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伊賀忍者・城戸弥左衛門の冒険  作者: リキ
忍者がこっちにやって来た!
7/21

7 連邦の戦士

※この話は女兵士視点です

『パチッ、パチパチ』


 私は、焚き火の木が()ぜる音で意識を取り戻した。


 ゆっくりと目を開くと、目に入って来たのは焚き火の炎。そして炎の向こうには、岩に腰掛けて火を見つめてる人がいる。

彼の姿がオレンジ色に闇に浮かんでる。その顔をじーっと見てる。全然知らない人だ……


「あれ?、私、どうしたんだっけ?」


 ぼーっとしたまま、働かない頭を無理やり活動させて、記憶を逆に辿っていく……


「えっ!!」


 何があったかを思い出して、体を動かそうとすると顔の横に地面があった。私は横になってたみたい。

 慌てて体を起こして、ズサササァツっと、後ずさる。パニック!!ペタペタと自分の体を手で触って確認した。あ、服とか無事みたい。でも、


「痛っ」


 ズキッっと足に痛みが走る。そういえば足を怪我してた。でも傷をみると手当がしてある。飛び起きてからずっとパニックでバタバタしていると、彼が岩に腰を下ろしたまま、こちらを見ていた。


「あ、あなたはいったい……、王国の兵士ではないのですか?」


 なんとなく、状況は希望的観測を抱いても良さそう。彼に危害を加える気はないような感じだし……でも念のため確認しないと!


「王国というのは、其方(そなた)の国か?それとも其方(そなた)を殺そうとしていた奴らの事か?……私はどちらの国の者でもない」


 よかったぁ!とりあえず敵じゃない!でもこの地域(あたり)の事情をよく知らないみたい。落ち着くと彼を観察する余裕も出て来た。


 服装は厚手の服、鎧下(ギャンベソン)みたい。それに革のズボンに靴。騎士って感じだけど、盾や武器は持ってないみたい。


 歳は20歳は超えてるよね?あ、黒髪に黒目って珍しぃ!連邦じゃあまず見ないわ……瞳もまっ黒、わ、まつ毛長ーい……すごくかっこいい……。


 思わず、観察という名の「いい男チェック」が入ってしまった。


「ところで、そろそろ礼を言っても(ばち)は当たらんのではないか?ここまで運んでくるのは(いささ)か骨が折れたぞ?」


 彼は座ったまま重そうな荷物を持って、フラフラ歩く真似をした。恥ずかしくて、顔がカッと赤くなった。『私そんなに重くないもん!!』と、心の中で抗議する!


 でも彼が、「冗談だ」と笑った顔につられて、自分もつい笑ってしまった。それでやっと、肩の強張(こわば)りが解け、はぁーっ、長い息を吐けた。


 私は居住(いず)まいを正して彼に頭を下げ、正式の礼をする。


「お礼が遅れ申し訳ありません。私はミノス連邦が一国、風の国マリ=エラ、東部方面駐留部隊所属のディアーナと申します」


 そう自己紹介をすると、彼の目がじっと自分を見つめて来た。もしかして、私がミノス連邦の兵士って気づいてなかったのかな?もし、王国兵じゃなくても敵対する人だったりしたらどうしよう。でも、敵意のような感じはしない。まるで瞳の奥まで覗かれているような、それでいて不安を感じさせない柔らかな視線


「私はルイス。ルイス=フロイスだ。ルイスでも、フロイスでも好きな方で呼んでくれて構わない」


 (ルイス)が自己紹介を返して来た。


「ルイス……さん。あの一体何があったのか教えていただけますか?」


 そう、尋ねるとやや時間があって……


「……どこまで覚えている?先に何があったか教えてくれないか?その続きから話そう」


「あ、はい。えーと、私達は通常任務として国境近辺の偵察を行なっていました。あの戦闘のあった森も私たち風の国の領土に含まれています。この辺りは辺境で村や重要施設からも離れているのですが、遺跡が点在していて、たまに遺跡荒らしとかが出るんです」


 自分たちの軍務の話だけど、命の恩人だし、機密って訳でもないからいいよね?


「私たちが、ある遺跡の近くに差し掛かった時、突然襲撃を受けました」


「あの甲冑の者達だな?」


「……はい。王国、えと彼らは”イシス王国”という国の兵達でした。完全武装の騎士を含む正規軍です。どれだけの数が入り込んだのか分かりませんでしたが、少なくとも100は下らないかと……。私たちでは全く太刀打ちできませんでした」


 思わず下唇を噛んだ。国境監視が任務の私たちは10名ほどのグループで行動し、武装も正規の騎士とは程遠い軽装しか持っていない。数の上でも、武装の上でもまるで勝負にならなかった。


