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伊賀忍者・城戸弥左衛門の冒険  作者: リキ
プロローグ
4/21

4 魔王の力

 城戸弥左衛門は牢で目を覚ました。


 あの暴発により気を失っていたらしい。気が付いた時には周りに彼の仲間はおらず、一人岩穴の牢獄に囚われていた。

 気がつくとすぐに、弥左衛門は自分の身を調べ始めた。銃を始めとする武器防具の類、薬物や、その他の道具を仕込んだ衣類は全て無くなっており、下着のみをつけた状態だった。

 体に異常はない、気を失ってから何かされたことはないようだ。暴発によって生まれたであろう顔の火傷の傷があっただけだった。


 何が起こったのか、ゆっくりと一つ一つ思い出す。


 (銃が暴発(ぼうはつ)した)


 (……いやそれは最後の結果だ。その前に何がった?そう、あの時、我ら伊賀忍軍が作り出した絶対の「殺し間(ころしま)」に入った。万一生きていたら止めを刺すつもりでだ。なのに信長は立っていた。口元を歪めニヤリと笑い、生きて立っていた。それだけではない、果たして信長の体は"光"を放っていたか……)


 (いや違う!よく思い出せ!そう、光っていたというより、何か光の膜のようなものに包まれていた。まるであれは(まゆ)だ。それに、光る梵字(ぼんじ)のような文字が浮かんだり消えたりしながら信長の周りを回っていた)


 (あの光は、苔か?、それとも虫の体液か?、菌類にも光る種類は多い。しかし所詮は幻。あの光自体に危険性は感じなかった。注意すべきはそこではない。信長はスっと右手を前に突き出した。その時何かを呟いた?)


 (密教の真言(マントラ)でも、早九字でもない。異人の呪禁(じゅごん)か……、知らぬ言葉だった)


 会話や仕草、小道具を用い相手の意識や視線をそらす技術は、忍者も熟知している。現代では手品師がよく使う「ミスディレクション」という技術だ。故に信長がどんな突飛な言動をしていようと、忍者が注意力を奪われる事はないはず。にもかかわらず弥左衛門は<何か>をされたのだ。


 あの時どんな動きにも反応する構えだったが、信長は言葉を発する以外、特に動きはしなかった。ならば(せん)だ!相手の動きよりも早く機先を制す。しかし、引き金を引いた瞬間、銃が暴発した。


 忍者は合理主義であり、現実主義だ。神仏の加護だの、妖術だのを使えるように見せる術には長けているが、全て種がある。(実際はその種(技術)がこの時代においてオーバーテクノロジーではあるのだが)


「……分からぬ」


 目が覚めてから何度目かの「分からぬ」を呟いた。


--


 弥左衛門は壁に向かい座禅を組みながら 頭の中を整理していく。今できるのは考えることだけだ。どのような状況であろうと思考を止めない。それは忍者として植え付けられた本能であった。


 一時間ほど後、遠くから人の歩く音が聞こえてきた。弥左衛門は”耳”ほどの異常聴力は持たないが、それでもその能力は常人をはるかに凌駕する。

 その歩く音の主がほどなく弥左衛門の眼前に現れた。その男は弥左衛門を睥睨(へいげい)し、氷のような眼差しで立っている。何物をも畏怖させるようなその眼光、目に見えるように立ち上るどす黒いオーラ、何かこの世の災厄を人の形にギュッと圧縮したような不安感。その存在感は弥左衛門をして人にあらざるものを想像させた。


「久しいな」


 その男は、弥左衛門に声をかけた。


「織田信長……」


「"織田前右府信長おださきのうふのぶなが"である。貴様等には第六天魔王の名の方が通りがいいか?」


 信長は、傲岸不遜に笑いながら答える。命を狙われた怒りなど微塵も感じぬ稚気(ちき)を含んだ物言いである。

 かつて弥左衛門は織田信長に謁見したことがあった。前回の暗殺失敗のその後、彼は大胆にも商人に化け、信長の本陣に菓子折りを持って出かけたという。


「その手練手管、おそらく伊賀か甲賀の忍びでございましょうな、蛇の道は蛇と申します。私も商売柄、伊賀甲賀にも伝手(つて)がございましてな。いかがでございましょうか?私の情報網を使って、お調べ致しましょう。」


