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伊賀忍者・城戸弥左衛門の冒険  作者: リキ
プロローグ
2/21

2 魔王暗殺計画

「魔王……」


 その言葉に込めた思いは、一言で言い表せるものではない。


 魔王とは・・・・・自らを「第六天魔王」と名乗る戦国時代最大の怪物「織田信長」その人であった。


 虚空に信長の容貌を思い出し、歯噛みした城戸弥左衛門は伊賀流忍者の中忍である。


 伊賀忍軍の一家である城戸家に生まれた弥左衛門は、幼き頃より、(しのび)としての厳しい教育を受けた。


 幼き頃より剣術、手裏剣、棒術、鉤縄術、格闘術は言うに及ばず、薬学、地政学、算術とまるで綿が水を吸うが如く技術や知識を吸収していき、十歳を数える頃にはすでに大人の忍に混じり活動をしていたという。


 弥左衛門が最も得意としたのは「謀術」と「鉄砲」であった。


 謀術とは、変装術、話術、など「騙し」のテクニックである。弥左衛門は易々と町人、武士、農民、高貴な者や乞食にまでなりすまし、巧みな話術や、演技力で情報を集め、対象に取り入り、接近し、籠絡していく。


 さらに凄まじきは鉄砲の腕の冴である。銃身に施条ライフリングなど刻まれていない火縄銃を使い、数百メートルも離れた場所からターゲットを確実に「暗殺」できたという。


ー-


 かつて、その業前(ワザマエ)故に、伊賀忍軍最高機関「評定衆」が弥左衛門に「信長暗殺」の任務を与えた事があった。


 「天下布武」の名の下に、自らに従わなぬ何人(なんびと)の存在をも許さぬ魔王・織田信長と、決して誰の支配も受け入れぬ伊賀忍軍の衝突は必然。織田軍は織田信長の次男織田信雄(おだのぶかつ)を旗頭に八千の兵で伊賀忍軍と対した。


 -結果、織田軍はわずか一夜にしてほぼ壊滅した。


 この時、伊賀忍軍の数はわずか百に満たぬと言われており、忍者の戦闘力の高さが(うかが)い知れる。

 信雄の敗北に激怒した織田信長はわずかな手兵連れて伊賀に入った。この情報を受けた評定衆は(くだん)の任務を弥左衛門に与えたのである。



 弥左衛門は見事な変装術で農夫に化け、信長を狙撃できる位置まで接近していく。信長の周辺にはわずかな手兵、見晴らしの良い川沿いの広場、射線を防ぐ遮蔽物もなく、まさに絶好の機会。弥左衛門は近くにあった木の陰に身をかがめ、鉄砲をまっすぐに突き出し狙いを信長に定める。一つ息を吐くと、冷静に引き金を引いた。


 ダーーーーーーン!


 落雷のような森に響く豪音があがり、信長の馬廻衆のあげる慌てた声、(否な)く馬たちの様子が見えた。


 (獲った……!)


 弥左衛門は確信した、確実に仕留めたと……


 常人にあらざる動体視力を持つ弥左衛門の目は、しっかりと自身の放った弾を肉眼で捉えていた。

 馬上の信長の心の臓めがけ文字通り矢よりも早く突き進む、その凶悪な鉛の(つぶて)が当たったと思った瞬間!


 パンッ!


 小さな音を立てて、信長の眼前で弾丸が砕け散ったのである。


(!!!!!!!)


 弥左衛門は驚愕に息をするのも忘れた。


 見た事をそのまま言葉にするならば、弾が勝手に『砕けた』のである。(かわ)されたのでもない、(はじ)かれたのでもない、信じられない光景であった。


 のみならず、信長は弥左衛門の隠れている方向に馬を巡らせ、この世に在らざる者のような凶悪な笑みを浮かべた。

 この距離で、巧妙に隠れている弥左衛門を見つけ、目が合うなど「あり得ない」話である。しかし、直感が知らせてくるのだ、「見られている」と……


 弥左衛門は一目散に逃げた。山を駆け上り、谷を転げ落ち、一秒でも早く、わずかでも遠くにと、逃げ続けた。生まれてから一度も感じたこともない恐怖にかられ、這々の体で逃げ出した。弥左衛門は里にたどり着くまで、一度も背後を振り返られなかったという。


 初めての失敗、そして恐怖に(おのの)いて逃げたという事実、全てが屈辱であった。


 (この借りはいつか必ず返す!どんな手を使っても自身の手で必ず決着をつける!)


 そう心に誓ったのであった。


ーー


「先の戦での敗北がよほど腹に据えかねたのであろう、今度は十倍の兵を連れてきよったわい。しかも信長自身が率いてのぉ」


 くつくつと、大猿(おおましら)のように全身を揺らして、頭領の半六は(わら)


「十倍……」


 弥左衛門は絶句した。前回の織田軍との戦にも当然弥左衛門は参戦している。味方に犠牲らしい犠牲も出さず、織田軍を壊滅せしめたのは弥左衛門をはじめとした腕利きの忍達の功績である。しかし、十倍となれば話は別。しかも率いているのが信長自身とあっては前回と同じにいくはずがない。伊賀忍軍全滅の可能性もある。


「弥左衛門、忍者に二度同じ失敗は許されぬ。信長を狩れぃ!!」


 すっくと立ち上がった頭領、音羽半六が弥左衛門を睨みつけ、裂帛の気合いで叫ぶ。弥左衛門とて異存はない。借りを返す好機である。いや、あの時からずっと心待ちにしていた機会だ。


 居住まいを正し、深々と頭をさげる。


「城戸弥左衛門、確かに承りました」


 二度目の暗殺計画が動き出した瞬間であった。


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