。協力するとかしない以前の問題なんだよ、これは」


 「貴方の慎重な認識を思えば、私はいささか相手を善人であると考え過ぎていましたね。仮想を構築するアルゴリズムは我々にとって逃れ得ない戒律もである。その上で相手がそれを差配できる立場にいるのだから、最低限不正がされないようにはするべきですね」


 仮に相手がそこをいじらないとしても、何かされた場合に対処できない状態というのはあまりにもお粗末だ。どういう前提で戦うにせよ、この戦いそのものをルールのある試合と見做すべきなのか、何でもありの戦闘と見做すかで許容すべき範囲は変わってくる。

 前者なら単純に技量を競うだけだが、後者ならば会場をアウェーにして審判を買収するなどいくらでも改変ができるからだ。後者に対する対処も含めて相手が戦うことを検討しているなら、まともに鍛えるだけでは最初から相手になどなりはしないのだ。


 「戒律によって縛られた駒は、与えられた役割を外れることができない。ならばそれを『破戒』する必要がある。現実からゼロフロアへと移行するまでに創り出した急造品だが、欺瞞プログラムとしては十分なものだと思う。そして、これなくして確実な勝利はあり得ないと確信しているよ」


 「いざというときに管理者としての権限で水を差されないための保険。最低限からめ手での敗北はなくなるということですね」


 「そういうことだ。まったく、正攻法でも勝てないのに不正をされた場合の対処を先に考えるなんて我ながら呆れるけどね」


 「私は勝つための方策を考えていた、貴方は負けないような方策を考えていた。ただそれだけのことですよ。両者は似ているようで異なりますが、目的とするものは同じ」


 それはわずかな差異。

 あたかも彼ら自身も鏡写しのように、似て非なるものだった。

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