「私たちは戦闘を諦め、ここから離れた駐留部隊の本部に報告する為、馬を走らせたんですが、追いつかれてしまい……」


 後半は声が小さくなってしまった。殺された仲間、あとわずかで自分も死んでいた事を思い出すと、悔しくて涙が出そうだった。


「と、とにかく、急いで連絡を取らないと!」


 私の任務を思い出し、立ち上がろうとしたけど、傷の痛みで転んでしまった。「いっ」


「無理だ……その傷浅くはない。無理に動けば化膿し、足を切り落とす羽目になるぞ」


 彼が静かに声をかけた。その声はまるで子供を諭すような優しさが含まれていたけど、言葉の意味はゾッとする。


「くっ、ポーションさえあればこんな傷」


 ー 魔法のポーション ー


 それは魔法の力で傷を癒す薬。錬金術師達が作成するその薬は下級の物から、失った四肢を再生させるような上等なものまで存在する。

 けど、下級の物でも私の給料でホイホイ買えるようなモノじゃないし、下っ端の私たちに普段から支給されるほど安いものじゃない。でも、いざという時のために駐留部隊の本部には備蓄があったはず。しかし、この傷では本部までたどり着くことはできそうもない。


「ぽー……ぽーしょん?話からすると薬の(たぐい)のようだが、持っていないのか?」


 ルイスさんが尋ねて来た、うぅ、貧乏なのが悪いのよ!


「はい、私たちのような末端の兵士が持てるようなモノではありません。彼ら王国の兵達なら持っているかもしれませんが……。王国はずいぶん魔法が発展していますし、」


「ふむ、よく分からんが、奴らが持っているものなら、この中にあるかも知れん」


 というと、ルイスさんは立ち上がって、ベルトから鞄を外して私に渡してきた。


「え?」


 受け取った鞄の中を見ると、水筒や食料に混じって、目的のものがあった!


「こ、これです!これがポーションですっ!あの、これっ!」


 興奮して声が(うわ)ずってしまった。


「奴らの死体から頂いた。必要なら使ってくれ」


 なんていい人っ!ヤバいっ!めちゃヤバいっ!泣きそう!


「い、いいんですか?」


「拾い物だ」


「あ、ありがとうございます!!」


 私は瓶を開けると、ゴクゴクと一気に飲み干した。体の中が暖かくなり黄色い光に包まれて、傷口がみるみる塞がっていく。それだけではなく疲労や精神力も充実していくのがわかる。


「これ、高いやつだ……」


 傷を癒すポーション、”ポーション・オブ・ヒーリング”にもグレードが存在する。運のいいことに(ルイス)が持っていたものはかなり性能(グレード)の良いものだった。

 (ルイス)も知らなかったのか目を丸くして「すごいものだな」と呟いている。なんか申し訳ない気持ちになった。


 そういえば聞かなきゃいけないことを忘れてた!


「そ、そうだ!それで、私はどうなったんですか?それとルイスさんは一体何者なんですか……」


 私は聞きたいことを一気に聞いた。一度に質問してしまったからか、ルイスさんは少し困った顔をしてる。

 でも、そんなルイスさんを見て『はぁ、困り顔も整っているなぁ。かっこいい人はどんな表情もかっこいいんだぁ。私顔赤くなってないかな?大丈夫かな?』と関係ない心配をしてしまった。


 そこから聞いた話は、やっぱり助けてくれたのはルイスさんだという事だった。ルイスさんは北に向かう旅の途中、国境近くの川沿いを馬で移動していたそうだ。そこに、金属を打ち合うような音が聞こえて来たので、恐る恐る近づくと、私たちが戦っている場所に出くわした。運悪くルイスさんの馬は、私たちの戦いの流れ矢に驚いてルイスさんを振り落として全部の荷物と共に逃げてしまったらしい。


 ルイスさんが見つからないように物陰に隠れているところに、私が逃げ込んで来て倒れた。殺されそうになっている私を見て咄嗟に大声を出し、注意を引きつけてくれたそうだ。

 随分危ないことをしたようだけど、ルイスさんは山間(やまあい)の村の出身らしく、敵を山道で撒くのは”朝食を食べる前”だと言ってた。よく分からないけど、多分簡単という意味だろうね。


 その後、ルイスさんは危険を承知で戻って来て、私を担いで脱出してくれたそうだ。淡々と語ってくれたけど、これって私の命の恩人ってことだよねっ!運命(ディスティニー)だよねっ!


 ルイスさんの身の上も少し語ってくれた。ルイスさんの村は迫害を受けた一族の隠れ里らしく、他の地域との交流がほとんど無かったそうで、この辺の国の事情とかも全くわかってなかった。それで、不思議な目や髪の理由が分かった。ルイスさんはそんな村の暮らしを捨てて、”ムシャシュッギョ”の旅に出たらしい。多分”冒険者”になったって事だと思う。


「命を助けて頂いて本当にありがとうございます。この御礼は必ずさせていただきます!ただ、あの……すみません!ルイスさん!私すぐに任務に戻らないと!!」


 きちんとしたお礼もできず、離れなければならないのはすっごい心残りだけど、とにかくこの事を駐留軍に知らせないと大変な事になってしまう。私は、ルイスさんにお詫びをしてすぐに準備を始めた。


「どうするんだ?」


「王国の侵攻を本部に知らせに行きます!間に合わないかもしれないけど、急がないと!」


 自分が気を失っている間に、駐留部隊との戦争がもう始まっているかもしれない。それでもっ!……そう言うとルイスさんは……


「急ぐのであれば、馬がいるな……、ならば私が馬を調達してこよう。その方が早いはずだ」


「え、調達ってどこから……?」


「もちろん、奴らからな」


 そういうと、ルイスさんはにっこりとして、右手の人差し指をクイクイと曲げる仕草をした。

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