 と信長に直接拝謁し、しかもその「犯人」の捜索許可まで受けたというのである。豪胆と言う他ない。だが、今ならわかる。あの時弥左衛門が謁見したのは信長本人ではないと。おそらく影武者の一人であっただろう、本人はどこか別の場所から自分を観察していたのだと。あの時感じた、どこからともなく漂う絡みつくような気配の正体を知った気がした。


「見事な腕前だな、乱破。いや、"城戸弥左衛門"」


「なぜ俺の名を知っている?」


 忍者にとって敵に名を知られる事は恥辱である。弥左衛門は仲間が自分の名を漏らしたとは考えていない。彼らの中に、情報が漏れる前に自ら死を選ばぬものはいない。彼は牢の中で目が覚めた時、仲間が一人もいないことを不思議には思っていなかった。忍者にとって情報の価値は命より重い。任務が失敗したのであれば即座に全ての証拠を自らの命と共に消し去るのだ。弥左衛門の捕獲は任務の失敗そのものである。弥左衛門も自らの腹に仕込んだ高性能爆弾をいつでも爆破できるように奥歯に結んだ腹の爆弾につながる糸を確かめた。いざとなれば、一瞬で糸を手繰って爆破させ、信長もろとも命を絶つ用意をしていた。


「何、頭の中を少し読んだだけのこと。お前の仲間からな」


「ありえん!」


 弥左衛門は思わず叫んだ。忍者は薬物や暗示に耐性を持つように訓練されており、生半可な手段で口を割る事はない。そうして時間を稼ぐ間に、いくつもの手段を用い自分の命を絶つのだ。

 たとえ、両手両足を縛られ猿轡(さるぐつわ)をされていようと自殺することができるようにも訓練されている。


「我が"力"に不可能などない。」


 信長はそれが当然と言わんばかりに(うそぶ)いた。


「猛毒、高熱、衝撃波に銃か………随分念入りに殺してくれたものだ。すごいぞ、"人間"。本当に大したものだ。」


 信長は楽しそうに指を降りながら話し始めた。


「お前達がこの世界の”忍者”と言う存在なのだな……非常に興味深いぞ。この世界で我が眷属の召喚ができるレベルの人間がいるとはな、嬉しい誤算というやつか。」


 そう言って、信長が指を鳴らすと、一瞬の光と共に目の前に一人の男の死体が現れた。見知った男である。


「鼻!」


「見よ、我が力」


 信長が右手を死体に翳し、また例の言葉の意味がわからない呪禁を詠唱し始めた。すると、死体がまるで糸に操られたよに胸から起き上がり始めた。

 体が大きく膨張し、皮膚は赤黒く変色し始め、腕が生え、頭からは山羊(やぎ)のような角が生え始めた。衣服はちぎれ飛び、上半身は鬼のように、下半身は四つ足の獣の後ろ半分のように変容していく。知っているものが見ればまさに(悪魔)と呼ばれる存在そのものである。しかし、弥左衛門にとっては怪異としか呼べぬものであった。


 すっかり変容した”それ”は、信長に片膝をつき臣下の礼をとった。信長は満足そうに頷くと、両手を広げて大いに喝采した。


「上級悪魔族が召喚可能とはな、これまでで最高の触媒だぞお前達!」


 あたりを震わせるような大きな笑い声が岩の牢獄に響き渡った。


「さて、お前は此奴らよりもさらに良い触媒になりそうだ!」


 弥左衛門は瞬間理解した。「危険」だと。この男が何をしたのか、何をするつもりなのかはわからない。だが、なんであれ”それ”をさせてはいけないと本能が理解した。人は危機に相対した時、瞬間的に生存本能が蘇る。しかし、訓練された忍者は、本当の危機に陥った時、死体すら残さずこの世から消滅する道を選ぶのだ。


 弥左衛門は信長が動くより前に素早く口の中に手を突っ込み、奥歯にかかる紐を引こうとした瞬間……


 突然ものすごい光の渦が牢の中に現れた。あまりの眩しさに思わず目を閉じた時、現れた光の渦に引きずり込まれた。まるで巨大な手で体を掴まれ引っ張られたような感触だった。

ようやく、プロローグが書き終わりました。できれば1週間に一度くらいのペースで書き続けたいと思っています。皆様の評価、レビューが励みになります。よかったら評価、レビューお願いします!

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